ぼんやりと外に向けていた視界の横で見えていた友達の姿がないことにあれっと顔を向けたら真横に立っていた姿は消えていて、その代わりに彼女の持ち物が残されていた。ぽつんと置かれた教科書と筆記用具を拾って両サイドを確認してみるがエリーはいない。(トイレ?)声を掛けずに行ったのかな。それとも掛けられた声に気付けなかったのか。
何れにせよそのうち戻ってくるだろうと増えた荷物からそう踏んで窓の外をのぞけば、今しがた行方がわからずにいた友達の姿がそこにはあった。いつの間にというエリーの移動先に驚くよりもその場にいる面子の中に、一ノ瀬くんがいたことにすごく驚いた。
どうして集まっているのかわからない状況にエリーがいるなら向かおうかどうしようかと悩みながら、丸まったノブナガを囲む彼らを窓ガラスに額を押し付けて見下ろした。なんだか、たのしそう。あの場にいない疎外感を感じていると、一ノ瀬くんが笑っていた。

(あ、・・・・・・)

見知らぬ女の子と笑い合う場面を見て、普通のことなのにどうしてか衝撃を受けていた。「蓮くんが忘れ物を届けてくれるなんて初めて見た」誰かのセリフが頭の中で再生されたことでその原因がすぐにわかる。どうやら、私は『すき』という気持ちの中に思い上がりを込めていた、らしい。
あまつさえ、共通の感情を持っているとかなんとか、そんなことも思っていた自分がいないとはけして言えない。だからそんなわけないと否定しても繋げてしまった可能性は死んでしまえるくらい恥ずかしくて。向けられる視線に意味なんてないのに勝手にあると思い込んだ結果がこれだということにまずはじめに思ったのは。(あの時言わなくてよかった・・・!)何が良い雰囲気だと救えないバカを泣かしに行きたい。いやもう自分のことなんだけどさ!

されてきたことに優しさ以上の期待をして、自惚れていた事実がこうして明るみになった今。お花畑の頭を壁か何かに打ちつけたい衝動に駆られていた。
暴走した妄想に内心叫びたくてたまらない私のことをエリーと、同じようにして――今は見られたくない一ノ瀬くんが見上げてきた。
顔から火が出るとはまさにこのこと。しゃがみ込んで隠れた私は目の前の壁に額を押しつけて長いため息を吐き出した。







あの後、戻ってきたエリーが心配してくれた。席に座る私の元へ駆け寄ると声を掛けずに行ったことをまず謝られて、先ほどはどうしたのかと問われた。見られていたことを苦く思いつつ恥ずかしくなってと意味合いの違うことを笑いながら答える。

「そう。ならいいんだけど・・・あんた誤解してるんじゃないかってすこし気になったの」

的確な場所を触れられて心臓が大きく跳ねた。まさにその通りだけどこんな状態の私にズバリ言い当てて傷口を抉るエリーの言動に泣きそうだ。
その思いが顔に出ていたのかエリーが眉を顰めて私の顔を覗き込んでくる。「はる あんたやっぱり誤解して」

「してないよ!」

エリーの言葉に被せて否定した。さっきの恥ずかしさがまたこみ上がってきてうまく顔を見れないままもう一度同じ言葉を返す。してない。もうしてない。だからこれ以上は穴を掘って地中生活を送りたくなるからやめてください。
切実な思いを込めるけど恥ずかしすぎてこれしか言えない私を納得していないと視線が訴えていたが教室に先生が入ってきたことでエリーは自分の席に向かった。話が中断されてほっと胸を撫で下ろしたがぞわっとした何かが背中に走った。

これはまたあとで先ほどの話が再開されるだろうと後ろの見えない迫力に予想する私は今回ばかりは授業が長引けばいいと願う。隠したい、むしろ墓場まで持っていきたい羞恥を晒さずに回避する術を、採点が終わって返されたテスト用紙を見つめながら考えるが一向に思い浮かばない。
そして無情にも時間は進み、授業はあっけなく終わった。(絶対に言いたくない!)
黒板の文字をノートに書きとって最後の悪あがきをすると出て行く間際の先生に声を掛けられた。

「やけに気難しい顔してたな? わからないところでもあるのか?」

授業を半分しか聞いていなかったっていうのもあるが、今は何としても後ろの追撃から逃れたい思いで「はい! そうなんです!」と食い気味に答えれば狼狽えた先生が「ならノート運びを手伝うか?」と歩きながらの説明をしてくれるという。長ったらしい説明癖のある先生の申し出はいつもなら断りたいところだか今はありがたいとみんなから回収したノートを快く受け取った。
「どこがわからない?」「えっとですね」テスト用紙も持っていきながら質問を探す時に見たエリーが2秒で逸らすほどこわくて後に回す恐ろしさをじわじわと感じていた。