最強の家庭教師との出会い

なんやかんや時間が経って、アリーチェは13歳になっていた。
日本では中学1年生の年齢だが、ここイタリアでは中学3年生の年齢だ。
アリーチェが目標としていた婚約破棄はまだできていなかった。
優しく案外強かな母にアリーチェは何度も言いくるめられていたのだ。
ディーノのことが友人として大好きであるため、悪く言えなかったのも原因だった。
そんなディーノとは変わらず仲が良いが、お互い同性の友人が増えたため、言語教育の時間以外は話す機会も減っていた。

今日はその言語教育の日だ。
アリーチェの母に教わるべく、ディーノが屋敷を尋ねてくる予定だった。
ディーノが来る時刻になり、アリーチェは勉強部屋で待機していた。
すると廊下からディーノと誰かが言い争う声が聞こえてきた。

「なんでお前まで来るんだよ!?」
「家庭教師が生徒の勉強を見守るのは当たり前だぞ。」
「俺はお前に家庭教師なんて頼んでねーよ!」
「お前はな。俺はボンゴレとキャバッローネの9代目から頼まれてるんだぞ。わかったらさっさと入らねーか。」

アリーチェは壁越しでもその声の主がわかった。

「(リボーンだ…!!遂にディーノの家庭教師をしに来たんだ…!!)」

アリーチェはゴクリと唾を呑む。

「(リボーンは結構めちゃくちゃする子だけど、基本的に生徒を立派なボスにするという目的自体は一貫しているから、私に害はないはず。攻撃は最大の防御とも言うし、私から声をかけてみよう。)」

そう思い、アリーチェは立ち上がって部屋の扉を開けた。

「チャオ!ディーノ、誰と話してるの?」

アリーチェはディーノと目が合った後キョロキョロあたりを見回した。

「ちゃおっす!」

足元から声が聞こえて、アリーチェは視線を落とした。
そこには何百回とアニメで見た、ボルサリーノの帽子に緑色のカメレオン、スーツ姿なのに黄色いおしゃぶりを下げているリボーンがいた。

「チャオ。私はアリーチェ。君は?」
「俺はディーノの家庭教師になったリボーンだぞ。」
「家庭教師…?というか赤ちゃんだよね…?」

アリーチェは目を丸くして首を傾げた。
そして数秒待ってアリーチェはふっと笑い、腰を屈めてリボーンと視線を合わせた。

「……まあ、そんなこともあるよね。よろしくね、ディーノの家庭教師、リボーン。」
「ああ、よろしくな。お前がディーノの婚約者だよな?」

アリーチェは尋ねられて少し固まった後、しぶしぶ頷いた。
一方のディーノは顔を赤く染め、そっぽを向いていた。

「私達が小さい頃に親同士が決めたものなんだけどね。」

アリーチェは苦笑した。

「お互い成長して別に結婚したい人ができて本気です!って言ったらボスもうちの両親も私達の意思を尊重してくれそうな気がするから、あまり本気で婚約者だとは思ってないの。」

アリーチェがそう言った時、ディーノは彼女に気付かれないようそっぽを向いたまま、複雑そうに顔を顰めた。
アリーチェはそれを全く知らない。
リボーンは両者の反応を知りながらニヤリと笑う。

「そうか。でも今は婚約者なんだろ?ディーノと同じ高校に進むよな?」
「高校?」
「おい、リボーン!」

首を傾げるアリーチェと、制止しようとするディーノを尻目にリボーンはそのまま続けた。

「キャバッローネの9代目は後継者教育として2つの施策を実施することを決めたんだ。1つ目がこの俺を家庭教師につけること、もう1つがマフィア関係者の通う高校に進学させることだ。」
「マフィア関係者の通う高校……そんなのがあるんだ。それで私にも通えと?」
「自分の体調が思わしくないから万が一に備えて、キャバッローネの次期ボスを経営面、精神面で支えられる人材になって欲しい……だそうだ。」

