監視任務

絵美はどこか不満げな表情で森の中を走る。
彼女はとある任務に向かう所だった。

「(監視も大事な任務ではあるけれど、今回は絶対9代目の思い通りで……気に食わないな……)」

そんなことを考えながら。

話は数時間前に遡る。
スクアーロに呼び出され、久々に任務に出れると内心喜びに震えながら絵美はスクアーロのもとへ向かった。

「絵美、テメーにはジッリョネロで白蘭を監視してもらう。」
「白蘭って……10年後の世界でボンゴレを攻撃したドカスの白蘭でしょうか?」
「ああ、その白蘭だ。」
「その……色々と突っ込み所が。」
「言いたいことはわかる。まず、白蘭がジッリョネロにいるのは奴が勝手にやっていることだ。代理戦争の後もユニに付き纏っているらしい。ボンゴレとしては例えユニの監督下だとしても白蘭を野放しにしたくねーってことで、ユニの協力のもと必ず白蘭には監視を付けている。その監視役が身内の不幸で1週間休暇を取得することになったんで代役が必要になった。で、ユニと年も近く同性の絵美が選ばれた。」
「それ絶対こじつけですよね?9代目が私とボスを引き離したいだけですよね?」
「俺もそう思うが、テメーの体調と今後のキャリアを考えるとこの話乗って損はねぇ。」

絵美は思考した。
確かに彼女の体は怪我をする前の状態には戻っておらず、お腹の傷痕も時々引き攣って痛む。
それでも彼女は今まで通り任務がこなせるまでの状態には戻せたと考えているが、先々のことを考えればいきなり無理をせず軽めの任務をこなした方が彼女の体には良いだろう。
絵美は溜め息をついた。

「わかりました。ボスと隊長がそのように判断したのなら、従わない訳にはいきません。」

こうして彼女はジッリョネロへ向かい、今に至る。

森を切り抜けると古びているがどこか温かさを感じさせる屋敷があった。
タイミング良く玄関から紫髪の少年と金髪の少女が飛び出してきた。

「誰だ、お前」

少年は絵美を訝しげに見た。
少女は少年の後ろに隠れ、達磨さんが転んだでもするかのように顔をチラチラと見せる。

「ボンゴレから来た獄寺絵美です。ユニさんはどこ?」
「知らない奴に教えるかバーカ!」
「私はボンゴレから正式に派遣されているの。そこを通してもらってもいい?」
「やだね!」
「野猿、コイツどうやっつける?」

野猿と呼ばれた少年は舌を出し、少女もそれに倣う。
絵美は溜め息をついて彼らをスルーした。

「すみませーん!ボンゴレから派遣されてきた獄寺です!どなたかいらっしゃいませんかー?」

屋敷に向かって大きな声でそう言うと2階の窓が開き、一房を除き肩上で髪の毛を切り揃えた少女が姿を現した。

「こんにちは!絵美さんですね、話は伺っています。どうぞお入りください。」

温かな笑顔で少女は絵美を迎えた。
絵美は足を蹴ってくる少年少女は無視して、屋敷の中に入った。
中央の階段から先程の少女と金髪を逆立てた青年が降りてくる。

「野猿!ブルーベル!お客様を蹴飛ばさないでください!」

少女に注意されて、少年達は素早くどこかへ身を隠した。

「すみません、あの子達はまだ幼いので…」
「いえ、大丈夫です。ジッリョネロのユニさんですね?」
「はい!初めまして、獄寺絵美さん。」

この出会いに感謝でもしているかのように笑う彼女に、絵美も釣られて微笑んだ。

「あなたはγ(ガンマ)さんですね。」

少女の1歩後ろに控える青年に絵美は声をかけた。

「ああ。ヴァリアーの隊員を送るとは聞いていたが、まさか獄寺隼人の妹が来るとは思わなかった。」
「ユニさんと年が近く、同性だからという人選らしいです。」
「ボンゴレ9代目が気遣ってくれたんですね。このアジトでは年の近い女性がいないので嬉しいです。」

ユニは微笑む。
絵美は気遣ってくれたという言葉に複数の意味がかかっているように感じた。
敢えて確認してみたりはしないが。

「1週間宜しくお願いします。それで、白蘭はどこに?」
「ここだよ♪」

上から声が降ってきて、絵美は声のした方を見上げた。
中央階段に繋がる2階の回廊から、小さな白い龍を従えた白蘭が絵美を見下ろしていた。
彼は背中から小さな羽を生やし、階段を使わずにふわふわとゆっくり降りてきた。

