初めて彼女と出会ったのはまだランドセルを背負うガキの時、ヒナもタクヤも他の友人たちも都合がつかなくて辺りをうろちょろ冒険と称してはしゃぎまわっていた時。
ガキの思考なんて安直で、自分で勝手に「あそこまで走るぞ!」と決めて、オレは一気にスタートダッシュをし、盛大にこけた。なんてなさけない。ずべしゃっという音、顔も手も足も砂地に勢いよくダイブしてしまった痛み、あんなにはしゃいでいた心が萎えに萎えていくのを感じて涙が一気に目にたまる。起き上がるのも嫌になって倒れた姿をそのままに動かないオレ。何分そうしていたかはわからないが、痛みはジクジクと強くなるばかりで涙は止まってくれなかった。
そこに彼女はいた。おそらくむこうのベンチに座っていたらしい彼女は足音をたてながら地面にうつ伏せになるオレに近づき、「おきてる?」と声をかけてきた。
涙を見せなくなくて、痛くて、情けなくて、恥ずかしくて、砂がジャリジャリして額にこすれるのも気にせず頷けば、彼女はオレの右耳をくんっと軽く引っ張ってみせた。なにするんだよ!と声を上げる前に彼女の平坦な声がぽつりとおちた。
「じゃあ、おきれる?」
その平坦な、良く言えばクールな、悪く言えば無機質な声はオレの耳に入って、なぜか脳がチカチカして目の前がパチパチして今まであんなに痛かった顔も手も足も気にならなくなって体に力がわいてきて起きなくちゃと思って、ぐんっと勢いよく体をおこした。
「おぎた゛っ!」
涙声のまま叫ぶように宣言すれば、彼女は少し困った顔をしながらハンカチで顔についた砂地をはらってくれる。少しふれた指先が優しくて、でもヒナみたいにあたたかさはないそれをガキの俺は全く理解できないまま、ぼんやり彼女を眺めていた。
「じゃあ、立てる?」
「うん」
いつのまにか戻っていたジクジク痛む頭と手足に力をいれて立ち上がる。なんだかわからないけれどしなくてはという思いと、湧き上がる地面を踏みしめる力。ふらふらとしながらも立ち上がるとハンカチを差し出された。
「目の上、血が出てるからおさえて」
「うん」
「じゃあ、帰れる?」
「うん!」
全然「うん!」ではなかったけれど、なにかに突き動かされるようにオレはふんふん鼻息を荒くして家に帰って、母に心配されたことを覚えている。
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