▼ ▼ ▼

以前過ごしていた場所にはここまでカラクリに囲まれていないし、何よりこんなに人はいなかったので同じ世界なのかと目を疑いたい。道行く人の言語は果たして自分と同じなのだろうか。エクスキューズミーとサンキューベリーマッチぐらいしか知らないんだけど大丈夫かなと変な不安を覚える。「あ、ちょっとアレ見てよ」
近くで聞こえたその声のほうを見れば三人組の若い女の子のひとりと目が合った。すると私を見ながらヒソヒソ話して、終いには耐え切れなくて噴き出した笑い声とともに「ダサッ」という言葉が耳に入る。え?それって私のこと?
通り過ぎて行った彼女たちの話題のターゲットにされたことにすぐには気付かなかった。考えているうちに下がった視線が自分自身の格好を映して納得のような気持ちで理解する。両手に抱えた風呂敷が目立つからか、着物の柄がおかしいのか。田舎娘全開のこの出で立ちはやはり浮いてしまっているようだ。(都会の人コワイ・・・)
こっちの流行とか最初から聞いとくんだったと恥ずかしい思いに後悔しながら帯締め紐を指でなぞる。成人した時に奮発した今年の流行柄って言われてたはずの着物が可哀想だ。人の波が穏やかになった駅の構内に無意識に出た私のため息が響いて聞こえて咄嗟に手で口を押えた。思いのほか大きくて一人でまた恥ずかしくなって顔を更に俯かせる。周りがもう見えない。

「遅れてごめんよー。お待たせしましたっ」

鬱屈した心情を知らない私の待ち人がようやく現れた。顔の下半分を大きなマスクで覆う人物は風邪引きさんには見えない明るい笑顔だった。