はじまり1
315プロダクションのアイドルは仲が良い。よくそんな言葉を耳にする。
実際芸能界なんてドロドロしてるものだろうと思ってた私が考えを改める程度には、315プロダクションはその言葉の通り皆家族のように……は言いすぎな部分もあるけれど、他の事務所に比べて仲が良かった。
といっても、私はただの事務員なのでそこまで他事務所について詳しいわけではないのだけど。
さて、それを前提にS.E.Mというユニットの話に移りたい。
S.E.Mは元高校教師ユニットで、その肩書とは裏腹に奇抜な衣装と楽曲が目を引くグループだ。
3人とも同じ高校に勤めていて、3人でアイドルになるべく仕事を辞め315プロダクションへやって来た。
なのでメンバーがそもそもの知り合いという事もあり、315プロのファンの間でも特に仲が良いと表現される事が多い。
冗談交じりにファンの子達から「デキてる」なんて言われる事もしょっちゅうで、その噂の真偽を友人に尋ねられる度、私はやんわりと否定していたのだった。
が。
「ミスターやました、chu〜」
「はいはい、ちゅー」
コイツらホントにデキてますよ!!!!と、声高々に言ってやりたい。いや、言わないけども。
個室になっている居酒屋の一室で酔っ払い同士のキスを見ながら、私は盛大にため息を吐く。
この2人、酔っているからキスをしているワケではない。いや、酔ってはいるんだけど。酔ってなくてもこういう事をする仲なのだ。要するにお付き合いしている。週刊誌も真っ青のスキャンダルである。
「舞田くん、山下くん。いくら個室とはいえ飲食店で……んむ」
「ミスターはざまもchu〜!」
「……舞田くん……」
更に言うと、なんとその関係は硲さんを含む3人で成り立っている。週刊誌も真っ青の以下略。
言葉の途中で口を塞がれた硲さんは窘めるように類を呼ぶけれど、その表情は満更でもなさそうだ。
常日頃外でこういう行為を許すタイプでないのは知っているので、彼もそうとう酔ってるのが窺える。
「ねぇ、3人とも私が居るの忘れてない……?」
「つい名前ちゃんの前では気が緩んじゃうんだよねぇ、あの2人も」
「別に良いけどさ〜」
よっこいせ、と年相応の掛け声と共に次郎ちゃんが隣に来る。そもそも私の隣に居たはずの硲さんはというと類と向かいでまた唇を合わせていた。おーい、私も居るって言ってるでしょ!
……3人の事は、私しか知らない。数カ月前に事務所で、その……そういう行為をはじめようとしていた所に偶然はち合わせてしまったのが原因である。いやでも忘れものを取りに事務所に帰ってきたら所属アイドルがおっぱじめようとしてるなんて思うわけないし私は悪くない。これが私じゃなく未成年のアイドルだったらと思うと恐ろしい、教育に悪すぎる。もう事務所でそういうことはしない、としっかり約束してもらったので今は心配してないけども。
「でも硲さんが3人で、に同意したっていうのは意外だったなぁ」
「そ?一番最後まで抵抗あったのは多分俺だよ」
「えっそうなの、なんで?」
「なんでって……」
イチャイチャと2人でじゃれあってる硲さんと類を横目に見ながら、酔いに任せて入り込んだ質問をした自覚はある。
まぁでも普段から4人で飲んだり集まる事が多いのだから、そろそろそういう話も聞いて良いでしょ、いつも見せつけられてるんだし。
「男同士で、しかも3人ってどう考えてもフツ―じゃないでしょ」
「あは、次郎ちゃんって見た目より真面目だもんね」
「褒めてないよね?ソレ」
「え〜、褒めてるよぉ」
ケタケタと笑ってそう言えば、ホントかなぁなんて言いながら次郎ちゃんの大きな手が私の頬を撫でる。
普段パーソナルスペースの広い人なので少し、ほんとに少しドキリとした。(そもそもアイドルだから顔が良いのが悪い。私だって女である。)
「ま、まぁ私も3人が好きだから、仲良さそうなのは見てて嬉しいよ。……ちょっと羨ましいくらい」
「ホント?ほんとにso jealous?」
「へっ」
照れ隠しの冗談交じりなセリフに、話を聴いて居なかったはずの類が反応してきて戸惑う。
いやいやそこ食いつくとこか??という言葉は出てこなかった。硲さんまでまっすぐにこちらを見ていて、妙に緊張というか、居心地が悪い。
「え、えーと……?」
助けを求めるべく、さっきまで話していた次郎ちゃんを見上げる。
彼は数度、類と硲さんと私を見比べた後へらりと笑って「2次会は俺の部屋にしましょうか」と言った。
ほんとうになんなんだ
「ちょっと、るいもはざまさんも落ち着いて……名前ちゃん怖がってますよ〜」
「む、すまない……つい、気が急いてしまった」
「I'm sorry……」