上司への紹介は穏便に

スクアーロはローマへと車を走らせた。
途中パーキングエリアに車を止め1時間ほど車内で仮眠を取り、その後もゆっくりローマへ向かったが、車がローマに着くまでアリーチェは全く起きなかった。
とりあえずスクアーロはアリーチェの家に向かうことにし、空港方面へ向かった。
そしてようやくアリーチェは目を覚ました。

「……ん?あれ?ここは空港に向かう道?」
「起きたか。そうだぁ、テメーん家はどこだぁ?」
「もうしばらく空港に向かって、途中で右折。」
「タイミングはその場で指示しろ。」
「うん。……あれ?そういえばディーノは?」
「あの後来たぞぉ。」
「え?揉めたりしなかった?」
「終始向こうが勝手にキレてたなぁ」
「あっちゃぁ…」

アリーチェは自分の額をペシンと叩いた。

「つか、テメー1度起きただろぉ?跳ね馬来てるのに気付かなかったのか?」
「え?起きたっけ?覚えが全然ないや…。」
「素でやってたのか…」

スクアーロはボソリと呟く。

「え?なに?」
「何でもねぇ。とにかく跳ね馬はオレが黙らせた。お前はこれから必要以上に跳ね馬に近付くなぁ。」
「それはどうして?」
「実際アリーチェを前にした跳ね馬を見て思ったが、アイツはテメーなら縋れば自分の我儘を聞いてくれると甘えてる節がある。テメーが重いと感じるのも無理ねぇと思ったが、アリーチェ、テメーも同罪だ。そんな風に跳ね馬に思わせるような行動を取ったテメーも悪い。期待させないのが互いのためだぁ。オレの妻になったことだしなぁ?」

鋭い言葉にアリーチェはズバズバ斬られた。
しかし切り口が鋭く綺麗過ぎて、傷付くというよりも次に進もうという気持ちが自然と沸いてきた。

「スクアーロ君の言う通りだね。そうするよ。はっきり言ってくれてありがとう。」

アリーチェはスクアーロに道案内し、無事に2人はアリーチェの家に着いた。
着いた頃には日が暮れていた。
スクアーロはアリーチェの部屋に上がるなり、ソファに寝っ転がった。

「さすがに疲れた。ソファ借りるぞぉ。」
「えっ、それならベッド使って。私はもう十分休んだから!」
「ベッドはアリーチェが使え。まだ疲れが取れてねーだろぉ?」
「いやいや、スクアーロ君の方が取れてないでしょ?お願いだからベッドで休んで!」

アリーチェはスクアーロの右手を引っ張った。

「お前、誘ってんのかぁ?」

スクアーロは不可解そうに尋ねた。

「なっ、何でそうなるの!?お互いそんな体力もやる気もないでしょ!?」
「どうだかなぁ。そう言えばアリーチェ、オレに恩を返すとか言ってたなぁ?」
「い、言ったけど…」
「浮気はナシって約束だからな、オレはテメーしか抱けねぇわけだ。恩を体で返すっつーのも悪くねぇんじゃねーかぁ?」

スクアーロは意地悪い笑みを浮かべる。
アリーチェは不覚にもそんなスクアーロに体が反応してしまうのを感じた。

「いっ…意地悪…!」
「意地悪だったら無償であんな規模のクーデターに首突っ込んだりしねぇと思うがなぁ?」

スクアーロはそう言ってアリーチェの手を引き、彼女をソファに押し倒して覆い被さった。

「アリーチェを女として見たことはなかったが、こうしてみると悪くねぇなぁ。」

アリーチェはどう反応すべきかわからず、言葉を発せずにいた。
確かにお互い性欲をぶつけられる相手はお互いしかいない。
契約事項を決める時にこのことについても盛り込むべきだったかと少し後悔した一方で、心のどこかでスクアーロに抱かれてしまいたい気持ちがあり、そんな自分に戸惑った。
スクアーロは戸惑ってはいても、ノーを突き付けてこない様子のアリーチェにニヤリと笑い、アリーチェの唇に自分の唇を押し付け、その口内を犯した。

「んっ……………ふっ………」

アリーチェの口から吐息が漏れる。
アリーチェがスクアーロの勢いに流されそうになったその時、スクアーロの携帯が鳴った。

× × × × × × × × × × ×

アリーチェとスクアーロはヴァリアー本部に来ていた。
悲しきかな、スクアーロはザンザスの命令には逆らえない生き物なのである。

「う゛お゛ぉい!!結婚報告に来たぞぉ!!」

スクアーロは本部中に響かせるかのごとくけたたましい声を発して、ザンザスと幹部が待つ食卓に現れた。

「あら、おめでとう、スク隊長。」

真っ先に祝いの言葉を並べたのはルッスーリアだった。

「オレが結婚したかった……」

未練がましく呟いたのはレヴィ。

「ししっ、結婚早々未亡人になる可能性もあるけどな。」

不吉なことを言ったのはベルフェゴールだ。

「素直に祝えないのかな。おめでとうって言うだけならタダじゃないか。僕も祝いの品はあげないけどね。」

呪われた赤ん坊(アルコバレーノ)の呪いが解けても、相変わらずお金にがめついマーモンである。

「……カス、随分と勝手なことをしたようだな?」

ザンザスの殺気に全員が黙る。
アリーチェも体が硬直した。
これまで様々な殺気を体感してきたが、これほどのは初めてだった。
重い沈黙が流れる。
そんな中、最初に口を開いたのはルッスーリアだった。

