− 出会っていたっぽい −
いやっ!と声を上げて腕払っても、ケラケラと不快な笑い声が響くだけ。
その笑い声と、また伸びてくる腕の所為で、恐怖心が私を襲う。
「あー、泣いちゃう?泣いちゃう?」
「かわいいーねえ、俺らとあそぼ?」
「すぐ楽しくなるよー??」
ふるふると必死に首を振って、引っ張られそうな身体に必死に体重を掛ける。
それでも、確実にずるずると行きたい方向と違う方向に進んでしまう。
「離してっ!・・」
いつもと違う意味で、頭がくらくらとして気持ち悪い。
心配性の兄の顔が思い浮かぶ。
『お前はいつ倒れるか分かんねぇから、一人で出かけんなよ。』
ごめん。それ無理かもしれない。
いつもより天気も良いし、体調もいいと思って出かけて何故絡まれてんの。
運気は最悪だったことか。
そんなことを考えてる内に、ニヤニヤと笑う男たちの一人が私の頭に手を伸ばす。
「髪赤いよね?これ染めてんの?地毛?」
「若い時から染めてちゃ髪痛むよ〜?」
「お前、それ染めてるだろ?」
「あ、そうだったわ。」
ケラケラとまた笑い声響く。
何が可笑しい。
私の頭を撫でていいのは、この世に一緒に生を共にした兄一人だけだ。
固い大きい手で、くしゃくしゃと不器用に撫でる兄を思い出して、泣きたくなった。
気持ち悪い、気持ち悪い。
同じ男の手だけど、兄と全然違う。
触られたくない。
もう一度掴まれた腕を思いっきり払って、縺れそうになる足を必死で動かして、
とにかくこの場から離れなきゃ。
ほんの少し大人しくしていた所為か、腕は拘束は簡単にとけた。
うわっと驚いた声の後に、チッと舌打ちが聞こえた。
その舌打ちに身体が恐怖で揺れた。
でも、頑張ればいけると思った瞬間急に後頭部に痛みが走る。
「いった・・・!」
「もうー急に逃げないでよー?」
「びっくりしたじゃん。」
「にしても、綺麗な髪だねぇー。」
髪を掴まれたらしい。
こんな時に限って、長い自分の髪を恨みたくなった。
「ねえ、この綺麗な髪もっとよく見せてよ!」
ぐっと引っ張られて、私の身体は後ろへ傾く。
やだ、このままじゃ、相手の方向へ倒れてしまう・・!と思ったとき、
「おいおい、最近のコウコセーは幼児が趣味な訳?」
どこか挑戦的な声が耳に届いた。
その声とともに、背中を何かで支えられる。
「大丈夫ッスか?」
私の視界いっぱいに入って来たのは、黄色の髪に、黄色の瞳だった。
そこには、心配そうな目があって、その目と目が合った。
さっきから滲んでいた視界が、さらに滲んだ。
不安と恐怖と不快感でいっぱいで、それでも泣くもんかと強がっていたのに、
本能的にこの人は大丈夫だと思った所為か、じわじわと視界に膜が張る。
そして、目からポタポタと流れ落ちる。
「怖かったよな。もう、大丈夫だから。」
もう、がまんできない。
踏ん張っていた足は力が抜けて、ぺたんと座りこみそうになる。
よいしょっと声が聞こえて、自分の体が浮く感覚に驚いて目を見開く。
「あ、怖かった?ごめんね。」
少し眉が下がって、困ったように笑う。
「おい、お前らなんだよ!」
「うっせえー。んなの、どうでもいいだろ。」
「お前らちゅうぼうだー・・なっ!」
「んー?子どもいじめてる人になんだよーって言われたくないー。」
ハッと我に返った。
そうだ。助けてくれたのはこの人だけじゃない。
声の方向に振り向くと、そこは色どりが鮮やかでした・・・。
え・・?
で、でかい。カラフル。その二言に尽きる。
挑戦的に笑いながら、相手を見下すガングロで髪が青い男の子。
一番大きくて、サラサラと少し長い髪で寝むそうな目をしている髪が紫色の男の子。
というか、紫くん男たちの頭をガシと鷲掴みしてるんですけど。
一発で頭つぶされそう。
その衝撃的な場面のおかげで、私の涙腺は落ち着いた。
「きーちゃん!こっちこっち!」
「あ、今行くッス!じゃあ、青峰っち、紫っち後頼んだッス!」
そう言うと、私を抱き上げている黄色くん・・・きーちゃんと呼ばれた人は呼ばれた方へ向った。
え?え・・?私も連れてかれる感じ?
てか、頼んだって、・・え??
