02.Dear My Darling
「ノクティス王子の御誕生おめでとうございます」
その日初めて訪ねたルシス王国の首都インソムニアは、俺にとって全てが衝撃的だった。
立ち並ぶ高層ビルに、発展した交通機関、繁華街の人混み。すべてが故郷のテネブラエにはないものだった。ここ登城するまでの間、整備された高速道路を矢のように走り抜ける自動車の中から次々に通り過ぎるビルの看板を瞳で追っていた。
この都は騒がしく、誰もが生きることに急いている…そう感じた。
「本来ならば我が母がインソムニアへ見参するべきでしたが、公務のため私が代理に」
「あぁ、神凪の務めは何よりも優先すべきことだ。分かっている。寧ろ、嫡子である君が訪ねてきてくれたことに感謝しよう。遠路遥々よく来てくれた」
レギス陛下は落ち着いた声でそう仰った。
第二子が生まれたからなのか、以前よりも優しい顔つきになったように思える。
「ノクティスには?」
「はい。先ほどお会いしました。…不思議ですね。まだ赤ん坊だというのに、レギス陛下に似た部分とアウライア殿下に似た部分がはっきりと出ているように思いました」
「本当か?周りからは妻によく似ているとしか言われなくてな。レイヴス、君にそう言ってもらえて嬉しいよ」
「いえ。思ったことを口にした迄です」
「そうか、そうか。皆に自慢することにしよう。ところで、ななしには?」
突然に彼女の名前を出されて、心臓が跳ね上がった。息を飲み、言葉を発することが出来ずにいる俺を見て、レギス陛下は少し驚いたような顔をしたあと「ハハハ」と小さく笑った。
「あの、陛下…」
「すまんレイヴス。しかし、君は意外とわかり易いのだな」
「はっ?なぜ?」
陛下からそう言われ、思わず間抜けな声が出てしまった。
それを聞いて、また笑う陛下。
「いや、何故って…ななしの名前を出した途端…耳まで真っ赤だぞ」
「なっ!!」
俺は思わず自分の両耳を隠した。
先程よりも一層、頬が熱くなるのが分かる。
レギス陛下の隣に立つクレイラス宰相が、ぽかんとした顔でこちらを見ている。呆れたりしている訳では無い。恐らく先程までテネブラエの代表らしく振る舞うのに必死だった俺が、ななしの名前を聞いた途端、急に年相応に狼狽し出したのを見て驚いていたのだろう。
「ななしもレイヴスが来ると聞いて喜んでいた。是非あの子にも会って行ってくれないか」
「は…はい……」
その頃の俺は、なぜ彼女の名前を聞くだけでそんなことになるのかよく分かっていなかった。
己の幼さのせいだけではない。
ななしにはまだ、五本の指で足りる程しか会ったことがなかったからだ。
俺が8歳、ななしが7歳の頃の話だった。