@火の無い所に煙は立たない
「……燭先生の髪って綺麗ですよね」
「なんだ、藪から棒に」
「いえ、見ていたらふと思ったので。目立つ枝毛も無いですし、色もムラの無いピンクで可愛いし……羨ましいです」
「職業柄、清潔感は重視されるからな……。第一印象が悪ければ接待の際も相手側に不快感を与えるだけだろう。そこのところ気は遣っている、が。可愛いなどと褒められても男は嬉しくも何とも無いということを覚えておけ」
「それはまあ……良く耳にしますが。ってやだ、そんな睨まないでください。別に悪気があって言ったワケでは無いんですから」
「フン……しかし、名前の髪質も決して悪くは無いと思うが?」
「私はちょいちょい痛んでる毛先を切ったりして誤魔化してるだけです。手が届かない部分は痛んだままじゃないですかね、多分」
「ほお」
「かと言って、本当に確かめようとしないでください! 油断なりませんね全く」
「お前が言ったんだろう」
「多分、とも言いました」
「だから枝毛があるか私が直々に確認してやろうとしてるんだ、精々有難く思いたまえ」
「なんて恩着せがましい言い方なの……! 結構です、そんな近寄らないで下さい!」
「良いからジッとしてろ、動くな」
「無理です!」

「……ねえ、あれって……」
「うん……燭先生と名前さんよね…」
「あんなに仲良かったかしら……?」
「以前まではどことなく余所余所しい感じだったけど……打ち解けたのかな?」
「打ち解けた……にしては……」
「髪を触り合ったりしてるし……どちらかといえば恋人同士みたいな……」
「……」
「……」
「「…………ええっ!?」」


@不自然な喧騒
「(…?何故か周りが妙に浮ついているな…以前研案塔に訪れた時はここまで賑わってはいなかったように思えたが…)…失礼、」
「っ、ひ、平門さん!?」
「ご無沙汰しております、うちの名前が度々お世話になっているようで……ところで今日はやけに皆さんソワソワとしているようですが何かお有りに?」
「あぁ……えっと、実は今日だけに限ったことでは無いんです。ここ最近ずっと皆この調子で噂の真相を気にしてて……」
「……噂、と言いますと?」
「燭先生が名前さんを狙ってるんじゃないかという話です」
「………………」
「えっちょっと待って、私は名前さんが燭先生に片想いしてるって訊いたわよ!」
「ええ? 私はもう付き合ってるって……」
「……そうですか。それはそれは。随分面白おかしく尾ひれが付いたデマのようですね。残念ですがさほど面白くは無いかな」
「でもでも! 分かりませんよ!? 私の目に狂いが無ければ燭先生は確実に名前さんを落としにかかってますし!」
「(外れては居ないからタチが悪い)」
「あの偏屈な燭先生の口説き文句…! どんなもの言われてるか分からないけど、あまぁーいセリフとか囁かれたら流石の名前さんでもクラっと……いやそれは無いか」
「あの燭先生だしねー……どうせ口説き文句って言っても私と付き合え、とか絶対フラれないと過信しながらの上から目線でしょ」
「よっし名前さん振っちゃえ!! 清々しく! バッサリと!!」
「先生のヴァントナームの灯台より遥かに高い鼻っ柱を木っ端微塵に!」
「むしろ完膚なきまで!」
「コテンパンに!!」
「……ふっ(燭さん、本来ならば同情すべき点でしょうが、俺の目の届かない所で名前にベタベタと触れていた事は許容出来ないのでフォローも何もしませんね。御愁傷様です)」


@何はともあれ
「で、如何様にしてこのようなくだらない噂が流れたんです?」
「サラリとくだらないと吐き捨てたな貴様」
「本当のことでしょう? ほら、今更そんな勿体振らずに教えてくださいよ。俺と燭さんの仲じゃないですか」
「…………聞こえなかったな。悪いが、もう一度、その口で、ハッキリ言ってもらおうか」
「ああ、メス構えないでください。言った瞬間それで刺すつもりでしょう怖い怖い」
「相も変わらず癪に障る顔だな……!」
「お誉めに頂き光栄です」
「去ね。失せろ」
「お断りします。…で、もちろん名前との噂は嘘なんですよね?」
「……さあ。どちらだとしてもお前には関係無いと思うがな」
「生憎、関係無くは無いんですよ。名前は貳號艇の大事な一員です。その名前に良からぬ噂が纏わり付いているとなれば、此方としても対処せず放って置くわけにはいかないのでね」
「良からぬ噂だと…? はっ、言ってくれる。そんなものはあくまで建前にしか過ぎないだろう、平門。蓋を開けばそれは単なるお前の嫉妬心でしか無い。恋敵の、私に対するな」
「……」
「あからさまに執着を露わにする。名前の事に関すると人間味をさらけ出すお前には、…まだ好感も持てるが」
「……おや、珍しい。嵐の前触れですかね」
「前言撤回してやろう。やはり去ね」
「イヤです」


