うだるような暑さが印象的だった夏休みもあっという間に明けて2学期が始まった。

「あ・・・あの子」
「駅のホームで告白したんだっけ」

ローファーから上履きに履き替えて下駄箱から少し離れたところを歩いていた時にふと耳にした会話の内容に引っ掛かりを覚えて足を止めた。
聞いたことのあるフレーズに頭の中のある部分が反応してその場で思い巡らした。

(何だっけ・・・?)

記憶の糸を辿るようにその会話の根源である別のクラスの女子ふたりが見ている方向を同じようにして見ることでようやく思い出す。

視線の先にいたのは小柄な女の子がため息を吐いて自分の靴箱の扉を閉めているところだった。


夏休みが始まる前、駅のホームで一ノ瀬くんはまたしても告白されたらしい。
この手の話は不確かなものばかりだったが下校途中の生徒もいたことから目撃者も多く今回は確かなようだ。実際に見たという証言者が私のクラスにもいることから私も疑わなかった。

「すごいよねー。駅のホームで告白とか」
「人目とか気にならなかったのかな?」
「勢いで言ったんじゃない?」

どこもかしこも女子たちはこの話をしていてしばらくはあの子も大変だなと下駄箱で見かけた名前の知らないあの女の子に同情した。それと同時に大胆とも堂々とも言える告白は何だか勇気があって私は率直にすごいなと思った。
私には決してできないことだからとても羨ましい。

「振り続ける理由って彼女でもいるのかな?」エリーのその何気ない一言で思考は完全に吹き飛んだ。

「えっ何が?」
「だから一ノ瀬が女の子たちを振る理由」
「理由?」
「聞いたりしないの? 一ノ瀬蓮のおトモダチ」
「そんなの聞かないよっ! ていうかそれやめて!」

カノジョ、・・・。その特別な存在をすっかり忘れていた私は急に落ち着かなくなっていた。
告白を断り続けている理由なんて全く考えたこともなくて頭の中にあるメモリーボックスから中学の頃のことを引っ張り出した。・・・当たって砕けた女の子たちの話ばかりで全然覚えてない。

というより、気にも留めてなかった。なんで今まで気にしなかったんだろう。

(あぁ・・・そっか)

気付く気付かないの問題じゃなくてあの時と今では『捉え方』が違っているんだ。
納得したとともに胸の中にあったもわもわが消えて後に残ったのは何かがきゅっと詰まる感覚だけだった。







「今日は文化祭実行委員の集まりがあるからな」

帰りのHRで担任が告げたそれに後ろの席を振り返ればエリーはめんどくさそうに顔を歪めていた。

「最悪・・・」
「プククク。ドンマイ」

かわいそうに。なんて心にもないことを思いながらニヤニヤと手を伸ばしてエリーの肩を慰めるようにポンポンと叩く。
少し機嫌がよくなっていると「あと、飴谷」先生の声にぎくりと肩が震えた。
教卓のほうにドキマギしながら顔を戻すとクラス全体に見せ付けるようにひとつの冊子を掲げていた。朝提出したはずの『夏の総復習』という文字が嫌でも目に入って口元が引きつる感覚がわかった。

「最後の見開き1ページ空白で提出されてたから残ってやり直すように、とヅカ先生が言ってたからしっかりやること。ガンバ」

「・・・・・・」
「ドンマイ」

クスクスと笑われる中で後ろからの哀れむような背中の叩き方にがっくりと項垂れた。一転してこの仕打ち。
早く帰れる今日に限って居残りだなんて最悪だ。