アリーチェは目を丸くした。

「待って、確かにボスは今病気でボスの遂行できない業務をお父様やロマーリオおじさまが負担しているとは聞いているけれど、そこまで酷いの!?」
「残念ながらな。9代目はアリーチェは全体のことがよく見えて面倒見が良いから適任な上、ディーノに甘いからこの話を断れないだろうと言ってたぞ。」

恐らくその辺りの理由は全て建前なのだろうとアリーチェは思った。
ディーノを学校に縛りつけるためにアリーチェも通わせようとしているのだと。
アリーチェが通うとなれば、ディーノも行かざるを得なくなることをアリーチェはよく知っていた。
ディーノがアリーチェに向ける感情に心当たりがあった。

「……伊達に10年近い付き合いじゃないか。近々ディーノが嫌でも10代目になる可能性があると言われてほっとけないのは確かだよ…。」

アリーチェは眉を垂れ下げて諦めを含んだ自虐的な笑みを見せた。

「アリーチェ、お前まであの学校に通う必要性は……」
「ディーノ、気を遣ってくれてありがとう。でも状況が状況だから……。ディーノだって明日からボスですって言われても困るでしょ?」
「そりゃそう…つーか、俺は10代目にはならねぇって!!」
「(今はそう言ってるけど将来なっちゃうんだもんなぁ……)」
「ごちゃごちゃうっせーぞ。」

リボーンはディーノの頭に飛び蹴りを食らわせた。
ディーノは盛大にひっくり返り、地面に額を強打した。

「いっでぇ゛え゛え゛!!」
「お前のために女が覚悟決めてんのに、お前が覚悟決めねぇでどうする!?」
「そ……それは……」

ディーノは反論できなかった。

「あら、ディーノ君にリボーンさん。もう到着されていたんですね。」

そこに現れたのはアリーチェの母だった。
額の痛みを堪えながら立ち上がったディーノとアリーチェの母はハグをして、互いに両頬にキスをする。
そして体を離した後、彼女はディーノの両頬を手で包んだ。

「ディーノ君、アリーチェはしっかりはしているけれど戦闘はからっきしだから、この子を守ってね。」

いつもの柔らかな口調ながらどこか悲痛さを感じるその言葉にディーノはノーとは言えなかった。
かくしてディーノとアリーチェはキャバッローネのシマから遠く離れた危険な学校に通うことになった。

× × × × × × × × × × ×

その日のディーノとリボーンの帰り道   

「なんでアリーチェまで巻き込むんだよ!?アイツは俺と一緒でマフィアなんかロクでもねぇって思ってて本当は関わりたくねぇって思ってんのに!!」

ディーノはリボーンを責めた。

「お前がアリーチェの支えなんか必要ねーボスになれるんだったら、9代目も俺もアリーチェに無理は強いなかったぞ。」
「俺のせいかよ!なんで俺が10代目にならねーって選択肢がねーんだよ!?別に世襲じゃねーファミリーなんていくらでもあるじゃねーか!!」
「甘ったれんなよ。」

リボーンは形状記憶カメレオンのレオンを手に乗せ、ハンマーに変形させてディーノの頭を叩いた。

「い゛っっ」
「アリーチェは話を聞いて瞬時に自分の置かれている立場とお前が置かれている立場、ファミリーの状況を理解した。そもそも……お前のせいだからな。」
「は?俺?親父とリボーンのせいだろ!」
「そういうところが甘ったれんてんだ!」

リボーンはやっと起き上がったディーノの腹にハンマーを見舞った。

「ぐえっ…」
「お前が立派な10代目になるからアリーチェの支えはいらねぇって一言言えば、アリーチェは巻き込まれずに済むんだ。どうせ危険な学校に行くならせめてアリーチェ(好きな女)も一緒の方が安心だ、アリーチェを理由に行かねー理由を語れば正当化できると思ってんだろ?」
「…………」
「そういうところが甘ったれてるってーんだ。ちったぁ、(おとこ)になれ。」

ディーノはその言葉に何も返せなかった。
じゃあ10代目になるからアリーチェを巻き込むなとも、そんなつもりではなくアリーチェを思って抗議しているのだとも。
結局のところ、彼は図星だったのだ。

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