五日目


5

「え」
「腹にたまるもんが食いてぇ」
「…」

さっき食べたじゃないですか。旅館でとっても美味しい朝食を。そんな視線を送れば、ナッシュさんは足を組み直して、つまらなそうに窓の外へ視線を向けた。旅館を後にして、東京へ戻るタクシーの中でナッシュさんが唐突に文句を言い出した。

「確かに不味くはない。ただもう少しボリュームが欲しい」
「…」

ワガママ。不機嫌な顔を馬鹿正直に出すことに、私は抵抗がなくなっていた。だって、ここ最近ナッシュさんとほぼ一緒に居るから、外行きの顔が剥がれても仕方ない…。そもそも、最初から猫を被っていたのかも分からないのに。ナッシュさんは最初から今までぶれないから、ある意味すごい。

「お前作れねぇのか」
「…え?」

間抜け面を晒す私に対して、ナッシュさんは特にリアクションも返さずに、淡々と言う。機嫌がある程度良くないと、必要以上話してくれないのだ。

「お前家は」
「え」
「いいから」

***

「…狭いな」
「…」

あれから住所を素直に言えば、じゃあそこに向かってくれと、タクシーのおじさんに言われて、ナッシュさんを家に入れることになってしまった。しかも、他人様のお家に向かってなんて失礼なお言葉!

「とりあえず、何か作ってくれ」
「…」

テーブルに着いたと思ったら、肘を付いて偉そうに踏ん反り返るではないか。私はさっさと食べて帰ってもらうと思い、エプロンをかけて、冷蔵庫の中を覗き込む。作れそうなメニューを頭の中で考えて、必要な材料を取り出して、シンクに並べる。

野菜や肉を洗って切って、煮込んで、揚げて、そんなことを繰り返して、テーブルの上を出来立ての料理で埋めていく。

「慣れてるのか」
「…まあ、お姉ちゃんと二人暮らしなので」
「…」

一通り並べ終えて、私はテーブルから離れてキッチンへ戻る。後片付けをしなければ、いけない。そっとナッシュさんの方を向けば、やっぱり品定めするような目だった。物事をもうちょっと純粋に見れないものだろうか。私が呆れていると、ナッシュさんが箸を持つ前に、両手を合わせて目を閉じた。

私の手から洗っていた菜箸が落ちるところだった。急いで視線を逸らした。だって、見ちゃいけないものを見た気がしたから。ナッシュさんはきっと頭も良くて、物覚えが良いんだと思う。数少ない世間話のような私の説明も、聞いてるみたいだし…。

「…」
「…」

でも、ナッシュさんを無遠慮にじっと見つめることはできないし…けど、やっぱり、作った側としては気になる。視線を向ければ、ナッシュさんが豚汁に手を付けたところだった。ドキドキしながら見守ると、ナッシュさんが私の視線に気付く。

「なんだよ」
「…え、いや、…お味はどうかな、って」
「…そうだな」

ナッシュさんはもう一口、口を付けて、思案するように視線を落とす。私は自分で聞いておきながら、早々に後悔した。
大人しくしておけば、良かった。

「…」
「…?」
「…何か、…お前みたいな味するな」
「…?・・・!?」

ナッシュさんの言葉に、今度こそ私は手から菜箸を落として、顔が熱くなった。そんな私の様子にナッシュさんはうるせぇと眉を顰めた後に、
何か分かったように、口角を上げる。

「ああ…俺はお前の人柄的な意味で言ったんだけどな…?」
「え…」

***

「気にするな。お礼だ」
「いい、…いいです」
「遠慮しなくていい」

首を横に振る私を抱き上げて、シンクの上へ。
片付けも終えて、ナッシュさんも満足して、帰ってくれると思ったのに…、どうしてこうなるの。首筋に唇を寄せられて、ナッシュさんの肩を押そうとしても、上手く力が入らない。私が抵抗に手こずっている間に、ナッシュさんは私の足の間に身体を入り込ませて、どんどん自分のペースへ持って行ってしまう。

もう、家にまで押しかけて、冗談じゃない。

「…ちょ、…ここでは」
「なんだ?ホテルがいいって?」
「…」

首筋に痛みを感じて、つい首をすくめて居ると、ナッシュさんが顔を離して、私を見下ろす。シンクに乗せられても、目線はナッシュさんの方が高い。分かり切った答えを顔を近づけて、問いかけるナッシュさんは意地悪だ。そういう問題じゃないと顔を顰めて見せれば、ナッシュさんは再び私の首筋に顔を埋めて、エプロンの下から、服の中に手を潜り込ませて来た。

ナッシュさんは器用に胸元まで辿り着くと、下着の上から、大きな手で包み込むように、胸に触れる。下着越しにでも感じるナッシュさんの体温は相変わらず、熱くて、嫌でも触れられていることを感じてしまう。両手で胸を揺らすように揉まれて、上手く息が出来ない。心臓に近い部分を触れられるって、苦手かも。