急な展開に頭が追い付かず、きーちゃん?の肩から頭を出すと、
青い頭人と目が合い
「さっさと行け。」
と言っただけだった。
*
きーちゃんと呼ばれた人が連れて来たところは、小さな公園だった。
そこのベンチに降ろされた。
「怖かったよね!?もう、最近の高校生はー!こんな小さい子虐めるなんて信じらんないっ!!」
可愛いく頬を膨らまして、よしよしと私の頭を撫でる桃色の髪をした女の子。
可愛い人・・・。
ぼーと見とられてると、おいと言われて慌てて顔を上げる。
そこには、おしること書いてある缶を持った緑色の髪で、メガネをした男の子。
「??」
缶をぐっと前に突き出されるが、意図が読めなくて、おしることその緑少年を何回も見比べる。
「や、やるのだよ!」
ぐいっと缶を押し付けられた。
え、なに、これ。
「・・・、(おしるこ・・。)」
やる・・。つまり、くれるってことか。
今の時期におしるこ。
「ちょ、緑間っち!チョイスおかしいッスよ!」
「文句を言うのなら、お前が買ってこればいいだろう。それに、おしるこを馬鹿にするな。」
「ほら、リアクションに困ってるじゃないッスか!この時期におしるこ飲むなんて緑間っちぐらいッス!」
「ちゃんと、冷たいに決まっているのだよ。」
「そいう問題じゃないッス!」
ぎゃあぎゃあというか、黄色くんが一方的に言い合い?していると、
「おしるこは嫌い?」
ふふっとその言い合い笑いながら、見守る桃色さん。
その問いかけに、ふるふると首を横に振る。
「飲んだことないから、分かんないです。」
「食べたことはある?」
首を縦に動かす。
去年兄が作ってくれたおしるこを思い出す。
おもち詰まらせてたな、うん。
「なら、この機会に飲むといいのだよ。」
ふんっと決め顔で、自信満々に推す緑くん。
じゃあ、開けようかなと思っていたら、視界の中にあのという声と同時にハンカチが現れた。
唐突過ぎて、ひぃと息を吸い込むような変な声が出た。
「テツくん!」
優しい声が甘い声と変わった。
顔を上げると、色素の薄そうな・・・みずいろの髪の少年が立っていた。
「驚かせてすみません。ハンカチ濡らしてきました。
目元拭いた方が良いですよ。」
「さっすがー!テツくんっ!気がきくねっ!!」
「やっぱ、黒子っち女の子慣れしてるッス。」
「黄瀬、相手は子供なのだよ。」
そう言うと、少しだけヒリヒリしていた目元に冷たい柔らかい布の感触がして
気持ちが良い。
「・・あ、ありがとうございます。」
「いえ。目元やっぱり赤くなってますね。可哀想に。」
私と目を合わせるために、しゃがんで目元を拭いてくれる。
は、恥ずかしい。
というか、ものすごく今更何だけど。
私さっきから幼児、幼児って言われてる。
一応今年で、中二なんだけど・・。
「あ、あの・・」
「あ、痛かったですか?」
「も、もう大丈夫です。」
「そうですか?」
こくんと頷けば、そうだと思いついたように、肩にかけた鞄の中に手を入れてゴソゴソと探しだした。
「・・・!」
鞄の中から姿を見せたのは、ぴんっと白い耳が伸びて、触り心地が良さそうなふわふわなうさぎのぬいぐるみ。
真ん丸の目は本物のうさぎのように、赤い目をしていた。
「こいうの好きですか?」
「す、すき・・!」
勢いよく首を縦に振った。
可愛い、触りたい、もふもふっ!
「じゃあ、あげます。」
「え、でも、・・」
渋りつつ、私の腕の中におさまったうさぎのぬいぐるみ。
想像した通りの触り心地に、頬が緩む。
「テツくん、いつのまに・・!」
「さっき、ゲーセンに行った時に取ったんです。」
「き、気付かなかったよ。」
「黒子っちってぬいぐるみ好きなんスか?」
「たまたまです。目にとまったので。」
あ、お礼言ってないっ!
そう思って、口を開いたとき、プルプルと着信音が響いた。
「誰のッスか?」
「僕じゃないです。」
「私じゃないよー。」
「俺でもないのだよ。」
「あ、お兄ちゃんから。」
ななめがけの鞄から、携帯を取り出して、開くと兄の名前があった。
「電話?」
こくりと頷くと、出て来て良いよと桃色さんは柔らかく笑った。
その言葉にまた頷いて、四人から少し離れたところで電話に出た。
「た、たいが・・・?」
「名前、お前今どこにいんだよ!家に帰ったら居ねぇし。」
「うん、ごめんね。」
素直に謝ると、ど、どうした?何かあったか?と戸惑ったような声が聞こえて、
思わずぷっと噴き出した。
「ううん、大丈夫。もう、帰るから。」
「ダメだ。迎えに行くから。どこに居るか教えろ。」
「えー?ほんと、大丈夫だってば!」
「どこに居るんだよ?まさか、お前へんなとこー」
「ち、違うよ!分かったよ。家の近くのコンビニに居る。」
「そうか。じゃあ、今から行くから。絶対動くなよ?」
「う、うん。」
「じゃあな。」
「うん。」
電話を切って、四人の元に戻ると桃色さんが一番に声をかけてくれた。
「お兄ちゃんなんて?」
「あ、は、早く帰ってこいって。」
「そう。じゃあ、送って行こうか。お家どこ?」
「ううんっ!だいじょうぶですっ!
