10代目御一行御案内

8月の終わり頃、アリーチェは特殊な仕事を引き受けた。
それはリボーンからの依頼でボンゴレの守護者達にイタリア観光ガイドをして欲しいというものだった。
スクアーロは反対したものの、キャバッローネの抗議撤回の件でリボーンに借りがあると言えば、彼はそれ以上反対しなかった。
そしてアリーチェは今日、沢田綱吉ファミリーが泊まっているホテルのロビーに来ていた。

「もー!言うこと聞いてくれよ、ランボ!ガイドさんとの待ち合わせ時間過ぎちゃっただろ!」
「おい、アホ牛!これ以上10代目の手を煩わせるとアメやらねーぞ!」
「ぐぴゃ!!」

アリーチェは前世の記憶で聞き覚えのある声が聞こえてそちらに近付いた。
そこにリボーンがいてアリーチェは笑顔になった。

「リボーン!久しぶり!」
「アリーチェ、久しぶりだな。」
「この前の件はありがとう。」
「ああ、大したことはしてねぇ。今日は宜しく頼むな。」
「リボーン、もしかしてこの人が?」
「ああ、今日1日観光ガイドを頼んだアリーチェだぞ。」
「はじめまして、ボンゴレファミリーの皆さん。アリーチェ・カンメッロ・スクアーロです。」
「「「「「えっ」」」」」

アリーチェの名乗りに皆の顔色が変わった。

「スクアーロって……」
「もしかしてスクアーロの親戚?」
「ふふ、S(スペルビ)・スクアーロの妻です。」
「「「「「ええええっ!?」」」」」
「アイツ結婚してたのかよ!?」
「スクアーロってそういうキャラだっけ!?」
「スクアーロ君ってそんな風に思われてるんだ。」

アリーチェはクスクス笑った。

「まあ、色々あってね。スクアーロ君に助けてもらって結婚したの。一応友人としては高校からの付き合いなんだよ?」
「スクアーロに友人……」

アリーチェは黒髪長身の少年を見る。

「あなたが山本武君だよね?スクアーロ君が任務早く切り上げられたら会いに来るって言ってたよ。時雨金時、用意しとけぇ、だって。」
「んな!?手合わせする気満々じゃん!」
「ハハッ、アイツらしーな!」

色々と理解が追いついていない綱吉ファミリーの中で山本だけはとても能天気だ。
なるほど、これが天性の殺し屋の才能か、とアリーチェは思う。

「ところでリボーン、皆さんを紹介してくれる?」
「ああ」

アリーチェは彼らが来る前から忘れないように何度も復習したおかげで、なんとか全員顔と名前が一致した。
今日来ているメンバーは引率がリボーンで、10代目ファミリーとして沢田綱吉、獄寺隼人、山本武、笹川了平、ランボ、クローム髑髏、リボーンについてきたであろうビアンキ、ランボについてきたであろうフゥ太とイーピンの合計10人だ。

「じゃあ、早速ローマを案内するね。」
「あの……案内される場所はマフィア絡みとか…?」

不安げに尋ねてくる綱吉を安心させるようにアリーチェは微笑む。

「ううん、普通に日本人に人気のある所を案内するよ。リボーンには普通にイタリアの魅力を紹介してくれって言われてるから。大丈夫、私プロだから。」

× × × × × × × × × × ×

コロッセオ見学を終えた後のことだった。

「う゛お゛ぉい!!山本武ィッッ!!」

コロッセオとフォロロマーノの間の開けた広場にて、こだまする程の大声にありとあらゆる観光客の皆が視線をそちらを注目した。
コロッセオの1番高い所に長い銀髪を靡かせたスクアーロがいた。

「剣の腕は鈍ってねぇだろーなぁ!?」
「スクアーロ!!」

スクアーロは山本の近くまで飛び降りて、ずんずんと大股で近付いてくる。
非常に目立つ登場にアリーチェはスクアーロの感情が高揚しているのを感じた。

「山本君、これ着て」

アリーチェはスクアーロが()る気満々なのを見て、山本に法被を渡した。
山本は理解できぬまま素早くそれを着る。

「2人共火薬とか死ぬ気の炎は使わないでね!」

スクアーロと山本の距離が10mを切ってアリーチェがそう言ったのを皮切りに、スクアーロは一気に山本に距離を詰め剣を振った。
山本は刀でいなしながら、それを上手く避ける。

