結ぶ


「好きです。付き合ってください」

 名字名前は高校一年生の頃、初めて異性から告白をされた。彼女は持っていたゴミ箱を落とすことはなかったけど、呆然として相手を見上げていた。相手は居心地が悪そうに眉を寄せて、彼女から視線を逸らすように俯いたが、彼女の方が背が低いため丸見えだった。いつも笑顔なイメージしかない、男の子だった。そんな男の子の、知らない一面を見てしまった。その男の子は背が高くて、少し大人びた見た目をしていたが、目の前の男の子は少し前は中学生だったんだと当たり前のことを思い出してしまうくらい、幼い顔をしていた。

 彼女はたまに余計な一言を口に出してしまうことがあった。悪気でも、癖でもない。ただ思ったことがそのまま口を通過してしまうのだ。そして、このときも運悪く思考と口が直結していた。

「宮くんも人を好きになるんだね」
「……」
「あ、……違くて、その」

 宮の表情がぽかん、として、歪んで、口元がへの字になった。彼女は自分の失言に気付いて、口元を押さえそうになった。でもゴミ箱を持っていたから、無理だった。

「ふーん、へえー、ほーん」
「み、みやくん、あのね」
「名字さんは俺の事そないな風に思っとったんだ。心外やな」

 宮は彼女が両手で持っていたゴミ箱を片手で奪い取って、すたすたと歩き出した。ゴミ捨て場まで、あと少しの道のり。普段だったら、適当に任せて部活へ急ぐ。でも今日は名字さんと一緒やったから、来たのに。宮は強がりながらも、少しだけ目が熱くなったのを感じた。小さい足音が近寄って来て、宮のシャツを後ろから掴んだ。宮は振り向かなかった。

「ちょ、名字さん伸びるんやけど」
「ご、ごめんなさい……でも、待って欲しい」

 宮はつい振り向いてしまう。不快なことを言われたとしても、好きな子に待って欲しいと、しょんぼりとした声で言われたら、振り返ってしまう。彼女に下心がなくとも、宮は彼女の上目遣いに弱かった。この身長とはそこそこの付き合いなので、女子から上目遣いで見られようとも特別に何か思うことなかった。でも、相手が好意をもつ異性だと大分違う。当たり前だ。俺は彼女のことが好きなんだから。ちょろいと思われても、宮は早くも彼女に対してマイナス感情が消えて行くのが分かる。ちょろい、チョロすぎるやろ、俺!

「……うん、ごめんなさい」
「呼び止めて、追い打ちとか。名字さんええ性格しとるな」
「ち、違うよ。告白に対してじゃなくて、宮くんの、その」

 彼女は「なんて言ったらいいのかな」と困ったように眉を下げて、口角を変な風に上げた。宮は平静を装いながらも、心臓がうるさくなっていた。このタイミングで俺の一番好きな顔をするとか、どうかと思うわ。胸キュンしてしまうやろ。

「勇気だしてくれた、から」
「?」
「宮くんが、勇気だして言ってくれたのに。宮くんみたいに人気者?って言うの?、なんか、こう……華やかな人にこ、……こ、ここ」

 彼女のやけに真剣だった顔が赤く染まっていく。ニワトリのような状態の彼女に、宮は口元がにやけていくのが分かった。予想と違った結果だった。今目の前で顔を赤くしている彼女を見れるだけで、いい気がしてきた。宮が悪戯っぽく「告白?」と彼女の顔を覗き込んで言えば、彼女の目がちらりと伺うように宮を見て、控えめに頷いた。宮は教室でいつも彼女が見ている、人の良さそうな笑みを浮かべながら、彼女との顔の近さに耳を熱くしていた。

「……うん。俺な、めっちゃ緊張した。名字さんに言おうって思わんかったけど、我慢できなくなった」
「そっか。ありがとう。本当にごめんね、失礼なこと言って」
「んー、まあ、それは追々で。で」
「で?」

 追々……?なんか今恐ろしいこと宮くん言わなかったか、と眉を顰める彼女に対して宮は話を逸らして迫る。すっかり宮のペースだった。

「告白の返事知りたいんやけど」
「あ」
「あって……」

 呆れて宮は眉間に皺を寄せる。青ざめて彼女は視線を泳がせる。告白の返事が一番問題だった。

「ご、ごめん……。え、えーっと、……わ、分かんない」
「は?」

 ときどき見かける宮の威圧的な態度が彼女はあまり得意ではなかった。宮くんは掴みどころがない。少しだけ、怖い。

「いや、だ、だって、宮くんのこと何も知らないし、嫌いじゃないけど、その付き合うにしても何するとか分からないし」

 必死で言葉を探して口に出してみるが、それは無駄な抵抗だった。宮くんはずるい。そうやって、また男の子を覗かせてくる。

「彼氏」
「?」
「俺は名字さんの彼氏になりたい。何がしたいとか、まあ、それもあるけど、……名字さんの彼氏になりたい」
「……」
「あかん?」
「……」

 彼女もちょろかった。宮が眉を下げて少し隙を覗かせると、分かりやすいぐらいに動揺して、心が傾きかける。彼女は真っ赤な顔をして、頷いた。

「ええの?」
「……ふ、振るかもしんないよ」
「ええよ、名字さんの彼氏になれればええもん」

 最後の悪足掻きは宮の花が咲いたような笑顔で見事一撃された。

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