(アイス食べたいな・・・)
彩られた校内にはいつも以上に人がいて今日という文化祭を楽しんでいるように見えた。準備でそれなりに忙しかったからこの雰囲気はなんだか嬉しい。みんな楽しそうだから余計に思えた。
それと、当日は雨が降るとお天気おねえさんが言ってたけど心配ご無用な快晴日和に安心したのは私だけじゃないはず。この秋晴れは教室の窓に吊るされてたテルテル坊主効果かな、なんて「オレが作ったてるてる坊主の効力すげえ」と晴れた空に男子たちがはしゃいでいたのを思い出した。まぁおかげでむんとしたこの熱気に冷たいものがほしくなったわけだけど。そういえばどこかのクラスでかき氷売ってなかったっけ? あとでパンフを見直してみよう。
「1年9組で喫茶店やってます! ぜひ来てくださーい!」
カラフルに飾られた入り口付近で来る人みんなにチラシを配り続けて、残すノルマは大分少ない。手元にあるチラシの量をおおまかに数えてペアになったティーちゃんと思わず顔を見合わせた。「このまま配り切っちゃおう」お化粧の施された顔にフリルがあしらわれたワンピースの格好をしたティーちゃんに低い声でそう言われて頷き返した。
「・・・はーっ終わったー」
「おつかれ〜」
「飴谷もおつかれ〜」
渡されたチラシ全部は人がたくさん来てくれたおかげでお昼を回る前に配り終えることができた。正直、量が量だったから残して終わるかもなんてふたりで笑ってたから、こうして残すことなく早く終わったのは本当予想してなかったけどよかったことに変わりない。
お昼前には休憩して良しと言われてたから、ちょっと早いけど休憩に入るか、とそう言ってティーちゃんは誘われるように近くの屋台へと歩いて行く。「おいティーちゃん。何か買ってけーうちのクラスに貢献しろー」「友割で0円ならいいけど?」「当店にお父さんいないんでそんなサービスはありませーん」
こめかみから顎に流れる汗をタオルで拭き取って携帯を取り出した。一応エリーに連絡入れとこうか。そう思い取り出した携帯を見るとピカピカとメールの受信を知らせていた。相手は連絡しようと思っていたエリーからだった。
なんだろう。メールがひとつだけだから急ぎの要件じゃないんだよね? 不思議に思いながら受け取ったメールを開いた。
「飴谷はこのまま教室戻んの?」
開いたメールを読む前に話しかけられて顔を上げる。話しかけてきたティーちゃんは首にタオルをかけて屋台で買ったらしい小さなペットボトルのアイスカフェオレを私に渡してきた。もらうのを少し躊躇いつつもありがとうと言って、受け取った冷たいカフェオレを頬に当てながら缶コーヒーを冷たそうに飲む彼に向けてうんと答えた。
「私たちの成果を見ておきたいってのもあるし少し休みたいから一旦戻るよ」
「そっか。なら俺はほかのクラスに用あるからもし聞かれたらそう言っといて」
「わかったー。・・・もしかして、カノジョ?」
「うっせ。・・・っんじゃあよろしく!」
にやにやして聞けばやっぱりそうで。最近できたらしいカノジョのことを出せば途端に赤くなって逃げるように校舎に入って行く後ろ姿を見送りながらちょっとした心配事をふと思う。
その女装姿で行って驚かれなきゃいいけど。
フリフリワンピ姿でカノジョさんに駆け寄る場面が思い浮かんだそれにこっそり笑ってペットボトルの蓋を開けようした時、手に持ったままの携帯にメールのことを思い出す。
(あ、そうだった。メールメール)
読む前のメールを開いたままにした真っ黒い携帯画面に目を向けて下ボタンを2度連打する。パッとついた画面に残したメールの文面には何があるのかと思いきや『一ノ瀬が来てる。』とだけあって思わずその短文を見つめる目を丸くする。え?
短いとわかってても何度も読み返してはえっと困惑した。
一ノ瀬くんが来てる。はっとしてそのメールが送られた時刻を確認してみれば今よりずっと前の時間で脱力感を覚えた。当然だけど、もういない、か。
(いいなーみんな。私も、・・・私だって・・・)
一ノ瀬くんが来店した教室はさぞかし騒ぎになっただろうな。その場にいたみんなが本当に羨ましい。妬ましさに近い気持ちでそう思えばこぼれるため息に気分が落ち込んで、空に目を向けた。
見上げた校舎越しの秋空に気持ちを移そうとしたけどむずかしくて。一ノ瀬くんのことが頭から離れなかった。だからそれを違う考え方にしてみた。
私が一ノ瀬くんのクラスに出向けばいい。もしかしたら会えるかもしれないし話せるかもしれない。そう考えたら鬱屈した気分は前向きに変わった気がした。
一ノ瀬くんと会って話す自分の姿を想像するだけで顔がにやけそうになるのを抑えるために、さっきもらったカフェオレを口に入れる動作で気を紛らわせる。クラスに一度戻ってそのあとに・・・・・・。このあとの行動を考えながら冷たい甘さを味わってるそんな時。「―――!」ふとこの賑わう音とは別のものが聞こえて飲むのを止めて耳を澄ました。
誰か呼ばれてる・・・?
(・・・上から?)
頭上から聞こえたような気がして上のほうをキョロキョロと見やる。すると各クラスが出し物を売り出すためのポスターで埋め尽くされた校舎の窓のひとつ(コスプレ写真館とある窓のプレ≠フ文字)から、男子が身を乗り出して何かを叫んでいるのを見つけてわっと驚いた。しかもよくよく聞いてみて知り合いを呼んでいると思いきや、あろうことか私を呼んでいるらしい。
私がその人に目を向けたら手を大きく振って「飴谷ちゃーん!」とたしかに呼んでいる。誰かわからなくて反応に困った。
だれ? ・・・あれ? どこかで
「あ・・・」
怪訝に見上げてるとその人の後ろで彼の行動を止めようとしている一ノ瀬くんの姿があって、その人のことをやっと思い出す。
そうだ、彼は一ノ瀬くんとよく一緒にいる人だ。いつも活発そうな笑顔が一ノ瀬くんのそばにはあって珍しい組み合わせだなって思ったこともあるからよく覚えてる。名前は知らないんだけど。
「おおーい!」本当元気な人だな。一ノ瀬くんなんてもう呆れるくらいだし。そういえば私の名前知ってるんだ・・・。なんでだろうとハテナを浮かべたけどすぐに胸の奥がじんと痺れるのを感じた。
話したのかな・・・もしかして。
(またあとで会えるかな)
周りからの視線を気にしながらもやけくそのように手を振り返せば羞恥も余裕に変わって、向こうにも見えるように手を大きく振って応えていると、ガラスの向こう側から一ノ瀬くんもつられるように手を振ってくれた。
どんな顔をしているのかなんてこうも離れているとわからないはずなのに、なんでだろう。笑ってる気がして。
落ち着いていた気持ちが、いともたやすく揺れ動いた。
「!」
余裕の欠片も失くした私は走り出していた。
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