反応をするたびに、顎でナッシュさんの髪に触れる。ナッシュさんの髪って、毛が細い割には、ちょっと重い印象を勝手に持ってたりする。ふいに下着の束縛がなくなって、ナッシュさんの指先が感じ始めている部分を掠めた。思っていたよりも、強い刺激に柔らかい髪先に顔を埋めてしまう。

首筋にナッシュさんの息がかかった。もう、いやだ。この息の吐き方で、ナッシュさんが笑ったのだと、分かる自分が憎らしい。ナッシュさんと距離を取るために、ナッシュさんの肩に手を置いて、顔を上げて逃げようとするのに。そのタイミングでナッシュさんの指が悪戯に動く。掠めていた指先は意図的に動かされて、私は腰を浮かせながら、前屈みになってしまう。前屈みになればなるほど、ナッシュさんの髪に顔を埋める形になるし、…嫌でもナッシュさんの匂いが私の中に入ってくる。

「…顔見せろ」
「あ…」

ナッシュさんが身体を起こして、距離が開く。口から漏れた声は何だったんだろう。…きっと、身体を触れられている所為…それ以外ありえない。私は自分に言い聞かせるように、唇を噛む。

「…」

ナッシュさんは乱雑に私の首に手を伸ばして来た。その仕草は、下手な英語を話してしまったときに怒ったナッシュさんの仕草とそっくりで、私は咄嗟に目を瞑る。痛い感触は一つもなくて、開放感を感じただけだった。

「…?」
「邪魔なんだよ…。首に掴まれ」
「えっと」
「早く」
「…」

ナッシュさんに凄まれて私は大人しくナッシュさんの首に捕まった。ナッシュさんに抱き締められるように、腕が背中に回って、何かを解く。

「…?…あ」
「ったく、こんなものつけやがって」
「…」

床に落とされたエプロンを見ながら、私は口の端が震えそうになった。エプロンして料理作らないと、服が汚れるかもしれないんです…!心の中だけの、文句はこれで何度めになるだろうか。

「日本のキッチンは狭い上に低いな」
「…!」

ちょくちょく入る失礼発言に、カチンと静かにキレるのも何度めになるだろう…。そりゃあ、ナッシュさんくらい背が高かったから、腰を曲げるのは負担になるだろうけど…。

「…」

ナッシュさんの無言って怖くて、苦手だ。だって、何考えているか分かんないし、何し出すかも分かんないし…怖い。最近私の嫌な予感的中し過ぎだと思う。いきなり私を子どもを抱っこするように、抱え始めたナッシュさんに私は咄嗟にナッシュさんの首に回していた腕に力を入れた。

「ちゃんと捕まっとけよ。落ちるぞ」
「…」

***

「…!」

ナッシュさんは遠慮なくソファに座って、私を膝立ちにさせると、そのままぐっと腰を引き寄せられる。そして、煩わしそうに、服を捲って、ナッシュさんが頭を下げた。

「…?…や、…んっ」

指で散々弄ばれた所を、舌で慰めるように触れられて、腰が震えてしまう。ナッシュさんの肩に捕まると、胸元にナッシュさんの顔を押し付ける形になった。嫌なのに…、指先の、あの摩擦のような刺激よりも、やさしくて、つよい刺激に、どうしても感じてしまう。

「…そこ、ちょっ」
「…あぁ?」
「やっ…」

かぷり、と甘噛みされたのだろうか。舐められる度に触れていた歯に、初めて触れられた。新しい刺激に戸惑っている間に、腰を支えていた手がお尻を撫で回す。幾分か撫でまわした後に、いきなりお尻を掴まれて、私は相変わらずナッシュさんから離れられなかった。指を大きく開いて、お尻を思い切り掴まれた、その仕草に男の人を感じて、お腹の奥が反応してしまった。反応した自分も嫌だし、反応したって分かる自分も嫌だ。

「あっ…」
「…濡れやすくなったな」

後ろからでも、ナッシュさんは器用に触れる。何の抵抗も出来なくて、いきなり下着越しに触れられて、私の口から声が漏れた。ナッシュさんの指先がぐりぐりと押し付けられる度に、
締めっぽい音がして、ナッシュさんの言葉に唇を噛んで湧き上がる衝動に耐える。誰の所為で…。

「…」
「…わっ、…」

ソファに投げ出されたかと思うと、ぽいぽいと服を投げるように脱がされて…、うそでしょ。最終的に、いつものように裸にされてしまった私は小さく丸くなって抵抗を試みた。だって、ここは普通に私の家で、しかもリビングで、こんな丸裸にされて…、普段過ごしている場所で、こんなこと…するなんて。

