カリスマハウスに住んでる夢主。
たぶん いおくん→夢主→カリスマハウスの誰か

ーーーーーー

 やってしまった。やってしまった。やってしまった!

 私は意味もなく走っていた。べつに、追われているわけでもないのに。逃げるように走っていた。走ってでもいないと、ダメだった。頭の中が真っ白になって、それなのに熱くて、神経という神経が焼き切れてしまいそうだった。

 荒い息をついて、へたり込む。家から少し離れた、大きな川のほとりだった。ごくたまに、彼とも散歩をする。逃げたつもりだったのに、そこに来ていた。どうしようもない。無意識に彼の影を追ってしまうほど、膨らんでいた気持ちが音を立てて弾けてしまった。だから、あんなことを。

 「なまえちゃん?」

 かけられた声に、大袈裟なほど肩が跳ね上がった。振り向くと、依央利くんがいた。弾む鼓動が、耳の奥で大きな音を鳴らしている。

 「どうかしたの?」

 心配げに下がる眉尻。不思議と、少しずつ、鼓動は落ち着きを取り戻していった。

 私は依央利くんに全てを打ち明けた。彼への想い。それを押さえ込めなくなって、本人にわかるような形で漏らしてしまったこと。
 そのときの彼の顔を思い出して、また頭の奥がぎゅうぎゅうと絞られる感覚がする。どうしよう。絶対に言わないと決めていたのに。このままではもう、私はあの家にいられなくなってしまう。

 不安と焦り、動揺でまとまりのない私の話を、依央利くんは静かに聞いてくれていた。細く、あまり光を弾かない瞳が、私の隣でしゃがんだ先の地面をじっと見据えている。

 私が話を終えてからややあって、依央利くんはそっと口を開いた。

 「なまえちゃんは、これからもみんなと一緒にいたい?」

 その言葉に私は目を見開き、迷いなく頷いた。いたい。私は一緒にいたい。みんなと、あの七人と、あの家で。そのためなら、私のこの気持ちは叶えられなくていい。
 私の目を見ると、依央利くんは微笑んだ。

 「それなら、いい隠し場所を教えてあげる」
 「隠し場所?」
 「うん。ここ」

 そう言って、依央利くんの指がさした先は彼の肩越し、背中のほうだった。
 戸惑う私に、彼は続けた。

 「笑顔の裏っかわ」

 依央利くんの顔は、いつものあの、柔らかな笑顔。

 笑っていれば、案外、気づかれないもんだよ。

 依央利くんはそう言った。


 その後、家に帰った私は、彼とまた話をした。
 びっくりさせてごめんね。妙な言い方しちゃって。
 いつもどおりの笑顔で接した。
 彼は狐につままれたような顔をしたけど、その微妙な表情の変化を、私は見逃さなかった。どこか、ほっとしたような表情。すこしだけ、寂しい。
 けれどもそれ以上に、私は安堵した。その話はそこで終わって、またいつもどおりの日常に、私も彼も過たず戻ることができた。
 今日もカリスマハウスは騒がしい。騒がしくて、おかしくて、このうえもなく温かい、私たちの居場所。


 けれども、私はふと思う。
 あのときの依央利くんの笑顔。
 それなら依央利くんは、その笑顔の裏側に、何を隠したのだろう?

 「秘密だよ」

 そう言って唇に指を添える、依央利くんの顔が浮かんだ。


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