予想外の訪問者

絵美が帰国した翌日、ヴァリアーには予想外の訪問者が現れた。
絵美はそんなことは露知らず、自室に篭って毒の勉強をしていた。
そんな彼女が新しい本を探そうと自室を出ると、なぜかレヴィが彼女の部屋の前に立っていた。

「あれ?レヴィさん。何かご用ですか?」
「いや……用は特にない。その、なんだ……本調子ではないお前に何かあってはボスに合わす顔がないからな。」
ヴァリアー本部(ここ)で私を殺そうとする人なんています?」
「いないとは思うが……」
「ですよね?なので護衛は大丈夫です。ボスに監視しろと命令されたのなら、仕方ないですが。」
「そ、そうだ!ボスに言われたのだ!お前を監視するようにと!」
「そうですか。レヴィさん……」

絵美はレヴィに詰め寄った。

「ダウト」

そう言ってレヴィの口にポイズンクッキングをお見舞いした。

「ぬおぉぉっ!?」

レヴィは悲鳴を上げながら腹を抑えた。
そしてがくりと膝をつき震えながらその場に倒れた。
絵美はレヴィの前にかがみ込み、彼の様子を面白そうに見ていた。

「動けないほどお腹痛いでしょう?このままでは漏らしてしまいますよ?何を隠しているのか話してくださるなら解毒剤をあげます。」
「いや……それは……」
「2分以内には第1波の限界がくるでしょうね。」
「ぐっ…」
「ちなみに個人差はありますが10分おきに第20波まで来ますので、症状が落ち着く頃には糞塗れになってるでしょうね。しかも、物凄い勢いで脱糞するので切れ痔になること間違いなし。1週間はろくに椅子に座れなくなりますよ?」
「ぐぬぬぬ……無闇に俺を傷つけてボスが」
「ボスは間違いなくレヴィさんをかっ消しますよ?だってボスの許可なく私の部屋の前にずっといたのでしょう?」
「ぬぅ!?確かに!」
「やっぱり。さ、レヴィさん。なぜ私の部屋の前にいたのか話してください。」

絵美はニッコリと笑った。
レヴィは解毒剤の半量と引き換えに白状した。
ボンゴレ9代目が今このヴァリアー本部に訪れていると。
用件はビアンキがリボーンを通して要請した件について。
ザンザスが自ら9代目を迎え断っているが、9代目も伊達にザンザスの父親をしていたわけではない。
彼はしっかり粘り、ザンザスと交渉を続けているという。
レヴィは気を回したスクアーロに指示され、絵美と9代目を接触させぬよう彼女を見張っていたとのこと。

「ボスもスクアーロさんも私のことをよくわかっておいでですね。」
「?」
「そんなこと聞いたら私が9代目に断りに行くって。」
「絵美、やめろ!ボスは絶対望んでない!」
「でしょうね。でなければ私に黙ってわざわざボス自ら9代目との話し合いの席につくわけがない。」
「理解してるならなぜ…!!」
「見た目通りのただ穏やかで優しい老人に長期間ボンゴレのボスが務まるとは思えません。間違いなく腹に一物を持ってる。私が直接断らなければ粘るでしょうね。あ、これ残りの解毒剤です。」

絵美は解毒剤の残りが入った瓶をレヴィの手に押し付けると立ち上がり、早速客室へと向かった。
やはり、そこからザンザスとスクアーロの強い殺気が漏れ出ていた。
知らない殺気も出ているが9代目の同行者、恐らくは彼の守護者だろう。
部屋の前にはルッスーリアと9代目の守護者と思わしき人物が待機している。
絵美は彼らの前に姿を現した。

「えっ!?なんで!?今は入らない方がいいわ!」

ルッスーリアが小声だが強い口調で警告する。
絵美は黙って首を横に振った。

「私のことで揉めているのでしょう?当事者が出るべきです。」
「ボスはそれを望んでないもの。レヴィはどうしたの?」
「レヴィさんなら私の部屋の前で腹痛に悶えてますよ。解毒剤は渡したのでその内ここに来ると思いますが。」
「9代目、獄寺絵美殿が部屋の前にお越しです。」