「やっぱそうくるか!」

山本は明るく笑い、一気に殺気を放つ。
そしてスクアーロに応戦し始めた。
それを観光客達は面白そうに見る。
自然と2人の周りには観光客が作る円ができていた。

「(やっぱりスクアーロ君の剣ってかっこいいな…)」
「アリーチェさん…!」

少しだけ目をキラキラさせながら2人を見守るアリーチェに綱吉が焦った様子でアリーチェに声をかけた。

「ど、どうしよう!?山本とスクアーロがこんな観光地のど真ん中で戦い始めちゃった!!」
「大丈夫だよ、綱吉君。他の観光客の人には西洋と東洋の剣士役のパフォーマーがゲリラパフォーマンスしてるように見えるだろうから。」
「もしかしてパフォーマンスっぽく見せるために山本に法被を着せたんですか!?」
「正解」
「なるほど……ってどっちにしても止めなきゃやばいでしょ!?」
「それはそうなんだけどね……あんなに楽しそうに殺気立ったスクアーロ君の止め方がわからなくてね……とりあえずこうなった時のために法被だけ用意したの。」

アリーチェは困り顔で笑った。

「止め方は……オレもわからないですけど…」
「よお、ツナ。山本達派手にやってるな。」

アリーチェと綱吉の後ろから声をかけてきたのはここにはいないはずの   ディーノだった。

「ディーノさん!こんにちは!あれ?ディーノさんの地元を紹介してもらうのは明後日じゃ…?」
「悪ぃな、ツナ。今日はアリーチェに用があるんだ。」
「アリーチェさんに?ていうか2人は知り合いなんですか?」
「まあな。」

ディーノは綱吉と会話しながらアリーチェとの距離を詰める。
アリーチェはチラリとスクアーロを見て、どうするか迷った。
彼女が迷っている内に、ディーノはすぐ手が届く距離まで近付いてきた。
そして手を伸ばし、アリーチェの腕を掴んで人の輪から出て、綱吉達からも少し距離を取った。

「アリーチェ、ツナ達の案内が終わったら話す時間を作ってくれねーか?」
「………ごめん、それはできない。」
「予定あるのか?だったら別の日で良いから時間作ってくれねーか?」

アリーチェは首を横に振った。

「予定があるとかじゃなくて………スクアーロ君との約束なの。」

その名前を出すとディーノのいつもの明るい雰囲気は一切消え、40度近い暑さにも関わらず、辺りが冷たく感じるほど地面から這うような冷たい殺気を彼は放った。

「スクアーロと?どんな?」
「ディーノとは必要以上に関わらないって。」
「何でそんな約束を…っ」
「う゛お゛ぉおおい!!跳ね馬ぁっ!!テメー人の女に気安く話しかけてんじゃねーぞぉおお!!!」

ディーノの殺気に気付いたスクアーロは山本との勝負を中断し、大股でアリーチェの方へ歩いて近付いてきた。
ディーノの殺気は真っ直ぐスクアーロに向いた。

「スクアーロ、どういうことだ?アリーチェにオレと関わるなって約束させたって…!」
「逆に聞くが自分の女に元婚約者と積極的に関われって言う男がいんのかぁ!?」
「…っ!!」

言い返せないディーノに見せつけるようにスクアーロはアリーチェを後ろから抱き締める。

「アリーチェに用があんならオレを通せぇ!」

抱き締められているアリーチェは気まずそうにディーノから視線を逸らしていた。
ディーノは込み上げてくる怒りを抑え、一旦深呼吸しスクアーロとアリーチェを真っ直ぐ見た。

「だったら、スクアーロ、アリーチェを貸してくれ。少しで良いから話がしたい。」
「何を話す気だ?」
「それは2人きりの時に話したい。」
「ならダメだぁ。オレの前で話せねぇならロクなことじゃねぇ。」
「スクアーロ!!」
「2人共そこまでだ。」

