怪我と追憶

夜の炎と呼ばれる独特の炎があちこちに灯り、鎖があらゆる方角から一直線に飛んできて、後に弧を描いてしなる。
そんな空間の中で、ヴァリアーは戦闘を強いられた。
ホテルという仕切られた空間が余計にヴァリアーを不利にした。
特にレヴィと絵美は主力武器(メインウェポン)が中遠距離のため、近距離戦闘の手段は持ちつつも普段の実力の半分も出せなかった。
闇討ちにきた復讐者(ヴィンディチェ)はバトルウォッチを持っていない人間含め殺そうと狙ってきた。
ヴァリアーの面々はザンザスのボスウォッチとスクアーロのバトルウォッチを庇うべく奮闘した。

「ボス!!危ない!!」

絵美のその掛け声と共に、ザンザスの気紛れな気遣いは虚しく散った。
絵美が復讐者(ヴィンディチェ)の攻撃からザンザスを庇うことによって。
マーモンが戻った時、ザンザス、スクアーロ以外は全員戦闘不能状態で特に絵美は瀕死の状態だった。

「絵美…!」

マーモンは焦った。
ザンザスが絵美を気に入っているのは周知の事実であり、こんなことに巻き込んだ自分にザンザスの怒りの矛先が向かうのではないかと。
実際ザンザスは顔中に痣を発現させていた。
冷静だったのはスクアーロで、倒れながらもマーモンに指示を出した。

「マーモン、絵美の内臓を補えるか?」
「うん…!」

お金を無心する余裕もなく、マーモンは力強く頷いて早速絵美の状態を診て、損傷している臓器を幻覚で補った。

「臓器と出血した分の血液は補ったよ。でも早く病院に連れて行かなきゃ。」
「マーモン様、お待たせしました。」

現れたのはレヴィ雷撃隊の面々だった。

「すぐに絵美を運びます。」

そう言って彼らは絵美を連れてホテルから去った。

× × × × × × × × × × ×

幼い頃、獄寺絵美はどこにでもいる幸せな少女だった。
娘思いな父親に、病弱だが優しい母親、時々めちゃくちゃで酷い料理を作るが面倒見の良い姉、やんちゃでいつも遊び相手の双子の兄。
そんな家族に囲まれて暮らす日々は実に充実していた。
そんな彼女の幸せが崩れ去ったのは8歳の時だった。
彼女は自身が正妻の娘ではないことを知り、大勢の前で父親にその事実確認をした。
それを父親は否定しなかった。
絵美は今まで噂程度に疑惑のある娘だったが、ほぼ公式的に愛人の娘としてファミリーに認知されてしまった。
ファミリーだけではなく使用人にも。
使用人の大半は不倫だけではなく不倫で産まれた子供さえ疎んじる価値観を持っていた上に、城でのぞんざいな扱いへの八つ当たりを、絵美に対していじめという形で行った。
使用人以外にも彼女を虐める者はいた。
傾きかけていたファミリーを支えていたNo.2の男だ。
彼は愛人の子供でかつ後継者になれない絵美を疎んだ。
そして彼女に刷り込みをした。

「愛人の娘であるお前に価値はない。奥様が病弱になった時期とお前達が引き取られた時期は一致する。お前達のせいで奥様は体調を崩されたのだ。疫病神め。ファミリーが傾いているのはお前のせいだ。男である隼人様ならまだファミリーの立て直しも効くというのに、女であるお前などが未だに城に居座るとは。寄生虫め。」

純粋な彼女はその言葉を間に受け、苦しんだ。
追い討ちをかけたのは実の母ではない養母とビアンキの優しさと愛情だった。

「引き取った時は凄く複雑な気持ちだったの……。本来なら裏社会とは無縁の平和な世界で、こっそり、平凡に育てられるべきだけれど、あなた達のお母様がご病気と伺ったから……。私もこんな風にはなってしまったけれど、あなた達に堂々とファミリーの庇護を受けさせることくらいはできるから、覚悟を決めたの。あなた達に罪はないわ。浮気してしまったお父様と、お父様を支えきれなかった私と、お父様を拒めなかったあなた達のお母様……大人が悪いのよ。」
「お母様が違うことには薄々気付いてたわ……でもそれが何?あなたと隼人は私の可愛い妹と弟よ。」

絵美は余計に追い詰められた。

「善良なお母様とお姉様を私は不幸にしたんだ……。私なんか死んじゃえば良いのに。」

そんな彼女を救ったのは城に出入りしていた医者であり、彼女と隼人のダイナマイトの師匠であるシャマルだった。

「そうか……。絵美ちゃんはお父さんの愛情を素直に受け入れられないこと、愛するお母さんとビアンキちゃんを自分がいるだけで傷つけているかもしれないことも、あのNo.2が最もらしく投げつけてくる酷い罵詈雑言も、使用人の虐めも、全てが辛くて投げ出したいんだな…。」

シャマルは明確に絵美の苦しみを言い当てた。
そんなシャマルに絵美はときめいた。
しかし彼は特定の1人の女性を愛せない(さが)の持ち主だった。
絵美は特定の1人を愛し抜けない男を嫌悪していた。
彼女と彼女が愛する人に降りかかる不幸の全ての元凶と言えるものであったから。
だからシャマルが女を取っ替え引っ換えする姿を見て、結局幻滅した。
彼女の初恋になりそうでならなかった恋はそこで終わり、子供の頃に夢見た恋愛すらも彼女の興味の対象から完全に消された。
自分の散々をとにかく否定し続けた絵美は、ファミリーが崩壊する頃にはほとんど笑わない、母親とビアンキを気遣うだけの存在になっていた。