すぐ近くだし、あ、助けてもらってありがとうございましたっ!
おしることぬいぐるみも!」
早口でそう言って、ピュー!と駆け出した。
後ろで何か言っていたけど、早くコンビニに行かないと怪しまれてしまう。
「あ、行っちゃったスね。」
「可愛い子だったなー!もう一回ぐらいぎゅうってしたい!」
「あの年の子供の割には、礼儀がなっていたのだよ。」
「可愛いらしい子でしたね。」
*
公園の入り口を通ると、さっきのチンピラを頼まれた紫くんと青い頭くんに鉢合わせしてしまった。
「おい、ちびんこ。どこに行くんだよ?」
「お、お兄ちゃんが迎えにくるので、ま、まちあわせばしょに・・・。」
見下ろす目が少し怖い。
「お前一人だったら、また絡まれるんじゃねぇか?」
「す、すぐ近くなので、だいじょうぶです。」
「なら、いいけどよ・・・。」
じーと見下ろされる。というか、みつめ・・・睨まれる。
「な、なんですか・・。」
すっと、青い頭くんの顔が近づく。
その行動にびっくりした私は、ぴしっと固まる。
「お前、よく見るとけっこーイイ顔してるよな。
将来が楽しみだ。」
ニカっと笑いながら、ぐしゃぐしゃと大きな黒い手が頭を撫でた。
「えー、峰ちんってロリコンだったのー?」
「ちげぇよ!将来有望そうだなていう話だよ!
それに、俺は胸でけぇ女がタイプなんだよ!」
「あ、この新商品けっこううまいー」
「お前、人の話を聞け!」
「あ、あの・・、助けて暮れてありがとうございました。」
「・・・。」
「・・・。」
そう言うと、何故かシーンとなった。
えっ?えっ?と一人戸惑っていると、ひょいと身体が中に浮かんだ。
「あ、ほんとだー。すごいかわいいー顔してるー。
んーでも、俺背高い女の子の方が好きなんだよねー。
・・・、成長したら考えてもいいよー。」
・・・、何かすごく失礼なことを言われた気がする。
「は、はぁ」
「おい、紫原。お前の方がロリコンなんじゃねぇの。」
「俺小さい子タイプじゃないしー。」
「あ、あ、降ろしてください。」
「んー、うん。」
すとん、地面に足がつく。
ふう、足が地につくってすごく安心するっ・・・・!
あ、やばい。
大我、もう、いるかも。
「で、ではさらばですっ!!」
シュッパともう一度、ダッシュをきって私は急いでコンビニに向った。
「あ、行っちゃったー。」
「にしても、軽そうだったなー。」
「うんー、すごく軽かったー。わたあめかと思ったー。」
*
はぁはぁと、久しぶりに走った所為で上がった息を落ちつかせるため
膝に手をつこうとしたとき、大きく視界ぐらりと揺れた。
ああ、やばい。と、地味に思った。
何回経験しても、慣れないその不快感に眉間に皺が寄る。
息が余計に苦しくなる。
どんどん身体の体温が下がって行く。
ごめん、たいが、倒れちゃうみたい。
約束破ってごめん。
ぐらっと身体が傾くと覚悟したとき、ぎゅうと抱きとめられる。
あ、このにおい・・・。
「・・・た、いが。」
「ったく。お前なぁー。」
額に浮かぶ汗・・、すごく急いで迎えに来てくれたんだ。
たいが、ありがとう。
約束やぶってごめんね。
そう口を動かそうとした瞬間私の意識は完全に途絶えた。
「名前、起きろ。昼飯だぞ。」
「んー・・・・ふわあああー。」
「でっけー欠伸だな。ん?またそのぬいぐるみ抱いてんのか。」
「うーん、うん。何か懐かしい夢みたかもー。」
「アメリカに居たときの夢か?」
「んーん。こっちに来たとの夢だと思うー。」
「ふぅーん。さっさと、メシ食えよ。」
「ふわあああ。」
「欠伸で返事すんな。」
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