3度目の正直

昨日の今日で凄くツナ君に会いたくない。
でもどうにかしてこの気持ちを吹っ切れないかと思う僕がいた。
やっぱり、ツナ君の幸せを実現しながら僕が吹っ切れる方法はあれしかないと思う。
だから僕はツナ君に合わせたタイミングで玄関の扉を開けた。
温かみのある丸くて大きな目と僕の目が合う。

「おはよう、ツナ君。」

できるだけいつも通りを心がけて彼に近づく。
ツナ君はどこか気まずそうに、気恥ずかしそうに視線を合わせないようにして門を出てきた。

「お、おはよう、優希……昨日は突き飛ばしてごめん…」
「ううん、大丈夫。僕も悪ふざけが過ぎたし。」

するとツナ君はあからさまに表情を緩めた。
超直感を持っているツナ君は僕がツナ君に恋をしていることに気付いたかもしれない。
でも、ツナ君はそれを認めたくはないだろう。
僕のことを兄弟に近い友人と思っているのだから。
そうわかっていて、悪ふざけという言葉で片付けた。
ツナ君にとってはきっととても都合の良い言葉なはずだ。

「ところでさ、ツナ君。ツナ君は2度京子ちゃんへの告白失敗してるだろ?3度目の告白はしないの?」
「い゛っ…えっ…!?なんで急に…!?」
「しかも前回は告白する前にトラブルがあったせいで告白できなかっただけでフラれた訳でもないだろ?リベンジしないのかなって…」
「なっ、何で急にそんなこと…!?」

ツナ君は顔を真っ赤にしながら狼狽える。
それはもう首まで真っ赤だ。

「うーん……ツナ君が曖昧な態度を取ってるとね、中途半端に期待してモヤモヤする子がいるから。」

ハルちゃん然り、僕然り。

「ハ、ハルのことを言ってる?」

ニコリと笑ってその質問には敢えて答えなかった。
だって半分正解で、半分不正解だもん。

「眼中にない女の子はさっさとフラないとさ、期待する時間が長ければ長いほど深く傷つくよ?」
「そ、それはそうかもしれないけど…」
「そうだな、ツナ。いい加減男なら決めやがれ。」

いつの間にか沢田家の塀の上にいたリボーン様がレオンを銃に変化させてツナ君へ向ける。

「ちょっ!?まっ…」

バァン!と銃声が鳴り響いて、ツナ君は後ろに倒れた。
そして額にオレンジの炎を灯し、パンツ一丁の姿で起き上がる。

復活(リ・ボーン)!!死ぬ気で笹川京子に告白するー!!」

ツナ君はそう叫んで学校へ向けて走った。
僕はツナ君が置いて行ったカバンを拾い上げた。

「これで良かったのか?」

リボーン様はきっと僕の気持ちなんか全てお見通しなんだろう。

「…はい。コロネロさんの献身的な愛を見た時に決めたんです。僕も愛する人の幸せのために行動できる人になろうって。」

上手く笑えたかな?
わからないけれど、僕はツナ君を追いかけた。
学校の校門に着いた頃、ちょうどツナ君に追いついた。
そしてベストタイミングだったみたいで京子ちゃんの顎を掴んでいるツナ君がそこにはいた。

「笹川京子!!オレと付き合ってください!!」

京子ちゃんは驚愕の表情を浮かべつつも少しずつ頬を赤く染めて頷いた。

「宜しくお願いします…」

小さな声で彼女は間違いなくそう言った。
死ぬ気が解けたツナ君は京子ちゃんの顎から手を離してしばらくポカンと呆けていた。

「……え……えっ!?本当にいいの!?」

京子ちゃんは黙って頷く。
ツナ君は顔どころか全身を真っ赤にしてカチコチに固まった。

「ツナ君、京子ちゃん、おめでとう。」

初々しい2人に話しかけにいって、ついでにツナ君にスクールバッグを渡した。

「良かったね、2人共。」

2人はぎこちなく頷く。
心が痛い。
真っ二つに引き裂かれそうな痛みがある。
でもめいっぱい祝福しなきゃ。

「とりあえずツナ君は服着た方がいいよ。」
「あっ…うん!」

少し正気に戻ったツナ君は頷く。

「じゃ、また教室で」

頑張って笑顔を作ってそう言って、2人の横を通り過ぎて昇降口まで真っ直ぐ歩いた。
下駄箱の前で涙をグッと堪える。
ここまで来るまでは普通に振る舞えたのに、急に色んな感情が迫り上がってきて心がぐちゃぐちゃに押し潰されそうだった。
僕がツナ君を好きだってことを誰にも悟られたくないから、どうにか平静を装って靴を履き替えようとしたその時、突然右手首を掴まれた。

「えっ?」

掴んできたのは獄寺君だった。

「行くぞ。」
「へっ?」
「今日はふけんぞ。」
「えっ?えっ?」

状況が理解できないまま僕はされるがまま獄寺君についていく。
校庭ではパンツ一丁のツナ君が雲雀さんに追いかけ回されていて、あー、風紀乱したって怒られてるのかって他人事のように思った。
僕らはそのまま校門を出て前にスクアーロさんに襲撃された時に遊びに来ていたゲーセンの前に着いた。

