引っ越しそば


 *黛さんの愛想の加減が分からない*

ご近所付き合いが希薄になるこの世の中でも、やはり隣人がどのような人なのかは
把握しといた方がいいと思うのだ。

「すみません。隣に越してきた黛と言うんですが…」

インターホンに向かっていつもより、心なしか外用の声を出す。
隣人との関係は良好で居た方が楽だろう。

はい、と妙に高い声が聞こえて、ガチャとドアが開く。

「…あっ…、洛山の…」

幾分見下ろさないと視界に入らない幼女…いや、小さい子が居た。
ダボダボのスウェットをワンピースのように着ている彼女はどこか目に止まるものがある。
そう、髪色だ。
この深い黒のような赤いような色に見覚えがある。

そんな第一印象をもっている中は、彼女は俺を見て驚いた顔をしたのちに、俺の出身校を呟いた。

「…俺のこと知ってる?」
「え、あ、…ちょっと待ってください。
たいが、…ねえ、たいが!」

俺の問いかけに我に返ると、俺を玄関に招き入れて、パタパタと小走りをしてリビングへ続くだろう
扉へ顔を覗き込ませている。
ダボダボのスウェットの下に、スキニーを履いていたらしく、細いふくらはぎだな、なんてことを考える。
小学生くらいのような、でも何となく異性っぽいというか…年齢が特定できない不思議な雰囲気をもっている。

「は?洛山?赤司?」
「違うよ!黒子くんみたいな人!」
「…あー…あ!?何で居んだよ?」
「だから、越してきたって最初に言ったでしょ!話聞いてないの?」
「…うるせぇな。お前もっと言い方直した方がいいぞ」
「…聞いてないたいがが悪いんでしょ」
「は?んだと?」
「ね、黛さん待ってるんだってば!すぐ来て!ほら!」

兄妹ケンカのような会話が聞こえて、早々に帰りたくなってきた。
リビングのドアが開くと、彼女と会話をしていた人物が現れ、俺は目を丸くする。

「かがみ…」
「あ、…黒子の新しいの!」
「その言い方やめろ」
「あ、わりぃ…です」
「…(変な敬語だな)」

彼女が小走りする距離も、火神だと数歩ですぐに着く。
俺を驚いたように見て、何で越してきたのかとか、バスケをまたやるのかとか、
最低限の世間話のようなものをしている間、彼女は火神の腰ら辺にへばり付いて、
若干火神の背中に隠れながら、俺たちを見上げて会話を聞いていた。


「…ふぅん、じゃあ」
「あ、はい。ほら、名前も」
「あ、火神名前です。よろしくお願いします」
「火神の妹か?何年生?」

別に普段なら、知り合いの身内になんか興味ないが、
この不思議な雰囲気を醸し出している彼女の情報が欲しい。

「あ、今年高二です」
「…火神と同い年?…もしかして、双子か?」
「もしかしなくても、双子です」

ぷく、と頬を膨らませるあたり高校生には見えないが、
でも何となく、あの本当の小学生とか特有のあどけなさがなかったので、
その年齢には納得をした。

「そうか…じゃあ、悪いな。急に邪魔して」
「いや、大丈夫っす」
「まあ、よろしく」
「うっす」

火神兄は返事をしたが、妹の方は小さくうなずいているだけだった。

***

(火神に双子の妹が居たとは…てか、双子で、高校生で、二人暮らして…
そして、その隣人の俺…)

なんだか、小説に出てくるような設定だな、なんて思いながら、
引っ越しそばを啜った。

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