目の前で起こった光景に年端の行かない少女はひどく困惑していた。そして。



くるりと半回転をして家の玄関に向き合うと中に向けて元気よく声を掛けた。「じゃあ行って来るね!」少し間を置いて返ってきた返事を聞いてから扉を閉じるとふふっと笑った。年相応の笑みを浮かべる彼女はアキという名である。飛ぶような一歩を踏み出せばもみじ色の髪がふわりと膨らんだ。
いつもと同じだけれどいつもと違う、そんなことがアキの胸を躍らせていた。それは彼女一人だけの散歩と至ってシンプルな理由だった。天気が悪くならなければいつも欠かさず行う散歩は彼女の生活の一つ。しかし一人で散歩をするのは今日が初めて、ただそれだけのことが子どもの彼女には楽しいもの。いつも歩くときに見る光景がどこか違って見えるような錯覚がおかしくてまた笑った。

日課になっている散歩は決まったコースを歩いていた。連れ添う相手に合わせた歩きやすい道。しかし今日はアキ一人。
いつもは行かない道を迷わず選んだのは気分が大きかったからだろう。あれはなんだろう?そんな無邪気な知りたがりは目をキラキラさせた。


はじめてのおつかいならぬひとりさんぽは、疲れを感じないほどアキの足取りは軽いまま。進んだ先は何度か来たことのある場所――里の中心だった。ここの賑やかさを見るのは初めてな事ではないがやはり違うように見えていた。
後ろ手に歩きながら以前も二人でやって来て甘栗甘でお茶をした思い出を頭の中に浮かべたアキはお土産を買って行こうと思いつく。早速甘栗甘へ向かうと小遣いで団子を5つ包んでもらった。
具合が悪いからと申し訳なさそうに家に残ったあの人にこれを渡せば喜んでもらえるだろうか。優しい笑顔が目に浮かんでぴょんとスキップして行けば通行人に微笑ましく見られていた。


「バケモノ! あっちいけー!」

家路の途中。そんな声が聞こえてくると側頭部に硬いものが飛んできた。突然の痛みに顔を歪めてコロリと足元に転がる石を見つけてそれを拾う。なんで小石が当たったのかわからないアキは痛む箇所を擦りながら飛んできた方を見た。そこでは男の子たちが遊んでいた。石投げなんて危ないなと顔を顰めたけれどよくよく見ると違うようだった。
一方的な攻撃をたったひとりの子にしていた。どうやら年下の子をいじめている、そういうことらしい。
我関せずと頭を擦ることをやめて歩き出した。もうお日様が低い。早く帰らないと心配させちゃう。日が傾いてオレンジ掛かった空を見上げて、手の中に残っていた小石をぎゅっと握りしめた。

通りすがりの大人が止めに入らないその中にアキはお返しだとばかりに小石を投げた。何も考えず、ただ腹が立ったそれだけで。小石の行く先のことはこれぽっちも考えなかった。誰かに当たる訳ない。頭の隅でそんなことは思ったが。
だからそれが、まさか。

「・・・・・・・・・あ」

いじめられていた男の子に当たるなんて誰が知ろうか。しんと嫌な静けさがこの場を包んだ。
投げられる物から逃げるように向けた方から石が飛んできて、避けられず顔面に当たった男の子と目が合った。思っていたのと違う状況に思考が停まったアキは男の子と目が合って我に返る。ちがうの。声が出せないほどひどく困惑した。そして赤い血が流れるのを見て、呼吸を忘れた。どうしよう。心がずんと重くなった。

とにかく謝らないと。そう思って口を開くが男の子は走り出してしまった。「ぁ・・・待っ・・・」追いかけて行きたいのにショックで動けない。そんな彼女の周りをいじめていた子たちがよくやったと愉快そうにアキの肩を叩いて褒めた。見知らぬ少女の介入は彼らにとって驚き以上に喜ばしいことのようだが、当の本人は犯した自責に苛まれていた。初めて人を傷つけた、幼い彼女には大きな衝撃だから無理もない。

「アイツの泣き出した顔見たかよ〜。いい気味だぜ」
「お前どこの家の子? ここらじゃ見ないけど」

アキの気持ちなど知りもしない彼らはすっきりした顔つきでそう話しかける。暗く答えるアキとは反対に彼らは明るい調子で遊び仲間としてアキを誘った。明日からそこの公園に集合な! ぎこちない頷き一つを見届けて彼らは帰って行った。

重たい歩調で帰宅すると迎えてくれた人の温かさに涙をこぼして抱きついた。お腹に顔を押し付けるアキの様子に何かあった、そうすぐに察したが何も言わずに頭を撫でる手を優しくさせる。
その包み込む優しさにきゅうっと胸が痛くなって瞼を閉じればあの男の子が見ていた。

ゆるさない。

睨んだ目が物を言った。そんな気がした。
赤い血が細い線のように流れているのに気付くと自分の犯した行為に涙が止まらなかった。




(第一話。スラリと書けたからいつか表にあがりそう)

16.03.13 23:01 naruto(bun)
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