遂にリボーンが介入した。

「ディーノ、オレはローマ(ここ)にお前を呼んだ覚えはねーぞ。」

アリーチェが疑問に思っていたことの答えをリボーンは告げた。
先程から彼女は気になっていた、なぜディーノがここに現れたのか?リボーンが呼んだのか?と。

「1週間イタリア旅行来るって聞いててオレのとこに来るのが最終日前日と最終日って聞いたからその前にアリーチェにローマ案内を頼むんじゃねーかと思ったんだ。」
「オレが言いたいことはそうじゃねぇ。」
「だったら何だよ?」

ディーノは珍しく苛立ちをリボーンにも向けた。

「はっきり言わねーとわかんねーみたいだな。」

リボーンはレオンを大きなハンマーに変化させて、ディーノの頭を叩いた。

「いでっ」
「幸せに暮らしてる人妻に離婚を勧めるような真似はやめろって言ってんだ。」
「…っ」
「9年前、何でアリーチェと婚約破棄したか思い出せ。あん時のお前はもっとシンプルにアリーチェの幸せを願っていたはずだ。」
「確かにオレはアリーチェの幸せを願って婚約破棄したんだ…!マフィアの妻なんかより一般人(カタギ)として生きる方がアリーチェには似合うって!けどよ…!!その結果がこれだぞ!?」

アリーチェは取り乱すディーノを見て、後ろから回されているスクアーロの腕を掴んだ。

「相手がマフィアで良いんなら、オレがアリーチェと結婚したかった!!おばさんのために結婚したんなら、別にもう離婚したって良いだろ!!」
「スクアーロ君、ディーノに一言伝えたいんだけどいい?」
「…ああ」

スクアーロはアリーチェを離した。
アリーチェは少しだけディーノと距離を詰めた。

「ディーノ、確かに昔は一般人であるかどうかは大事だったけど…………私の夫はスクアーロ君しか考えられない。スクアーロ君と結婚して幸せなの。これ以上言うことはないよ。」

アリーチェはスクアーロに恋愛感情を抱いていない。
だからこそ、スクアーロで良かったと心底思っている。
友愛と信頼関係で結婚生活が成り立つことがこんなにも心地良いものだと知ってからは特に。
それを恋愛感情がないことは伏せて、ディーノに伝えた。
ディーノから殺気や苛立ちが消え、彼はただただ辛そうに顔を歪めた。

「アリーチェ………」
「じゃあ私は仕事に戻るから。スクアーロ君も一緒に観光する?」

アリーチェはディーノの返事を聞かず、スクアーロの都合だけ尋ねた。

「…いや、オレはいい。今夜はオレが飯を作る。何がいい?」
「うーん………ペンネグラタンかな?」
「任せろぉ」

スクアーロはそう言ってアリーチェの頬にキスを贈った。
そして山本のもとへ足を運ぶ。

「テメーの腕が鈍ってないようで安心したぞぉ。この勝負の続きはまた今度なぁ!」
「ああ、またな!」

そうしてスクアーロは去って行った。
ディーノもアリーチェが見ない内に去っていた。

「リボーン、アリーチェさん、ディーノさんってどんな関係なの?」
「オレも気になるッス。スクアーロと揉めていたみたいッスけど……」

少し離れたところから3人を見守っていた綱吉と獄寺はこっそりリボーンに尋ねた。

「アリーチェとディーノは幼馴染で元婚約者だ。アリーチェの父親はキャバッローネの幹部でな、2人の母親同士が親友で婚約してたんだ。ディーノはアリーチェを愛していたが、マフィアの世界に巻き込まないためにアリーチェの父親が死んだ時に婚約を破棄したんだ。なのにアリーチェがマフィアのスクアーロと結婚したもんだからアイツは納得がいってねーんだ。」
「それは……跳ね馬に少し同情するぜ…」
「あんなにかっこいいディーノさんでも恋愛が上手くいかないことってあるんだ…」
「当たり前だろ。男女のことはそう簡単じゃねぇ。ツナ、お前もよく考えとけよ。ディーノはアリーチェを守るためにアリーチェを手放して、スクアーロはアリーチェを守るためにアリーチェと結婚した。結果はこの通りだ。」

綱吉はゴクリと唾を呑んだ。

「リボーン、次フォロロマーノ行こうか。」

リボーンが忠告し終えたタイミングで、アリーチェは話しかけた。

「ああ」

リボーンが頷くと、綱吉は広場を駆け回っているランボとイーピンを連れ戻しに行った。

- 23 -

prev | next

back to index
back to top