ルッスーリアの気を絵美が引いている内に、9代目の守護者が絵美の来訪を知らせた。

「はああぁ゛!?レヴィはどうした!?アイツに監視させてたはずだぞ!?」

スクアーロの怒りの声が扉越しにはっきり聞こえる。
絵美は勝手に扉を開けた。
中には9代目とそのお付きの者、ザンザスとスクアーロがテーブルを挟み対峙していた。

「本調子でなくてもレヴィさんを騙し討ちするぐらいは余裕です、隊長。9代目は私にお話があると聞きました。ボス、対話の許可をいただけますか?」
「ダメだ。」
「ボスにそう言われては私は何もできないのですが……」
「何もしなくていい。部屋に戻れ。」

絵美は仕方なく踵を返そうとした。
しかし、それを9代目が止めた。

「絵美ちゃん、戻らなくて良い。ザンザス、私は絵美ちゃんの口から話を聞きたいんじゃが。」
「るせぇ。帰れ、クソジジィ。」
「ザンザス、自信がないのか?」
「ああ゛?」
「絵美ちゃんに選ばれる自信がないから彼女の意見を聞く気がないのか?」
「ふざけたことをぬかすな、老いぼれが。絵美は絶対俺を選ぶ。テメェに会わせるつもりがなかったのはコイツが病み上がりだからだ。」
「本当にそうかどうかは絵美ちゃんに直接聞いてみなければわからないのう。」
「チッ……絵美、発言を許す。」

ザンザスのその一言によって、絵美はザンザスの後ろ隣に立った。

「9代目、昨日あなたが私を沢田綱吉が率いるファミリーへの移籍を許可したとお姉様から伺いました。ただし、私の同意があればの話と。私はヴァリアーにいたいです。」
「その理由を聞かせてくれるかね?」
「私のプライベートに踏み入るおつもりでしょうか?たかが嵐の守護者候補のために?」
「獄寺君は私が見込んで綱吉君と引き会わせたのだ。その彼と彼の姉からの願いを無視する訳にはいかない。」

9代目の目を見て、絵美は嘘八百を並べ立てても彼は納得しないと確信した。

「第一に私はザンザス様に絶対の忠誠を誓っています。出会った瞬間からザンザス様が私のボスだと確信していました。ボスが離れろと言わない限り、ここを離れるつもりはありません。第二に私は暗殺者としての自分の能力に自信と誇りを持っています。怪我で体力筋力共に落ちてしまいましたが、これを取り戻す自信もあります。私が私でいられる場所はヴァリアー(ここ)しか考えられません。」
「ふむ、確かにヴァリアーにいたい理由はわかった。だが、兄弟を拒む理由もあるんじゃないのかな?」

絵美はしばし黙った。
やはりこの男只者ではないと確信した。
答えて諦めてくれるかはわからないが答えなければまだ納得はしないだろうと判断した絵美は小さく溜め息をついた後、質問に答えた。

「第三にお姉様と一緒にいると負い目を感じるからです。第四に隼人は私にとって裏切り者です。居心地の悪い城に私を置き去りにしていきました。本人にその自覚もなく、謝罪もされていません。そんな隼人に兄貴面されても困ります。……2人共私の知らない所で勝手に幸せになって勝手に死ねば良いんです。私のことなんか、忘れて。」
「君は……2人を愛しているんだね。」

絵美は目眩がした。
愛、愛、愛   
日本で入院してから今日まで何度絵美はその言葉を聞いただろうか。
いい加減彼女はその言葉にうんざりしていた。

「なぜそうなるのですか?私にとっては2人共どうでも良いんです。私の邪魔さえしなければ。」
「愛しているからこそ負い目を感じたり、裏切られたと感じたりするんじゃろう。」

