「腕の振り方がさ、鳥の羽みたいできれいだよな」

そう言っていた近所の子は、そうなるのが当たり前のように同じ道、もといバレーボールを始めたのだ。先に始めた私たち姉妹に影響されて。


あれから日も巡り、16回目の春がきた。「やっぱり新入生なんだから制服も新しいのがな・・・」頑なにお古でいいと主張する娘に八の字眉を浮かべる父は何度目かわからないセリフを口にする。3年使われたブレザーの草臥れた袖は嫌いじゃない私にとってまたそれかと呆れ顔していると父の後ろで「家計は大助かりだから」と母が笑っていた。その浮いた分で入学祝いを奮発してくれるという母と交わした契約はデジカメを構えた父は知っているだろうか。「あら! 飛雄君かっこいいわね!」母が別のところで話し込んでいるのが見えて視線を逸らした。
第何回目かの入学式、と書かれた看板の前でよくある写真撮影を終えた私は後ろに広がる校舎を見た。
快晴の今日この日。私は姉と同じ学校に入学する。目指した先は、もう見えない。

「入学おめでとうございます」開始早々教頭先生の秘密を新入生の多くは見抜いてところどころで咳ばらいが聞こえた地獄のような時間が終われば、組み分けられたクラスで軽い自己紹介、これからの日程を説明して解散となった。ガタガタと椅子を引く音があちこちで鳴り出すと待っていたと言わんばかりに廊下で待機していた上級生たちも動き出す。部活の勧誘で騒がしい教室の外を冷めた気持ちで見やって立ち上がる。「ぜひ○○部に!」私の耳に一切響かない声掛けを素通りして廊下に出る手前、目の前を凄い速さで横切る体操着姿の男子に驚き後ずさりした。「ご、ごめんなさーい!」慌ただしい子だ。それに小さい。廊下を駆ける後ろ姿がさらに小さくなる。

(・・・今の子)

直撃しかけた彼を目で追っていたら、そのすばしっこい動きは勧誘活動中の目にも留まるものの彼は自分よりも一回り大きい制止を難なくすり抜けて放った言葉は聞き間違いではないだろう。確かにはっきりと宣言していた。「バレー部」と。思わず見た目の印象から頭の中で導き出されたのはあるポジション。チームに一人だけ色の違うユニフォームを着る―――

(、どうでもいいか)

全身に馴染んだボールの弾む音を遠ざけて、打ち消した私には。もうどうでもいい。

『悔しくないのか』

だけど、いつまで経ってもあいつの言葉が消えない。バレーボールを目に耳にするたびに呪いのような言葉がよみがえる。(うるさい。ベンチに下げられた王様のくせに)八つ当たりの罵言を心の中に抑え込めたのかどうか、実のところよく覚えていない。ただそれ以来うまく話せないでいる。姉が間にいても、きれいだと目をキラキラさせた<Ruby><Rb>影山</Rb><Rt>あいつ</Rt></Ruby>のことを、真面に見れないでいる。

コートで一人だった私と、あいつ。
逃げた私と、逃げない<Ruby><Rb>影山</Rb><Rt>あいつ</Rt></Ruby>。



(3期おめでとう!白鳥沢戦も見れる喜び!!)
(原作と違って入学式当日にしてます)

18.03.24 19:37 hq(bun)
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