「…あのね、スクアーロ隊長、キャバッローネからボンゴレに正式に抗議があったのよ。」
「なっ…」

抗議させないための結婚であったし、ディーノにはもうアリーチェを諦めるよう釘を刺したつもりだった。
それでもディーノがアリーチェに固執するとはスクアーロは思っていなかったのだ。

「どうやらキャバッローネはちゃんと時系列を整理して、結婚なんて言い訳のためにしたに過ぎないと割り出したみたいだね。」

マーモンが補足した。
珍しくザンザスは立ち上がり、スクアーロを殴ろうとした。
その瞬間、アリーチェが動いた。
ザンザスの拳が、スクアーロの前に立ち両腕で頭を庇ったアリーチェを投げ飛ばす。
アリーチェは慣性に従って吹っ飛び、受け身を取りながら地面に倒れた。

「……」
「アリーチェッ!!」

スクアーロが叫ぶ。
ザンザスは動揺することもなく冷たい目でアリーチェを見下ろしていた。
アリーチェは直撃を食らった訳でもないのに、脳がシェイクされるような感覚に襲われ、体を起こしながら額を抑えた。
拳を受けた左腕は腫れ上がり、まともに脳が働かないが、彼女は自分がすべきことをわかっていた。

「申し訳……ございません。」

アリーチェはザンザスに向かって綺麗な土下座した。

「スクアーロ君は……悪くありません。」
「……カスに土下座されたところで解決しねぇ。かっ消す…!」
「待てぇ!ザンザス!!」

憤怒の炎をアリーチェに向けようとしたザンザスをスクアーロは慌てて止めようとした。
少しだけ脳震盪が落ち着いたアリーチェは、頭が働き始め、この事態を収集する手段を思いついた。

「キャバッローネの抗議は…私が取り消させます…!」
「なっ!?」
「!」
「アリーチェ、テメーさっき約束したばかりで跳ね馬に接触しようとしてんじゃねーだろぅなぁ!?」
「ディーノへの接触は要らない。」

アリーチェは顔を上げた。
そしてザンザスの目を真っ直ぐ見る。

「私のことはかっ消していただいて構いません。でもその前にスクアーロ君に許しをいただくチャンスをください。」

面倒事を厭うザンザスはしばし逡巡して、自分の手を煩わせる事なく解決できるならそれも良しと判断した。

「………いいだろう。2時間だけ時間をやる。それで解決できなければテメーら2人共かっ消す。」
「機会をくださり、ありがとうございます。」

アリーチェはもう1度頭を下げた後、立ち上がって膝の汚れを払った。
そしてスクアーロに向き直る。

「スクアーロ君、日本にいるリボーンに連絡を取れる?」

こうしてアリーチェはリボーンに連絡を取った。
イタリアはもう深夜に差し掛かろうという時間だが、日本は午前中だ。
リボーンへの連絡は容易に取れた。

『オレがイタリアを発って以来だな、アリーチェ。急にどうしたんだ?』
「急にごめんね、リボーン。元生徒を説得してくれないかなって連絡したの。」
『ディーノか。キャバッローネで反乱があったらしいな。何があった?』

アリーチェは全ての事情をリボーンに話した。
キャバッローネで反乱を起こしたのは自分を愛するミルコと父を崇拝するアルマンドで、母を人質に取られ、救出のためにスクアーロと結婚してその力を借りたことを。
そしてディーノは今、それをヴァリアーがキャバッローネの内紛に介入したとしてボンゴレに正式に抗議していることを。

『随分突拍子もねぇ手段を思いついたもんだな。』

リボーンは呆れた声でそう言った。

『事情はわかった。キャバッローネの抗議を受けてザンザスがキレてんだな?』
「うん。このままじゃ私を助けてくれたスクアーロ君まで消されかねないから、助けて欲しいの。ディーノを説得できるのはリボーンしかいない。」

そう伝えると電話口からリボーンの溜め息が聞こえた。

『仕方ねぇな。お前らの気持ちが交わらねぇことを知っていながら、ディーノの気持ちを利用してお前達をあの学校に入れた責任はオレにもある。ディーノと9代目には根回ししておく。』
「ありがとう、リボーン。」

そうしてアリーチェは電話を切った。

「まさかリボーンを動かすとはなぁ。」

スクアーロが呟く。

「リボーンは一般人(カタギ)の女子供には優しいからね。泣きつけば動くと思ったの。何よりディーノを説得できるのは彼しかいないし。」
「上手くいくと思うかぁ?」
「いくよ。リボーンは最強の家庭教師(かてきょー)だから。」

アリーチェが言った通り、30分後にはキャバッローネからの抗議は取り下げられたとヴァリアーに連絡が入った。
ザンザスは2人への怒りを収めてくれた。

「約束は約束だ。随分良い女を手に入れたみてぇだな、カス鮫。」
「ああ、オレもそう思うぜぇ。」
「(私が良い女…?否定するのは怖いから言わないでおこ…)」

アリーチェは戸惑いつつも、やっとこの1件の全てが終わったことにほっとした。

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