一拍置いて9代目は絵美に尋ねた。

「絵美ちゃん、君はザンザスが殺せと命じれば兄弟を殺すのかい?」
「はい、殺します。」
「殺した後のことを考えたことはあるかい?」
「おい、ジジィ!」

ザンザスが口を挟んだ。

「今私は絵美ちゃんと話しているんだ。お前は口を挟むな!」

9代目は物凄い気迫でザンザスを制止した。
こんなことに怯むザンザスではないが、絵美が大丈夫だと言わんばかりの視線を送ったことで彼は引いた。

「人間皆死んだ後はただの有機物の塊になりますが、それ以上に何かありますか?」
「2人のことじゃない。殺した後の自分が何を思うか考えたことはあるかい?」

絵美は黙った。
考えたことがなかったからだ。
絵美は城を出てから、目先のことを優先し遠い未来のことからは目を背けて生きてきた。
当然、2人を殺した後のことを考えたことなどなかった。
彼女は瞼を閉じて、想像してみた。
2人のグチャグチャになった遺体の前に立つイメージをした時、吐き気に襲われた。
それをグッと堪えて、目を開き、9代目の見透かすようなその目を真っ直ぐ見た。

「……きっと自分のことを一生許せないでしょう。でも、だから何だと言うのですか?私はプロの暗殺者です。殺さない理由にはなりません。」
「そうか………。よくわかった、君が愛故に兄弟と距離を置きたいことも、殺し屋としての誇りを持っていて生半可な覚悟でヴァリアーにいる訳ではないことも。それならば私はこれ以上移籍を薦めない。」
「とりあえず私がここにいたいということはご理解いただけたようで何よりです。」
「本人から意思確認をすることもできたし、私はこれでお暇しよう。」

9代目は立ち上がった。

「良かったのう、ザンザス。お前が惚れた子が心底お前を尊敬し愛してくれていて。」
「あ゛?」

ザンザスは9代目を睨んだ。
絵美は抗議しようとしたが、また不用意な発言からザンザスを怒らせてしまうことを懸念して、ここは堪えることにした。

「9代目、第三、第四の理由はお姉様と隼人には伝えないでください。」
「そうじゃの、世の中知らない方が良いこともある。獄寺君については本人が気付くべきじゃろうし…。逆に伝えて欲しいことはないかね?」

絵美は首を横に振った。

「伝えるべきことはとっくに伝えました。これ以上私から2人に関わることはありません。」
「そうか。絵美ちゃんは体調が悪いようじゃし、今度こそお暇するよ。」

そう言って9代目は守護者と思しき者達と共に部屋を出て行った。
絵美はその場に蹲った。
ザンザスは予測済みだったのか特に動揺はなく、どちらかと言えばスクアーロが動揺した。

「絵美!?」
「頭が……痛いです。目眩がします。クラクラして気持ち悪い……」

絵美は正直に不調を訴えた。

「たがら言ったんだ、部屋に戻れと。どうもテメーは家族の話となると感情的になるらしい。」

絵美は視線だけザンザスに寄越した。

「感情的……ですか?」
「自覚ねぇのか?」
「昨日は感情的になった自覚はありましたが……今日も?」

ザンザスは頷いた。
それを見て絵美は俯いて、どこか皮肉げに呟いた。

「そうですか……。まだまだ未熟ですね、私。」

ザンザスはそんな彼女を抱きかかえて客室を出た。
共に客室を出たスクアーロは外にいるルッスーリアに声をかけた。

「う゛お゛ぉい、レヴィはどこにいる?」
「多分、絵美の部屋の前でしょうね。」
「そうかぁ゛、アイツは3枚に卸す!!」
「いってらっしゃ〜い」

呑気に手を振るものの、ルッスーリアは内心絵美の毒にやられた後にスクアーロの斬撃を受ける憐れなレヴィに少しばかり同情していた。

- 16 -

prev | next

back to index
back to top