結局恥ずかしさが頂点に達してしまった私は逃げるように校舎へ飛び込み階段を駆け上がってクラスに戻った。「遅い!」走ったことで肩を上げ下げした呼吸を繰り返す私を迎えたのは腕を組んだエリー。少し怒っているようだ。それすらよくわからないのになぜかため息をつかれる始末。なんで?
「もう何してたの? お昼は一緒に食べようって言いだしっぺのくせに」
「! あぁっごめん」
「・・・それより送ったメール見た? 一ノ瀬来てたよ?」
お昼の約束をすっかり忘れて焦ったが、すぐあとでの一ノ瀬くんの名前に落ち着かせたはずの息が詰まりそうになるのを感じて、目を伏せたまま頷いた。その私の様子に目の前から若干驚く気配があって、そろりと目を持ち上げるとやっぱりもう察したらしい。そんな顔つきをしていた。
「もう会ったのね」
「うん・・・遠かったけど」
「は?」
たしかに会ったけどちゃんと顔がはっきりわかる距離がいいな。笑ってるのかどうかわかる距離で。(・・・・・・。何だろう。会いたい、な・・・)話せるかわからないけど、一ノ瀬くんの顔が見たくてたまらなかった。いつもなら何考えてんだって自分にツッコんで恥ずかしくなることが不思議と今はそれがない。ほんとうに、変なの。
「何ひとりで笑ってんの? 恥ずかしいヤツ」
「えっ笑ってた? うわー・・・急に恥ずかしい」
あとで一ノ瀬くんのクラスに行きたいことをエリーに伝えるとしょうがないなって笑って了承してくれた。
★
お昼ごはんを食べ終えて7組の教室に向かう途中、前からやって来る女の子たちの会話が大きめの声でよく聞こえた。盛り上がっているなと遠巻きに思っていれば彼女たちは通り過ぎた7組のことを話しているようだった。混雑状況がわかるかな。そんな思いで聞き耳を立てるが次第に別の話になっていくのがわかってその内容にひやりとした。
「あ〜あ、またウチラみたいな犠牲者増えてくね」
「絶対そう。そんで調子に乗るんだよね」
「ただ顔がいいだけだったよねぇ蓮って」
「あ、ちょっとあれ・・・」
すれ違うその前、何かに気付いて声を潜める彼女たちはこちらを何だか気にしている。嫌な顔をされる心当たりがなくて困惑する私の腕をエリーが掴んだ。「早く行こう蓮くんのところに」強調するように言った呼び方もそうだけど突然の行動になおさら意味がわからなくて困ったが、腕を掴む力のレベルが怒っているような感じがした。(これは怒ってる? なぜ?)とりあえず促されるままエリーの小走りについて行く。
問題の女の子たちとすれ違って、7組の教室まであと少しのところで進むペースを元に戻した。先ほどの子たちを振り返りつつ尋ねると不機嫌顔のエリーは答えてくれた。
「ふられんぼ同盟の連中よ」
「え? ふられ・・・んぼ?」
「つまり一ノ瀬に告ってフラれた数々の女性たちの集まりってこと」
教えてくれた話では、フラれた人はお互いに慰め合って、一ノ瀬くんの悪口を言い合う、そんな同盟だそうだ。それをただの捌け口場がほしい人の集まりと投げやりに言ってため息をこぼした。やけに詳しいけどどうしてだろう? その疑問に「巻き込まれにいった」と返されるだけで、さらに聞くとめんどくさいの一点張りでこれ以上は答えてくれなさそう。
追及を諦めて初めて知ったその存在について考えてみた。そうしてしまう気持ちはどうなんだろう。私はちゃんと優しい人って知ってるから、その立場になってもこの気持ちを大事にしていきたい。そう思えるから彼女たちの行動は理解できなくて。一ノ瀬くんを悪く言われていることに今になって腹が立った。
(ふられたらもう好きじゃなくなるもの?)
そんな人じゃないのに。
「? ・・・なんだやっと追いついたの?」
「うん。だんだんムカついてきた」
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