ごぽ、と唇から溢れ出したのは、泡交じりの血液だった。腹からこぼれ落ちる肉や内臓はそのあたりに散らばっていて、もう一歩も動けない状態だ。止めていたはずの出血が再開して、身体から熱が流れ出ていく感覚がある。手首から先もない。転がっている左手を、苦し紛れに持って、切断面に寄せてみる。くっつくわけもなくて。乾いた笑いが湿った音が立てた。

 ああ、行くところミスった。迷っちゃったもんなぁ。迷惑かけちゃうって、思ったら、変な路地裏だよ。これ死んじゃうよね、能力も勝手に解除されちゃって血も止まらないし、寒いし。でも、もう、頑張らなくても、いいんだし。

 空が明るいのか、暗いのかも判断が付かない。今は何時だろう。彼らはこれから幸せに過ごせるだろうか。死ぬ前に少しだけ考える時間がある。それはとても幸せだ。最初にわたしの死体を見つける人には申し訳なさがある。本当にごめん、要らないトラウマを突き付ける羽目になってしまった。わたしも好きで死ぬわけでは、いや、今死に抵抗してないから、好きで死ぬのかな。どっちだろうか。海が見たいな。綺麗な海。綺麗な海みたいな瞳。きっとわたしが死んだことを、彼らは後悔する。いいんだよ、忘れて。わたしなんかどうせいなかったんだから。忘れてただただ幸せになってほしいな。家族を作って、幸せに暮らしてほしい。みんな、幸せになってほしいなぁ……。

 目を閉じようとして──緑色の光が一瞬だけ、見えた。

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや待って、痛みなくなったし、寒いのもなくなったんですけど? はい? どういうこと? こちとら傷心で死ぬ準備噛まして恥ずかしいモノローグで脳内埋め尽くしてたんだけど? なんなの? なに? え? 動けないけど? どういうこと? はい????? これいったい何の時間だって言うの? いや待って、もしかして死ぬってこういうことなの? わたし、地縛霊? もしかして死ぬと魂的なものになって、その辺に転がっている感じ? 嘘じゃん。マジか。これ、もしかして摩耗するまでこのまま系? おーい、ヴィトちゃん? ヴィトちゃ〜〜ん? はい、反応なし。スタンド能力に話しかけても無意味。わたし精神状態で一人。多分死んでる。マジで? は〜〜〜〜〜笑える。これ精神消耗するまでの耐久戦だったら、めちゃくちゃ考える時間あるじゃん。

 脳内でため息をついて、それからすぐに切り替えた。

 ここからは人生のロスタイム、すなわち自由時間ということします。なら、頭の中でリストの曲流そ〜〜〜!!! 久しぶりのクラシック漬けじゃーい!!!


mae ato
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