・5話のボツ 「蓮くんて硬派っぽいけど実は・・・」 クラスで繰り広げられた『蓮くん談義』に切羽が詰まるような焦燥を感じた。笑った顔を見た子がいるって話。嬉々とした会話の中で私はまさかと思いながら当たりをつけていた。(もしかしたらあの時かな)ああやって笑う顔をみんな知ってるはずだってわかってるのに自分だけしか知らなかったらいいのに、とかわがままなことを思う。 一貫して笑わないで通された一ノ瀬くんイメージにヒビが入るのをどこかで快く思っていない自分がいてため息が出た。 「あ・・・」 考えに耽っていた私は窓に額を押し付けて下を見るエリーの声に気が付く。心配そうな横顔が見つめる先を同じように見ると、野生の本能なのだろうか、ノブナガが枝木に止まった鳥に狙いを定めていた。ふくよかな体とは思えない動きで登って行く様子に私とエリーは同じ心配を抱いた。果たしてちゃんと下りれるのだろうかと。気になった私たちはその場から移動した。 「やっぱり」 案の定とばかりにつぶやくエリーは困ったように呆れていた。その横で並ぶ私も同様に。 見上げた先で動けずにいるネコは助けを求める鳴き声を繰り返していた。それがあまりにも悲痛に聞こえて顔から焦りがにじみ出る。 「ブレザー持ってて」 「はる登れるの?」 「わかんない。昔の感覚が残ってればいいけど」 脱いだブレザーを渡して袖を捲る時にバタバタと足音が聞こえて振り返ると慌てた女の子が駆け寄ってくる。「あ、仁菜子ちゃん」どうやらエリーは知っている女の子を私は見覚えがあるような気がした。けど思い出せなくて首を傾げる間、女の子は息を整えていた。 「下りれなくなってるのを見かけたんだけどっ」 「仁菜子ちゃんも? 私たちも心配で来たの」 「そうなんだ。・・・やっぱり下りれないんだね。どうしよう」 「ああ大丈夫だよ。ウチのはるが登るって言うから」 安心させるように言ったそれに『仁菜子ちゃん』と呼ばれる子は私を不安そうに見つめるものだから困った。木登り経験は片手の年齢の頃だから正直登れる自信はまったくない。だけど、と後押しをひとつ自分にさせる。遊び感覚でよじ登るあの頃を何とか思い出しながら彼女の不安をなくすように大丈夫と強く頷いてみせた。 「気を付けてね! 無理しちゃだめだよ!」気遣う言葉を聞いてから手の届く枝をジャンプして両手で掴む。どうやって動くかを一つずつ頭の中で浮かべて、枝を掴みながら幹に足を付けた。幹を歩くような、そんなイメージで足を少しずつ上に持っていかせて、枝に片足が乗ればあとは簡単だ。慎重に足を運ばせる。 「何やってんの?」 そんな時に後ろからした声にびっくりして枝を掴む両手に力を込めたが、次いで聞こえた「蓮くん」という名前に力が抜けた。 たいした高さではなかったからあまり痛みはないが、腰から落ちたけど恥ずかしさで素早く起き上がり何事もなかったようにスカートの砂埃を払った。「大丈夫!?」心配するそれらを笑いながら何ともないと返した内心では穴を掘りに行きたい気分でいっぱいだった。(一ノ瀬くんにみっともない姿見られたああああ)それでもえらく心配される一ノ瀬くんと『仁菜子ちゃん』に何度も大丈夫を重ねて笑う。 木に集まる私たちをたまたま通りかかった一ノ瀬くんたちが見つけたらしい。事情を話して頭上高い先を指差した。いまだに鳴き続けるネコの姿を彼らも確認して、一ノ瀬くん自ら登ると言ってくれた。 「気を付けてね蓮くんっ」 私にかけてくれた言葉と同じなはずなのに、違いがわかってしまってズキッとこんな時に胸が痛い。あと何故かエルボーされた脇腹も。痛いなぁエリー・・・ 苦労した木登りを一ノ瀬くんは軽々とこなしていき大きな体をしたネコを肩に乗せて無事下りてきた。食い込んだ爪を痛がる一ノ瀬くんにお礼を言ってノブナガの逆立った毛を一撫で。人騒がせネコは地面に下ろされてやっと落ち着いたらしくゴロゴロと喉を鳴らしている。「・・・・・・・・・」無言で撫で回すエリーさんの横顔はとてもキラキラしていた。 「かわいいねえ」 「そうだね」 愛らしさをどっぷり堪能しているエリーに言ったつもりだったそれを一ノ瀬くんが拾った。予想外の驚きを笑うことで誤魔化しながら更に口元が緩む。これは、ちょっとうれしいかも。 気分が良くなって私もノブナガの頭を撫でた。 「よかったねノブナガサマ」 にこにこと上機嫌に名前を言って顔を上げると周りの反応が同じに見えた。あれ?と思ってすぐに「はるちゃんてそう呼んでるんだ?」という言葉に顔が熱くなる。 (はじめは夢主がいたカンジで書いてたけどやっぱりうまーく思い浮かばなかったのでボツにしました) 16.10.29 19:53 candygirl(×) |