ゴミ捨て
*二人とも話さない*
「…おはようございます」
「…ああ、おはよ」
ここに越してきてから早二週間。
大学入学までの春休みは長く、とても暇だ。
兄の方にはちょくちょく顔を見ていたが、驚くぐらいに妹と鉢合わせしなかった。
聞くと、妹はひどい引き篭もりで、虚弱体質ですぐ身体を壊してしまうそうだ。
…なんだ、その、見た目通りの設定…いや、ステータス(?)なのか。
彼女はまた長いスウェットぽいものとスキニーを合わせて、その上からダウンジャケットを着こんで、
マフラーも巻いて、ショートブーツ、…温かそうだな。
手に持っているのは彼女の身体の対比で見ているからか、とても大きく見えるゴミ袋。
「…」
「…」
今日はもえるゴミの日だ。
そして、例外なく俺も今から捨てに行く。
春も近いような気がするが、やはり朝方は冷え込む。
マンションの下のゴミ捨てに行くだけなのに、とても着こんでいる彼女の恰好は
やはり体調を崩さないようにしているためなんだろうか。
俺が片手で持つゴミ袋も、彼女は両手で一生懸命もっている。
手は無防備で、以外にも手袋はしていなかった。
小さくて白い手が寒さで白くなりそうだな、と自分自身もちょっと身体を抱き込むように、
猫背になって、気まずそうに短い足で頑張って速く前を歩く彼女をのろのろと追う。
「はぁ…」
階段を降り終えると、彼女は肩で息をしていた。
なるほど、体力ないな。
「んっしょ」
ひと段落ついたように、ゴミ袋を置いて少し休憩した後、またゴミ袋をもって、
のろのろと歩き出した。
その所為で、俺と彼女の距離があまりなかった。
ネットを器用に剥がすと、ぽいっと雑に投げていたが、案外普通にゴミ袋は着地していた。
投げるのには重かったらしく、腕を察すている。
「…?」
何故か彼女はゴミ袋を捨てた後も、ネットを閉めずにいた。
「黛さん…捨てないんですか?」
「え、ああ、捨てる」
「…」
「…どうも」
「いえ」
彼女は俺を待っていたらしい。
そうだな、ここで自分だけやって帰るのも変か。そういうもんか、隣人との付き合いって。
お礼を言った俺に、彼女はぎこちなく笑って俺を見上げたが、俺が愛想笑いをしなかったせいか、
若干気まずそうに、恥ずかしそうに、視線を逸らした。
俺は愛想笑いが好きでもないうえに、あまりできない。
無表情がデフォルトだ。
「…別に、怒ってない。あんまり、表情に出ないんだ」
どうも、この小さい生きものがしょぼんとする姿は見ていて、心に引っかかるものがある。
一応フォローしてみると、彼女は項垂れた頭を上げて、小さく頷いた。
「…戻るか」
「はい」
のろのろと歩いたのは別に彼女との歩幅を意識したのではなく、朝が早かったので、頭が回っていなかった所為だ。
***
後日部活へ向かう火神と出くわして話を聞くと、
あまりに外に出ない彼女に火神が無理やりゴミ出しをさせて、
そして、朝が早かったのは人に会いたくないから、という理由らしい。
…なんだろうか、その話を聞くと、彼女に親近感を沸いてくるような気がした。
俺も朝が早かったのは、人に会いたくないからだ。
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