「今日は遊び倒すぞ。」
「どうしたの?急に…」
「急なのは守屋の方だろ、さっき10代目に告白促してんの見てたけどよ………10代目がフリーだと期待しちまうのはアホ女だけじゃなくて……おまえもだろ?」
「!!」

まさか獄寺君が僕の恋心を知ってるなんて思わなくてびっくりした。
獄寺君ってちょっと異性と身体的接触があったくらいで真っ赤になるピュアな男子だと思ってたのに。

「野球バカみたいな発想しかできねーのが癪だが、こういう時はやっぱ気分転換だろ?」
「あ…ありがとう…」

戸惑いはまだありつつも、今度は作り物でもなんでもなく笑顔が溢れた。
獄寺君の気遣いがすごく嬉しくて。

× × × × × × × × × × ×

「君達並中生だよね?」

2人で並んで座って黙々とメダルゲームで遊んでる時に話しかけてきたのは警察官2人組だった。

「ああん?」

獄寺君は早速警察官を睨みつける。
あー、これは補導コース。

「並中は今日早帰りでもなんでもないはずだけど、何でこんな昼間からゲームセンターにいるのかな?」

ニコニコしてるけど目が全然笑ってない。
ボンゴレの人間として余り警察とは関わり合いたくないな。

「テメーらにそれ関係あるか?」
「そういう言い方をするってことは学校をサボってるのかな?」
「あ?」

獄寺君は終始喧嘩腰で揉めると面倒くさそうだなと思った。
だから獄寺君の耳元に唇を寄せてこそっと囁く。

「獄寺君、日本の警察と揉めるとツナ君に迷惑かかりそうだからここは逃げよ。」
「なっ…(ちけ)ーよ、バカ!」

顔を赤くして獄寺君は僕から一歩離れる。
同じ椅子に座ってるから上半身だけだけど。
でもすぐに冷静になったのか、溜め息をついた。

「君達付き合ってるの?」
「?」
「はぁっ!?」

取り戻した冷静さはすぐに吹き飛んだみたいで獄寺君は顔を真っ赤にする。
うぶ過ぎないかな、この人。

「付き合ってないですよ?」
「ふーん……そういうことか。」

付き合ってることを否定したら、なぜか警察官2人は目を合わせてニヤニヤ笑っている。
しかもその視線はなぜか獄寺君に向かっている。

「〜〜〜〜っ!!行くぞ!!」

そう言って獄寺君はまだまだ残ってるメダルを放置したまま、僕の手首を掴んで引っ張って、走ってゲーセンから出た。
また僕は行き先がわからないまま獄寺君について行った。

到着した先はどう見ても単身用のアパート。
もしかして獄寺君ん家かな?
いつの間にか警察は巻いていて辺りに人はいなかった。
僕の予想は的中したみたいで、獄寺君はポケットからキーケースを取り出して2階の一室の扉を開けた。

「ほら、入れよ。」
「うん」

僕は促されるまま、獄寺君のお家に上がった。

「寒くねーか?」
「外よりは寒くないよ。」

そう答えると獄寺君はエアコンのリモコンらしきものを操作した。
暖房をつけてくれたみたいだ。
思いの外獄寺君の部屋は広くて、まさか部屋に入ってすぐにピアノが置いてあるとは思わなかった。

「飯はカップ麺でいいか?」

そう言われて携帯の時間を確認したらちょうどお昼休みが終わったぐらいの時間になってた。

「あ……お母さんが持たせてくれたお弁当ある。」
「じゃあ、そっち食え。」
「うん。荷物どこ置いたらいいかな?」
「好きなとこ置いとけ。」

そう言われて適当にバッグを部屋の角に置いておいた。
獄寺君は奥のキッチンに行って何かしている。
多分カップ麺を作ってるんだろう。
部屋の所々に引っ掻き跡があって、瓜ちゃんがつけたんだなってホッコリする。
とりあえずソファに座って待ってると獄寺君はカップ麺を持ってこっちにやってきた。

「…弁当食わねーのか?」

そう聞かれてそういえば準備してなかったなって思い出して、部屋の角に置いたカバンからお弁当を取り出して持ってきた。
ローテーブルの上にお弁当を広げていると、獄寺君がまだカップ麺に手をつけてないことに気付いた。
まだお湯入れてから3分経ってないのかな?
とりあえずカップ麺ができるのを待とうとすると獄寺君は再度尋ねてきた。

「……食わねーのか?」
「獄寺君待ち。」
「別に待たなくてもいいんだけどよ…」

獄寺君はそう言いながら携帯をチラッと確認する。
多分まだ時間じゃないんだろう。

「せっかくなら一緒に食べた方が美味しいじゃん?お弁当は最初から冷めてるものだし。」
「お、おう…」
「そういえばさ、瓜ちゃんはちょいちょいイタズラするの?」
「ちょいちょいどころじゃねーよ…部屋に放す度に何かしら破壊してる…」