@喧嘩両…成敗?
「大体俺も気付かない間に名前を買収までして……許可した覚えは無いんですが」
「勘違いするなよ、名前はお前のモノでは無いだろう」
「俺の管理下にはあります」
「だから名前がやること為すことも全て把握している必要がある、と? とんだ傲慢だな、名前も息苦しいだろうに」
「彼女は想ったことは率直に口にする人間です。現状に不満を感じて居るなら俺に直接物申してくるでしょうし、言ってこないという事はつまりそういう事でしょう?」
「どうだか。それこそお前の都合の好い解釈では無いのか。名前の事を真に想うなら彼女の能力がより伸びる方に工面してやるのも思い遣りだと思うが」
「燭さんこそ何やら誤解されておられるようだ。名前は自分の能力云々よりも子供達の母的存在として側に居ることに重きを置いています。確かに腕を磨いて成長することを望んでは居るでしょうが、あの子達から離れてまでそうしたいとは思っていない」
「……與儀達を出汁に使うか。汚いやり方だな、気に食わない」
「出汁だなんて滅相もない。ただ紛れもない事実を言ったまでのことですよ」
「っ私はそう、飄々としたお前の態度に虫酸が走るんだ。名前の行動を制限、束縛しながら何かと理由を付けては自分の側に括りつける。彼女だって一人の人間だ、仕事以外では自由を与えてやっても良いだろうに、貴様という存在がそれを阻む」
「………正直、願ったり叶ったりですよ。なんと後ろ指を差されようが俺は名前を離す気は無いんです、燭さん。例え貴方が相手でも渡さない」
「……平門、お前……っ」
「──いい加減にしなさいこのバカちん!」
「痛ッ!」


@オカン節炸裂、のちの?
「……っつ、いきなりフライパンで殴ってくるヤツがあるか」
「まさか咎めを受けないとでも? 燭先生にこんな迷惑かけて……先生すみません」
「…………いや」
「見ろ、燭さんもドン引きしてるだろう」
「たまたま手に持ってたもので……。あ、今見た光景は忘れてくださいね」
「出来ればとっくにそうしている。私が訊きたいのは何故フライパンを持って廊下を彷徨いていたという事だ」
「だからたまたまです、たまたま」
「連呼するな」
「強調です、変に捉えないでください」
「……」
「で、口論の発端は何だったんです? どうせまた平門さんが吹っかけたんでしょうが」
「心外だな、俺は何もしていないのに」
「黙らっしゃい。口八丁でいつも周りを困らせてばかりの癖に」
「それは名前もだろう?」
「はい?」
「……そうだな、確かに名前も他人にとやかく言えまい」
「えっ燭先生まで」
「この面子の中で危機感も何も無いとは……」
「男として意識されていないか、もしくはこの間の出来事さえ忘れられているか……」
「どちらにせよ由々しき問題ですね」
「あぁ……お前と意見が重なることは実に不愉快だが」
「背に腹は変えられない、ですよね?」
「…………」
「……、おっと私急用が」
「「逃がさないからな」」


@正座でお説教
「……朔……たすけて……」
「俺達の前で他の男の名前を出すなんて見上げた根性だな名前?」
「今ほど彼の存在を求めたことは無いです」
「まだ懲りる様子も無いようだな。いっそ手荒な手法を行使してでも分からせてやろうか……」
「すみませんでした勘弁してください」
「心が籠っていない。健やかなる時も病める時も俺と生涯共にすることを誓うな?」
「え、なんか急に事が重くなってる」
「心臓を捧げるというお前の誓言は偽りだったのか」
「結婚の常套句じゃないんですけどアレ」
「意味は同じだろうに」
「私を置いて話を進めるな。名前がお前と生涯を共にしたらそれこそ生涯、胃に穴を開けて病みっぱなしだろう」
「まさか。苦労はさせませんよ、特に金銭面は」
「玉の輿……!?」
「……待て名前、私の方が稼ぎは良いぞ」
「……そういう燭さんこそ下心丸見えですよ」
「……」
「……」
「……あっ、今……っつう!」
「……何してる」
「……足が、……痺れ……っっ」
「逃げようとした報いだな」
「思い知れ」
「鬼ですかあんたら!」


@料理長が燭先生の髪を触っている光景をナースの方々が目撃し、仲を噂される→平門さんが燭先生を問い詰める。との事でしたがあまり問い詰めてないですね…むしろ料理長のが追い詰められてる
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