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【掬う】
拾った、人間の子供を。
目の前にいる男型をしている同類がそう呟いて、硝子はぽかんとした。何度か言われた言葉を繰り返し頭に考えて巡らせて、飲んでいた酒をだっぱりとこぼした。するり、と若葉しげる地面に吸い込まれた酒は跡形もない。

「マジ?」
「マジ」
「はー馬鹿なことしたね?急にどうしたの」
「…いやね、そんなつもりは?なかったはずなんだよ???てか、うちの貢ぎ物は食物でしょ?なのに子供が骨と皮だけみたいになって祭壇に縛り付けられてて???ビビり散らしたわけよ?帰る場所も生きる場所もないらしくてね〜?どういうことなの?みたいな、成り行き?」
「へぇ。そんな人間、礙之の信者にいたっけか」
「縛りつけた人間は隣町の、俺を信仰してないやつだったからね?まぁ、そのへんはちょちょいっと」
「当たり前だね」

信仰していない者が祭壇に侵入し、尚且つ決められた貢ぎ物ではないものを自己理由で勝手に置いていったことは罰を受けるに値する。
礙之は平和維持の神であるためか、他の神様よりは優しいので、作物の育ちが悪く数がない場合などの、なにかしら理由があれば他の貢ぎ物でも許可してくれるタイプだ。それ故に信仰は長く広く縛りも少ない。
しかし、今回の話は許される理由がない。口減らしに子供を生贄に、それも畑違いの神に、生贄にする前からご飯を与えていないことがわかる細身と小ささ、ぎょろつく目は常日頃から周りを警戒しているため…。平穏の神様とは相性が悪すぎた。
もちろん人間を貢ぎ物として得ている神様もいるが、神様のハーレムに入るか子供となるか生涯たった一人の番となるかは神それぞれだ。決して元から弱いひとのこを殺したり死なせたりする気はない。力加減を間違える場合はないとはいえないのだが、そんな気はないのだ。
礙之の目前にいる硝子も優しい部類に入る神様で酒を貢がれるタイプであるため、人間を貢がれたら貢いだ人間を礙之曰く「ちょちょい」っとしてしまうほどの嫌悪を自身が抱き、ゲェ、と顔を歪めた。

「というか、礙之を信仰してないやつとか、まだいたんだ」
「彼らは平穏を望んでなかったからな〜」
「すがられたらどーしよ」

身勝手な奴らほど平穏や平和を望まなくとも、治癒や治療に縋ってくる可能性がゼロでないことを思い出し硝子はまた杯をいつの間にか満たしていた酒と一緒にため息を飲み込む。

「その時は突っぱねたらいいよ。神様は気まぐれだからさ、硝子もそうでしょ」

至極当然と言わんばかりの声色に、それもそうか、と少し笑う。
神は気まぐれで儚げで強く弱く汚く美しく傲慢だから、なんら問題はない。

「で?どんな子供?」
「骨太そうだから逞しくなるよ!」
「クソ情報かよ」










【物珍し】
「まぁ、なんてかわいらしい」
「あらあら今日はちいさきものと一緒なのね」
「へぇ……それが…」
「物好きですね礙之」
「人間を娶る気になったのか?」
「はは〜ん?さては鞍替えしたな?」
「私もほしいわ〜〜〜」

「………」
「そんな驚くなよ。みんな物珍しくてトウジをちらっといっかい見たいだけなんだ、すぐにおさまる」
「……」
「なんだよ〜そんな顔しないでよ〜一回は顔見せしてやんないとうっさいんだからさ〜」
「………」
「んんんんっかわいいな〜」
「ヨ!」
「オッ!久しぶり〜今日はどっち?」
「悠仁だよ!周りの皆もどっか行かないだろ」
「いやぁ前科あるからね宿儺も悠仁も。おさえててもわかっちゃうから、それ楽しい?」
「………そうだな、馬鹿らしいが暇潰しにはなるな」
「はーーやっぱ宿儺じゃん怖」
「文句なら会合を忘れていた小僧に言え。なぁに、ジジイどもに顔を見せたら帰る、それまでの余興だ。」
「俺もトウジみせたら帰るよ。どう?この後硝子に顔見せ行くから酒盛りになるんだけど、くる?」
「ククッ検討しておこう」









【共生】
「貴様、神と生きる気があるのか」

トウジは言われた言葉にぱっと顔を上げて酒を舐めていた二面の神を視界に入れる。礙之曰く「今日は宿儺だよ」とのことなので、宿儺は、トウジを見ずに硝子の神域である水の張った趣のある庭をツマミに酒を舐め喉の奥で笑う。

「ん?しゃべれないのか?」
「………関係ないだろ」
「はははっ生意気だな」

神にその口か、と宿儺はまた笑い、空の杯を少し傾けるとじわりと酒が杯を満たす。
どういった原理なのかはトウジにはわからないが、何度か連れてきてもらっているため隣で無言で酒を浴びるように飲んでいる女性体の神である硝子の神域でおこなわれている無限に湧く酒を使う飲み会は見慣れたものだ。トウジにはまだ早いからと礙之から無限にお茶がわいてくる湯飲みをもらったので、その酒は飲んだことはないし、それが人間のトウジにどのような影響を与えるかも知らないが、礙之がやめときなと言うから従っている。ただそれだけであるため、礙之が言わなければ飲んでいただろう。
その酒を遠慮なく飲む宿儺はやはりトウジを見ないままである。

「あれは貴様が思っているほど下位ではないぞ。拾われた貴様が預かり知らぬかもしれぬが、共生できると思い上がるなよ」
「人間の子供にきっつい言い方」
「解らせておいた方が人間のためだ」
「お?優しいのか?」

話に混ざってきた硝子はカラカラ笑いながら杯を傾ける。こちらはトウジを見ているが、その瞳にはなんの色もない。声は宿儺を諌めているが本気ですらないし興味もないのだ。人間の子供、価値があるかもわからないそれに割く心を持ち合わせる神はここにはいない。

「ま、共生は諦めな」
「生きる時間も費やす心も違う者と共生しようとする方がおかしいんだ。あれは気にせんが、周りはそうもいかないだろうなァ」
「楽しんでるな?」
「嗚呼、楽しんでるさ」

トウジのことなど眼中にない2人は浴びるように飲む酒をそのままに、心底おかしくてたまらないと先程の比でないほどに更に笑ってみせる。
2人もしくは2神が神だとは知っているが、好奇の目を向けてくる神とは違いトウジはなぜか恐怖がわかなかった。好奇の目を向けてきていた神にだってちょっと抱いたはずの恐怖を、目前の良くないであろう神から感じない。不思議だ、と思いながらも礙之との日々を否定されたような言葉に靄が溜まっていくようだった。
 
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