獄寺君は遠い目してた。

「ここって賃貸?」
「ああ」
「出る時大変そうだね……」
「敷金なしの物件だからな…」
「敷金?」
「前金みたいなやつ。原状回復費をそっから差し引かれることが多いんだよ。」
「原状回復費?」

家を借りたことがない僕は色々賃貸の借り方について教えてもらった。
そんなことを話してるうちに時間が経ったのか、獄寺君はカップ麺の蓋を開けて割り箸を割った。

「いただきます」

大好物の甘い卵焼きを半分に割って始めに頬張って、やっぱりお母さんの卵焼きは美味しいななんて思ってると獄寺君が僕を見て目を細めていた。

「冷めた弁当も美味しそうに食うのかよ。」

口の中に卵焼きが入ってる僕は頷いて、飲み込んでから口を開いた。

「そりゃ、お母さんが作ってくれるお弁当は美味しいもん。食べてみる?」
「は?」

獄寺君の開いてる口にすかさず残ってた卵焼きを突っ込む。
獄寺君は驚嘆しながらも吐き出すとかはしなくて、顔を真っ赤にしながら口元を手で抑えてモグモグした。

「どう?」

飲み込み終えた獄寺君は赤い顔のまま、「味わう余裕あるかよ!」とツッコミを入れてきた。

「これ、かかか間接キスだろ!!」
「あ、確かに。」
「確かにじゃねーよ!少しは恥じらいと危機感を持て!家にも普通に上がってきたけどよ、テメーの目の前にいんのは男なんだぞ!!」

あ、確かに。
ちゃっかり1人暮らししてる異性の部屋に上がり込んでるの、普通に宜しくない気はするし、間接キスも異性同士だとやっぱり気になるものなのかな?
でもなぁ……。

「んー、でも獄寺君が僕に変なことするわけないし。」
「…っ!!あったり前だ!!するわけねーだろ!!」
「だろ?信頼してるよ。」

ニッコリ笑ってそう言えば、獄寺君は口を噤んだ後に溜め息をついた。

「…ったく、おまえといると調子狂うぜ…。」

そう言いながらカップ麺を啜ってる。
というか獄寺君ってだいたいいつもコンビニのパンかおにぎりしか食べてるとこ見たことないし、家でもカップ麺だとだいぶ栄養足りてないんじゃないかな?
野菜とかお肉とかお魚とか。
今度お母さんに頼んでうちのご飯食べてもらうか。

お互いにお昼ご飯を食べ終えてお弁当とカップを片付けた。
部屋が温まってきてブレザーはちょっと暑いなと思って脱いで荷物の上に置いてたら、そのタイミングで獄寺君が瓜ちゃんを放った。

「にゃおん」

相変わらず瓜ちゃんは僕に懐いてくれてるようで、足元でスリスリしてくれる。

「今日も可愛いね、瓜ちゃん。」
「にょおん♪」
「これ」

獄寺君が僕に手渡してくれたのは先端にネズミがついた猫じゃらし。

「最近瓜が気に入ってるオモチャだ。」
「ありがとう」

しばらくそれで瓜ちゃんと遊んだ。
瓜ちゃんは普通の猫みたいにネズミを追いかけ回して、正直兵器だとは思えないぐらいだ。
いつのまにか獄寺君はソファに座って本を読んでて、僕はその隣に座って猫じゃらしを振った。

「ロボ達も瓜ちゃんぐらい小さかったらな〜。僕もこうやってロボ達と遊べるんだけど。」
「まあ、アイツらはなぁ…」
「んにゃ!!」

瓜ちゃんが変な声を出したからそっちを見たら、猫じゃらしの紐が切れていて、瓜ちゃんはネズミのオモチャを踏み潰していた。

「えっ……獄寺君、ごめん。オモチャ壊れちゃった…」
「ああ、いつものことだから気にすんな。瓜はアホだから加減ってものを知らねーんだよ。」
「にゃああ゛?」

瓜ちゃんは言葉を理解しているのか、苛立たしそうに声をあげて、次の瞬間には獄寺君の頭頂部に飛びついていた。

「んなっ!?」
「にゃああああああ!!」

そして引っ掻き始める。
獄寺君は立ち上がってなんとか瓜ちゃんを引き剥がそうと頑張る。
顔でないだけマシなんだろうか?
でも獄寺君がハゲたら瓜ちゃんのせいな気がする。

「守屋!!手伝え!!」
「あっ、うん…!」

獄寺君の頭の瓜ちゃんを捕まえようとしたら瓜ちゃんはスルッと僕の手からすり抜けて、獄寺君の後頭部を蹴って逃げて行った。

「どわっ!?」

獄寺君はその反動で僕の方に倒れてきて、スクーデで後ろをガードすれば2人共怪我しないななんて思った僕は、獄寺君を受け止めつつ彼の前に倒れる勢いを殺さないまま後ろに倒れた。
僕の計算上では普通に獄寺君の怪我を防げる予定だった。
結果から言うと怪我は防げた。
でも、倒れ方は思ってたのと違った。

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