意欲的だと喜ばしい反応の先生に罪悪感を抱きつつ資料室を後にする。思ったよりも早い段階で先生自ら切り上げてくれてよかったが、免れたはずの補習に参加させられそうになった時はさすがに焦った。偽りの予定を信じてくれて安堵したのも束の間。「今回のテストを応用した問題を次の授業で初めに出そうと思ってんだ」とお前に当てるぞ宣言を受けて顔を歪めた私を先生は気付くことなくいい笑顔を浮かべていた。得意と言えないこの教科のテストは赤点ギリギリだったそんな私をどこまでも信じ切った先生に対して悪いことした気分になりため息がこぼれた。

逃げ場としては誤った選択だったと資料室の閉めた扉を見上げて肩を落とす。テストの予習を頭に入れて廊下を進めば向かいから足音が聞こえて俯いていた目を上げるとそれは知り合いの足音だった。相手は私と同じように目を落としていて私に気付いていないようだ。
少し歩く速度を上げて声を掛けようとした時、そばの窓に視線を動かしていた。きゅっと上履きの音が小さく鳴って、睨むようにして細めた目を私は息を詰めて見つめた。その横顔にどうしようもない既視感が流れてくる。
こわごわとその視線を辿るとバスケを楽しんでいる一ノ瀬くんがいて、私の感情よりも、目の前の安堂の気持ちが胸を突いた。

「あっはるちゃん」

ようやく気が付いたらしい安堂の少し驚いた声にビクッと肩が震える。こちらに歩み寄ってくる安堂を一瞥して下唇を噛んだ。

「どうした? 浮かない顔してんね」

首を傾げて意地悪く笑うものだからどっちがだと心の中で呆れるように答えた私は合わせづらかった顔を向けて何でもないとかぶりを振った。「散々な結果で落ち込んでのかと思った、っいてててて!」余裕ぶった口ぶりがムカついてほっぺたを抓る。このやろ。
痛がる頬を擦る安堂がブツブツと文句を言う姿にため息を出してほっとした。いつもの安堂だと思うものの先ほどの横顔が過ぎる。『あの頃』の影がたしかに見えて、窓の外に目を移せば一ノ瀬くんが上がった息を整えているのかボールの奪い合いから離れたところに立ち尽くしていた。(やっぱり気持ちは動く)気掛かりな表情を残した安堂がそばにいる今、このときめきが場違いに思えてきて何だか悩ましい。

「はるちゃん、」
「・・・っ・・・なに?」
「あー・・・なんていうか」

その呼びかけに真剣さが含まれているように聞こえて思わずドキリとする。こっそりと一呼吸置いて安堂を見やると言いにくそうに片手が後ろ髪を乱している。斜め下に向かれた目の位置が私と合わさるが気まずそうに視線を逸らし、喉の奥に詰まった何かを吐き出すような息を吐いてから私を見据えた。

「俺、好きなコできた」
「! ・・・、うん」
「やっぱりはるちゃんには教えておきたくて」

言い終える手前で視線が動くその照れているような反応を想像していなくて目を瞠った。けどすぐに嬉しさが広がっていく。
安堂がまた恋をした。もうしないと言っていたはずの安堂が。知っているからこそ嬉しくてゆるりと笑った。

「だから、ごめんね」
「・・・・・・は?」

今度は頑張るんだと意気込む安堂の姿を見ていると触発されるようにぐっと引き締まる思いがした。(私も・・・がんばろう)もうなかったことにはできない。だから、精一杯の努力をしよう。

「うん! がんばろーねっ!」



05.ぼくらの明日は雨のち晴れのち
14.0611



お互いの健闘を祈るように小さなガッツポーズを作ればなぜか目をぱちくりさせたあと困惑の表情を浮かべる安堂がイマイチわからなくて、ノリの悪さに顔を顰めた。