戦力外通告

絵美は沢田綱吉の継承式には参加しなかった。
ザンザスが不参加だったからだ。
ヴァリアーとしてはNo.2のスクアーロを始めとした幹部が向かったので、それなりに沢田綱吉の顔は立て、敗者として筋を通したはずだ。
結局継承式自体はシモンファミリーの妨害により中止され、沢田綱吉が正式にボンゴレ10代目の座につくことはなかったためか、ザンザスはここ最近機嫌が良かった。

継承式の後、新幹部を迎える話も上がったが、その候補だった者が記憶喪失になっていたらしく、結局六道骸の一味が引き取ったらしい。
絵美はそれに関して正直自分を差し置いて先に幹部になる者がいることを人並みに嫉妬していたので、ザマァミロと思った。

新幹部騒ぎの後、10年後の未来で沢田綱吉達と共に白蘭に立ち向かったメンバーにアニマルリングが届いた。
色々と不可解な点はあったものの、思わぬ戦力強化にスクアーロを始めとした幹部達は喜んだ。
最も不可解な点は絵美にも2種類のアニマルリングが届いたことだった。
嵐属性のチーターと雲属性のハイエナ、即ち嵐狩猟豹(
ゲッパールド・テンペスタ
)
雲鬣犬(イエナ・ヌーヴォラ)だ。
スクアーロの記憶によるとハイエナは普通嵐属性らしい。
しかし絵美のハイエナは雲属性だった。
10年後に託されていたヴァリアーリングが雲だったからでは?と幹部の中では結論付けられた。
絵美はチーターにはフーガ、ハイエナにはカノンと名付けた。

絵美がアニマルリングを戦術に組み込んだ戦闘スタイルの確立に四苦八苦していた頃、マーモンからザンザスへ依頼が入った。
アルコバレーノの呪いを解くべく、ヴァリアーに虹の代理戦争に参加して欲しいという依頼が。
リボーンの代理が沢田綱吉になる可能性が高く、虹の代理戦争での戦闘はボンゴレ内での内戦にはならず、反逆とも見做されないためだ。
正当な理由で沢田綱吉を始末できるこのチャンスをザンザスが利用しない訳がなかった。
絵美も代理を任され、新生(ニュー)ヴァリアーリングの雲を預けられた。
彼女を巡る波動は嵐が最も強かったが、嵐はベルフェゴールに託されたため、絵美に渡せるリングは雲しかなかったのだ。
恐らく10年後も同じ理由で雲のヴァリアーリングを託されていたのだろう。
ちなみに彼女には嵐と雲の他に、晴、雨、雷の波動が流れていた。
その3つの属性に関しては低ランクのリングを支給され、補助的に用いることになった。
5つの属性の波動が流れている体質は彼女の双子の兄・獄寺隼人と同じものであったが本人は知る由もなかった。

代理戦争2日目、招かれざる客、赤のおしゃぶりのアルコバレーノ・(フォン)と雲雀恭弥がヴァリアーが借りているホテルに現れたことにより、代理の証であるバトラーウォッチを身につけていた絵美は負傷した。
何とかバトラーウォッチは守ったが、何をされたのか絵美の体は麻痺して動かず、最終的にザンザスと雲雀恭弥のバトルを見守ることになった。
結局バトル時間中にザンザスと雲雀の決着はつかず、雲雀に触発されてザンザスは勝敗を決めるボスウォッチを破壊しようとした。
それを絵美以外のヴァリアーメンバーは全力で止めた。
ザンザスは抵抗したが、スクアーロの一言で止まった。

「そもそも雲雀との決着をつける前に絵美の怪我の状態を確認した方が良いんじゃねぇかぁ!?」

スクアーロ的には半分賭けだったが、彼はその賭けに勝った。
彼が意図した通り、ザンザスが怒りを収めて止まったのだ。

「あははは、なんで私の状態なんか…」

ホテルの上階の残骸の端で壁にもたれかかっている絵美は失笑した。
全身に浮かび上がった怒りの証の痣が引いたザンザスは絵美に近付いた。

「ボス、私は大丈夫です。全身麻痺してましたが、指先から感覚戻ってます。バトラーウォッチも無事ですからまだ戦えます。」
「強がってねぇだろうな?」
「はい。プロとして使い物にならない時はちゃんとそう言います。」
「ならいい。カスザメ」

ザンザスはスクアーロに視線をやった。
それだけでスクアーロはすべき事を全て察した。

「ルッスーリア、テメェの晴れの炎で絵美を治療しろ。マーモン、お前んとこの部下追加して確実に戦闘の痕跡を隠せ。ベルとレヴィは引き続き周囲を警戒しろ。」

その時、ウォッチからチェッカーフェイスの声が聞こえた。
今日のバトルで7チーム中2チームが敗退したこと、スカルチームのウォッチを謎の透明のおしゃぶりのアルコバレーノ、バミューダ・フォン・ヴェッケンシュタイン及び復讐者(ヴィンディチェ)が強奪し、この代理戦争に参加することが告げられた。

復讐者(ヴィンディチェ)……」

絵美はぞわりと背筋が凍りつくのを感じた。
1度絵美は彼らに会ったことがある。
強烈な死の空気を纏うその集団は絵美を誘拐し人体実験しようとしたマフィアを捕まえたのだが、その時に彼らの戦闘は見ている。
絵美は震えが止まらなかった。
その様子にルッスーリアが気付く。

「絵美、怖いのかしら?」
「………はい。1度彼らの戦闘を見たことがあります。彼らって1人1人個性がないように同じ戦法を取ってますが、実は個性があるんですよ。彼らの纏う死の空気も怖いのですが、本当の牙を隠した状態であれだけの戦闘力があることが怖いです。」

ヴァリアーの面々は押し黙った。
彼らは殺しのプロである以上、相手の力量を計ることに関してもプロだ。
当然絵美の意見には賛成だった。
復讐者(ヴィンディチェ)の戦闘力が未知数であると。

「でも私、戦えます。震えるほど怖い思いなんてヴァリアーに着くまで散々してきましたから。」

絵美はそう言って手を握ったり開いたりを繰り返した。

「感覚も完全に戻ってきました。もう大丈夫です。」

絵美は立ち上がった。
しかしよろけてしまい、ザンザスが抱き留める形で彼女を支えた。

「……絵美、そのバトラーウォッチはカスザメに渡せ。」
「えっ………」

絵美は顔を上げ、目を見張った。

「まだ余りは……」

余りのバトラーウォッチがあるにも関わらず、敢えて彼女のウォッチをスクアーロへ渡すよう要求する意味は、当然絵美への戦力外通告だ。
彼女はしばらくザンザスの目を見つめた後、悲しげに目を伏せて首を縦に振った。

「ボスの仰せのままに……」

絵美はバトラーウォッチを外して、スクアーロに渡した。

「テメェは十分やった。」

ザンザスは絵美の頭を撫でた。
暗殺者としてザンザスに有用だと認め続けられたい絵美にとってその言葉は慰めにもならなかった。
そしてこの後ザンザスの気遣いも虚しく終わるのだった。

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