16時、日が傾き空がほの暗くなってきた頃、一斉にオレンジ色の明かりが点った。
今日は年に一度のクリスマス・マーケットが行われる日。セントラル中の家族やカップルが訪れる人気イベントで、バザーの様に多種多様な店が立ち並ぶ。
さっき駅前の屋台で買ったレモネードを口に含みながら、雑踏に紛れ無線の指示を聞く──。
そう、こんな日も仕事である。
警備に当たるよう命令が出たのはたったの二日前で、何でも宗教団体とみられる者からテロ予告が送り付けられて来たとかどうとか。特別予定がある訳でもないが、今日くらい家でのんびり、クリスマス・キャロルでも聴きながら暖炉のそばで読書して過ごしたかった。
「ナマエ、あまり離れるなよ」
ネイビーのチェスターコートにアイボリーのハイネックニットを着こなした男がそう言い手を差し伸べてくる。ナンパのように見えるが、ナンパでは無い。
私はロイの手を一瞥し、空になったレモネードのカップをぽんと置いた。お目当ての物でないことが不服なのか、怪訝そうな顔でそれをクシャリと潰した。
「まったく平和平和。今ごろテロリストもアジトでターキーレッグ齧って仲間とポーカーしてるよ」
「なんだ、いつになくご機嫌ななめだな」
「人混み苦手だし」
「あぁそうだったな。・・・・・じゃあ尚更、はぐれないようにしないとな。」
半ば強引に握られた手は思いの外温かく、暖を取るには絶好だったので抵抗せずそのままにした。しかし、まだ数メートルも歩かない間に集まる視線、視線、視線の数々。あからさまにこちらを指さして耳打ちし合うオバサン達の鬱陶しいこと。せめて私服警備でなければ、流石の色ボケ上司も手なんか握ってこなかっただろうに。
「おう、そこのべっぴんさん!彼氏の分も安くするよ!」だとか、「ウェディングはまだ?ウチで挙げない?」だとか。極めつけは「安産のお守り売ってるよ!」と来た。クリスマスマーケットで男女が手を繋いで歩いていれば、そうもなるか。
「ひとつ貰おうかな」
「残念だけど、子供産めるのは女だけだから」
「誰が自分用と言った」
「あ、ほら。こっちの方が似合ってる」
ノームのような人型マスコットの背中にはデカデカと『出世』の二文字が。これはかなりご利益ありそうだ。
強引な店員に言いくるめられ会計をするロイの無線にブレダからの報告が入る。どうやら同じロゴの入った帽子やマフラーを身につけた集団がいるらしく、いよいよテロ予告も現実味を帯びてきたといったところか。
「わかった、そのまま中尉達と合流しろ。私達もすぐに向かう───・・・ナマエ?」
とはいえ、もう尻尾が掴めてるくらいなら私の出る幕は到底無さそうで。私は香ばしい匂いに誘われて彼の元を後にした。
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