× × × × × × × × × × ×

「絵美!目が覚めたか!?」

絵美が目を覚ました時、最初に視界に入ったのは自分とよく似た少年、双子の兄、獄寺隼人だった。
なんでお前がここにいるんだと突っ込みたくなったが、意識を失う前の出来事を思い出して、絵美は隼人の服の袖を掴んだ。

「ボス…!ボスは無事!?」
「は?10代目なら無事だが…」
「このド天然!あなたのボスじゃなくて私のボス!」
「ボスなら無事だ、絵美。」

そう言ったのはレヴィだった。
どうやらレヴィも絵美の病室にいたらしい。

「ボスに報告してくる。」

レヴィはそう言って病室から出て行った。
絵美は辺りを見回す。
どうやら隼人だけでなく、沢田綱吉とリボーンも一緒にいるようだった。

「なんで隼人達がここに?」
「なんでって…!妹の心配しちゃ悪いかよ!?」
「そっちから家族の縁切っといて何を今更……」

絵美は呆れたように呟いた。
そしてため息をつく。

「とりあえず無事を確認したんだし、もう良いでしょ。休ませて。」
「お前そんな言い方は…」
「ご、獄寺君。絵美ちゃんは怪我人なんだから。それにそういう態度を取られることはわかってたことでしょ?」

沢田綱吉が獄寺を止めに入った。

「すみません、10代目……」

獄寺はしょぼくれた。
その時、レヴィを連れたザンザスが病室に現れた。
絵美はその姿を見て微笑み、獄寺から手を離した。

「ボス……ご無事で何よりです。」

ザンザスは絵美のベッドの隣の椅子に座っていた隼人を退かし、そこに座った。

「なぜ庇った?死ぬ許可を出した覚えはねぇ。」
「おまっ…ふざけ」

隼人が抗議しようとして綱吉に止められた。

「申し訳ございません、ボス。」
「言い訳ぐらいは聞いてやる。」
「その……体が勝手に動いてしまって……」

絵美は素直に答えた。

「あ?……チッ、本当らしいな。絵美、次やったら俺がテメェを殺す。」
「承知しました。」
「おい!てめ…」
「獄寺君!」

またキレかける隼人を綱吉が制止する。
絵美はザンザスに向けたものとは打って変わって冷たい目線をそちらに向けた。

「まだいたの?もう帰ったら?」
「そうだそうだ!目覚めた絵美が嫌がるなら速やかに出ていくことは見舞いの条件だったはずだ!」

絵美に便乗してレヴィが言う。

「そうだけど…!絵美ちゃん、ちょっとだけでも獄寺君と話を…!」

なぜか綱吉が食い下がった。

「そもそも絵美ちゃんって何?私とあなた、そんなに仲の良い間柄?」

本気で嫌そうに絵美は綱吉に言った。

「ご、ごめん…!でも君は俺の友達の大切な家族だから…!勝手に仲良くできると思っちゃってた所はあるんだけど……と、とにかく!獄寺君とビアンキに機会が欲しいんだ!」

絵美はため息をついた。

「……わかったから、治ってからにして。ボス、お騒がせしてすみません。」
「…ああ。」
「少し……休んでも良いですか?」
「勝手にしろ。」
「はい、ありがとうございます。」

絵美は微笑む。
隼人は何でそんな顔を絵美がザンザスに向けるのかわからなかった。

「テメェら出て行け。」

ザンザスのその一言で隼人達は帰ることにした。

「あのヤロー、自分を庇った絵美相手に冷たくしやがって!」

隼人は帰る途中、悪態をついた。

「言い方はあれだけど、冷たくはないと思うよ。」

綱吉は諭すようにそう言った。

「ですが、10代目…」
「要はザンザスの言いたいことって自分の命を粗末にするなってことでしょ?」
「言われてみれば…」
「絵美ちゃんって随分ザンザスに気に入られてるんだね。」
「ダメツナにしては鋭いじゃねーか。だが、まだまだだな。」

ここまで黙って見守ってきたリボーンが口を開く。

「ザンザスと絵美、できてんぞ。」
「「えっ……ええええぇぇぇっ!?」」

綱吉と隼人の驚愕する声が見事にシンクロした。

「な、なんでそう思うんだよ、リボーン!」
「あのザンザスが他人を心配する時点でレアだろ。基本的に自分以外はカスで自分を崇めてりゃそれで良いって奴が、庇われたことで怒るのは可笑しいだろ?まあ、自分の実力を舐められているってことで怒る可能性はあるが、今回は明らかに絵美が自分を犠牲にしたことに怒ってたじゃねーか。わかりにくいが、あれがザンザスなりの愛情表現なんだろう。」

その言葉を聞いて隼人は目眩がした。

「絵美も命を懸けて守る程度にはザンザスを愛してるみたいだな。本人に自覚はなさそうだったが。」
「いや、でも絵美ちゃんに関してはただの上司思いな気も…」
「ああ、お前達には言ってなかったな。そもそもザンザスと絵美は体の関係があるって噂があるんだ。」

その言葉で遂に隼人は倒れた。

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