「まさか僕の監視役の代理が絵美ちゃんなんてね。」
「私を知っている口振りですね、白蘭。」
「ヴァリアーを弱体化させるために未来の君を殺す作戦を考えたのは僕だからね♪」

白蘭はニコニコしながらとんでもない爆弾発言を投下した。
ユニとガンマは気まずそうな顔をしている。

「そうなんですか?」
「うん、パラレルワールドでザンザス君は絵美ちゃんと一緒に孤立すると、絵美ちゃんを庇って戦って本領を発揮できないって知ってたからね。」
「なるほど、そういう状況に追い込んで結局死んだのはボスではなく私だったと。」
「まあね。その作戦でヴァリアーを全滅させるつもりだったけど、絵美ちゃんが死んじゃったせいでザンザス君の足を引っ張るものがなくなるどころか、彼ブチギレて無双しちゃって却って藪蛇だったよ♪」
「ブチギレ………私のためにそこまで怒るボスって想像できないな…」

絵美はぼそりと呟いた。

「なんで?ザンザス君この時代から絵美ちゃんのこと大好きなんじゃないの?」
「うーん………そういうのとはちょっと違いそうです。ボスが私に抱いていそうな感情でいうと……所有欲とか支配欲とか。」
「ふーん、そうなんだ。」

白蘭は含みのある笑みを見せる。
絵美はこの男にまともに取り合ってはいけないとこの問答で理解した。

「とにかく、1週間宜しくお願いします。」
「そういえば絵美ちゃんはトイレやお風呂もついてくるの?」
「中には入りませんよ。前で待機してます。」
「なぁんだ。絵美ちゃんの反応を期待していたのに。」

絵美は冷たい目を白蘭に向けた後、ユニを見た。

「ユニさん、こんな人に付き纏われて迷惑しません?」
「迷惑している」

即答したのはガンマだった。
ユニは眉を垂れ下げて笑う。

「毎日賑やかで楽しいですよ。」
「(毎日騒々しくて大変ってことか)」

絵美は白蘭にはできるだけ真面目に取り合わないようにしようと心に決めた。

「あ、そういえばユニさん、あなたにお会いしたらお聞きしたいことが1つあったのです。」
「アニマルリングのことでしょうか?」
「はい」

絵美は頷いた。

「アニマルリングが届いた人の共通点は未来で共闘したことだと思っていたのですが、白蘭や未来に生きていなかった私にまで届けた理由は代理戦争のためですか?」
「はい」

ユニはいつもの笑顔を浮かべていなかった。

「全てを予知できた訳ではありませんが、代理戦争で必要になるため、参加者で未来にてボックスを持っていた皆さんにお配りしてもらいました。」
「実行したのはヴェルデですか?」
「はい、あの方は借りを返す性格ですので。」
「理解しました。ありがとう、新しい相棒に会わせてくれて。」
「どういたしまして。」

ユニはまたいつもの笑顔を浮かべた。

× × × × × × × × × × ×

「暇なら私の稽古つけてくれない?」

暇だと主張し続ける白蘭に絵美がそう提案したことから、白蘭は絵美の(ボックス)兵器の進化系であるアニマルリングを使用した戦闘の稽古をつけることになった。

「絵美ちゃんは10年後の記憶がないのにもうそんなにアニマルリングを使いこなせているんだね♪教えることある?」

絵美のアニマルリングは嵐属性のチーターと雲属性のハイエナ、即ち嵐狩猟豹(
ゲッパールド・テンペスタ
)
雲鬣犬(イエナ・ヌーヴォラ)だ。
チーターにはフーガ、ハイエナにはカノンと名付けた。

「戦闘で活かせて初めて使いこなせたと言えるんじゃないかと。まだ基本的な技を使わせる指示をしたぐらいで、この子達を含めた自分の戦闘スタイルが確立できてないんです。」

絵美はフーガとカノンの頭を撫でながら白蘭の質問に答えた。

「なら僕は君の対戦相手になればいいのかな?」
「話が早くて助かります。」

絵美は剣を構えた。
そしてその剣に雲の炎を纏わせ、白蘭に向かって行った。

- 18 -

prev | next

back to index
back to top