「走れ!走るんだよ!ロクロウ!」
「わあぁああ??!!!!?!!!」
「やばいやばいやばい!はやい!」

知らないオンボロ母屋の中を出口もわからずひた走る。後ろから追いかけてくるのは私の前を走らせているロクロウ少年の父、だったものだ。確かなことはわからないが、あれは人ではない。人ではないなにかが少年の父に取り憑いたのか、元から人ではないなにかが父の姿を見せているだけなのか、ただ私たちが見ているまぼろしなのか、判断はつかないが、確かにわかることは逃げなければ私も少年も終わってしまうということだ。
足はひたすらに動かしているのに少年も私も大したスピードが出ていない。パニックに落ち入っている私たちが遅いのも、少年の歩幅も仕方ないとして、私の歩幅が小さいのが問題だ。そう、小さいのだ!私はれっきとした二十歳を超えた女だ、だというのに歩幅も私が自分で見える手や足も小さいのだ!声だって高い!小さい、幼い?そうだ、幼いのだ。意味がわからないが、なぜだか幼い。走っているため逃げているため、立ち止まるわけにも自身の姿をうつす鏡やガラスを見るわけにもいかない、だからわからないまま逃げなければならない。少年の父だったものは大人のはやい歩幅でずんずんと進んでくる。
頭は冷静になるのに、心臓が激しく唸りを上げるように鼓動を刻み体に煮えたぎる熱を与え続けている。

「うあ、あぁぅああ」

少しだけ後ろを見たロクロウ少年は更に涙をあふれさせて、声にならない音を口からこぼし、足を少しばかり縺れさせた。スピードがおちる。仕方なしに横に出てガッと力強く手を握り引っ張るように走る。スピードは戻る。しかし前はどこに続いているかもわからない廊下だけだ。

「奇声をあげたままでもいいから!泣いててもいい!早く!」
「でも!でも、パパがぁ…!」
「はやく!あんなパパとやらに捕まったらたぶん私たちは終わる!2人してああなるんだよ!嫌だろ?!はやくしろってぇの!」

ぐいぐい引っ張りながら走るしかない。できることなら逃げられるならば1人でたったか行ってしまいたい、行ってしまいたいが、父があんな姿になっていて泣いていてパニックになりながら生きているとわかる少年を放っておくほど非情には生きてないのだ。だから、生きるために、ふたりで逃げなくてはならない。




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「パパどうしちゃったの?コワイよ!」

ロクロウ少年の叫びが聞こえる。
戸を押しても押しても、大人の力には敵わない。ギギとやな音がして、もっと力を込めるが戸は閉じてくれない。少年も力を込めるが変わらない戸、挟まれていて今にもこじ開けてきそうな少年の父だったなにか。

「やめてよ!やめてよう!」
「くそっ」

父だったなにか、それから液がもれ、なにかが生え、うごめき、くらく、怖いもの。
ゾッとして力が緩まないように体ごと戸をおさえる体勢に変えるが、全然と言っていいほど戸の閉まりは変わらない。

「ろく…ろう…、よ…よんで……コイ…、こ…のイエは……ダメ…ダ………こわ…す…モノ……を…」
「パパァ〜〜!」

ロクロウ少年の叫び声とともに、父だったなにかから発せられた父の声が耳にこびりつくかのように聞こえた。
こわすもの、とは、なんだろうか。


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