帰りのHRが終わった放課後の教室で長々と友達とのおしゃべりを楽しみ、そろそろ帰ろうとカバンを肩にさげてひとり携帯電話を弄りながら廊下を歩いていると背後から走る足音が聞こえて私の横をそのまま通り過ぎた、と思ったら音はすぐそばで止まった。

(・・・やけに慌ただしいな。)届いていたメールに文字を打ち終えて送信ボタンを押したところ「はるちゃん?」と声を掛けられた。
無事送信できたことが表示された携帯画面に目を落としていた私はその呼び声に目線を持ち上げる。
聞き覚えのある声だと思ってれば実際にそうで久しく会っていなかった彼がいた。

「やっぱりはるちゃんだ!」
「安堂! 久しぶりー! 入学式以来だね」
「そういえばそうかも。それより髪形変えた? 最初わかんなかったよ」
「髪はちょいちょい切ってるけど変わったかな?」
「変わったよ! 前はこんくらいあったって!」
「え〜? どっかの女の子と間違えてない? そんなになかったよ」
「・・・・・・あれ? この髪の長さはナッちゃんだったっけ?」

いや知らないよ。

胸より下の辺りに手を当てて数多くいる女の子リストから名前を引っ張り出して首を傾げる安堂に声を上げて笑った。髪の長い女の子とずいぶんな親交があるみたいだ。「ナッちゃんて誰?」と笑いながら聞くと2年生の先輩という答えが返ってきた。
先輩にまで手を出しているのか。
驚きによる呆れで苦笑いに変わったのがわかった。


安堂拓海。彼とは中学1年と3年の時に一緒のクラスになったことのあるいわば元クラスメイトで、こうしてたまに会えば話したりふざけ合ったりできちゃう男友達としては珍しいほうの間柄。
表面はがらりと変わったけど根本は出会ったころのままだからやっぱり変わらないな。
安堂の話は時々耳にしてたから元気なようだとは思ってたけど。

「あっそうだ。悪いんだけどはるちゃんのアドレス教えてくんない?」
「? 中学のとき教えたじゃん。変えてないからそのままだよ」
「それがさー、携帯のデータ全部パーになって新しく買ったんだ」
「えっそうなの? なんで?」
「逆パカされた上に水没されたワケでして」
「うわー。ろくな付き合い方しかしてないんだね」

私の歩調に合わせて隣に移動してきた安堂は常に装備している携帯を片手にそんな遠回しな言い方をするものだから、人為的な破壊を理解した私は冷ややかな横目でそう言い手に持ったままの携帯から自分のアドレスを引き出した。

「ちがくてー、あれはこっちにその気がなかったのにあの子が勝手に勘違いしただけだし」ぶつぶつぶつ。

言い訳が聞こえてはいはいと適当に相槌を打ちながら赤外線送信の準備が整った携帯をムクレ顔の安堂のほうに向けた。同じく受信状態にした安堂の携帯が差し出した私の携帯と合わさりスムーズに通信完了。
待ち受け画面に戻して閉じた携帯を胸ポケットに入れた。

「改めて登録っと。ありがとー。あとで番号とかメールする」
「もう女の子泣かしちゃダメだよ?」
「人聞き悪っ! したことないから! そんなこと!」
「アハハハッほんとかな〜?」

そんな冗談を振って笑っていると廊下の角を曲がった先の昇降口を見て思わず顔を引き締めた。だけどすぐに緩まってしまって前髪を気にするように触り視線をあちこちに動かした。(まだいたんだ。)
ふわっとした気持ちになったあとドキリとした気持ちにもなってつい隣の安堂を一瞥する。「あ・・・」安堂も気付いたらしい。
けれど変わらない様子にドキリとした気持ちは薄らいでいった。

「蓮じゃん」
「ほ、ほんとだ」
「・・・なに吃ってんの?」
「気にしないで」

「? ・・・飴谷さん・・・、と安堂?」

自分の近くで聞こえた会話にこちらを振り向いた一ノ瀬くんは下駄箱から靴を取り出そうとしていた手を止めて僅かに目を見開いていた。
それを見た途端何故か焦りを感じて隣に並んだ安堂に視線を走らせるとニヤッと口角を上げて次にはステキな笑顔に変わる瞬間を見えてしまい嫌な予感がした。
良からぬことを考えていそうな表情に声を掛けようとした手前すたすたと安堂はそのまま一ノ瀬くんに近づいて行ってしまった。

予感的中になりませんように。先に進んだ安堂の背中を追いかけながらそう小さく祈った。

「蓮も今帰り?」
「・・・そうだけど、・・・なんで安堂が飴谷さんと一緒なワケ?」
「なんでって偶然会ったから一緒なんだよ。はるちゃんとは友達だし、ね?」
「こっちに振らないでよ・・・」
「にしても蓮とはるちゃんはいつの間に仲良くなったの?」
(なんつー質問を・・・!)

お祈り虚しく予感的中。知らないから訊いてきたであろうそれに殺意が芽生えた。
もしこれが確信的な質問だったらなんて嫌味な奴だろう。
ニコニコ笑う顔に憎たらしさを覚えてそれも有り得る気がしてきて心の中で余計なことを言ってくれた安堂を罵った。

答えにくいことをよくも言ってくれたなバカ安堂。

いつの間にも何も。仲良いだとか。あの日がぜんぶ初めてなのだ。
友達だなんて1回話しただけの私たちに成り立つかどうか、考えなくとも否であり当てはまりもしない。友達ではない。
そうはっきり言えることだが言いづらくて返答に困り果てた。(本当に余計なことを・・・。)

なら私と一ノ瀬くんの関係って何なのだろう。

「最近だよ」

難しく考えていた私をよそに一ノ瀬くんがサラッとそう答えていて思わず目を丸くした。
安堂の質問に肯定したようなそれは一ノ瀬くんにとって私は友達と思っているということで。

そっと一ノ瀬くんを見ると彼と目が合いドキッとしたけれどあることに気が付いた。一ノ瀬くんの目に不安の色が含まれているように見えてもしかしたら彼も私と同じようなことを考えていたのかもしれない。
平然と言っていたけれど案外恐る恐るだったりして。そう思うと何だか胸の中があたたかくなって笑みが隠し切れなく溢れた。

「そうだよ。最近話す機会があって友達なんだ」

友達だと言い切って一ノ瀬くんを見れば目を細めて微笑ってくれた。どうしよう! すごっく嬉しくてたまらない!



02 たぶん超青春中
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