「…ぐえ」
「だから、色気ある声出せって言っただろ」
「…」

だから、無理だって。ナッシュさんどんだけ大きいと思ってるんですか。ナッシュさんに圧し掛かれること自体は初めてじゃないけど、真正面からあんまりなかった気がする。重さに耐えながら、私は何とかナッシュさんを押しのけようとするが、ナッシュさんはハエを払うように、私の手を払ってしまう。くやしい…アリでもいっぱい居ればゾウに勝てるのに…、圧倒的に頭数が足りない…。

「なんだ?余裕でも出て来たのか?」
「…」

私は首を横に振って否定したが、そうかとナッシュさんは頷いて、また顔を近づけてくる。

「や、だッ!」
「…ここか。結構ベタな所が弱いんだな」
「…」

いきなり耳に息を吹掛けられて、声を上げれば、ナッシュさんは面白くなさそうに呟く。耳に息吹き掛けられて、何の反応しない方が無理だと思う…って、心の中で文句を言っている間にも、ナッシュさんが耳の形をなぞるように唇で触れて、リップ音を落とす。ときどき、ナッシュさんの吐息も混じって、私の心臓がどくん、と音を立てた。

不自然に浮いている自分の両手が目に入って、気が遠くなりそうだ。背中に指をかけて、シャツをぐしゃぐしゃにしてやろうかと考えて居たら、ナッシュさんが急に身体を起こして、シャツのボタンを適当に外すと、そのまま脱ぎだした。鬱陶しそうにシャツをソファの下に落として、乱れた前髪をかき上げる。

「…!」
「…ん」
「や、…あっ」

続きをするように、ナッシュさんは私の耳に唇で触れて、時々ふぅーっと意図的に息を吹き掛けられる。生理的に嫌な刺激に涙が滲んできた。耳への刺激はそのまま頭の中まで、触れられている気がして、なんか嫌だ。

無理やり開かされた足の間で、ナッシュさんの指が好き勝手に動く癖に、私が反応してしまう所ばかり触れるのだ。ナッシュさんに言われた通りすっかり濡れようになったけれど、私の所為じゃない。…ナッシュさんの所為なんだ。私は自分に言い聞かせるように、唇を噛み締めた。

***

彼女の耳元に顔を近づけると、より一層彼女の匂いがした。涙ぐんで唇を噛む姿に、当然のように俺の嗜虐心が刺激される。遊ばせていた指を彼女の中に沈めていくと、大分すんなりと入るようになった。彼女もその変化に自分で気付いているのか、悔しそうに顔を歪める。

「…んっ…な、に…」
「いや、そろそろ…な?」
「…ん、…くる、…んあ」

一本と、二本。大した違いに思えないが、実際彼女の中に入れてみると、一本だとあった隙間がなくなって、動きにくくなった。…最終的に俺のものを入れる訳だから、こんなもので泣いてもらったら困る。仕方なく昨日したように親指で、主張して寂しそうにしていた部分に触れれば、彼女は一際甘い声を出して、身体を震えさせた。その様子に俺が笑うと、彼女は目尻を上げて、俺を睨みあげた。

「もう…」
「まだ…だろ?」
「や、だッ…」

ゆくゆくは中だけで感じるようにするのもいいかもしれない。彼女の身体は中々飲み込みが良くて素直だから、きっとすぐにもっと乱れる彼女が見れるだろう。それは悪くない。独特の感触に指を滑らせながら、彼女の様子を探っていく。耳元で時々息を吐くと、面白いくらいに彼女は反応をして、俺の指を締め付けた。その締め付けに応えるように、指を曲げてやれば、彼女はまた腰を浮かせて、逃げようとする。

「…や、や…あっ」
「…」

どんどん彼女が達してしまう間が短くなっていく。その事に彼女自身も気付いているのか、達する度に彼女の瞳は失望を映している。抗っても結局抗えない自分に失望しているのか、気力が限界なのか。…そうだ。彼女の瞳にまた、悪い俺の顔が映り込んで、彼女の顔が泣きそうに歪む。

「や…!」

ベルトを性急に外す音に彼女は本格的に泣きそうになって、彼女の細い足が俺を蹴ろうとする。お行儀の悪い足に歯を立てれば、彼女は涙を滲ませながら大人しくなった。

「…」
「はっ…」

彼女のとろとろになった所に俺のものを擦り付ければ、彼女は怯えたように眉を寄せるが、次第にまた口から甘い声が零れていく。俺は少し身体をずらして、彼女の薄く白い腹に俺のものを押し付けて、彼女の身体を抱き締める。

たださえ小さく狭いソファが軋む音がした。その音ですら彼女の理性を留めるように煽ったのか、彼女が俺の腕の中で子猫のように暴れ始めた。俺は薄いわりに、なかなか柔らかくしっとりとした肌に押し付けることに夢中で、大して気にならなかった。

「や、だ…こんなっ…」
「…んっ」

自分の身体に俺のものが触れることが彼女は嫌悪感を持つのか、彼女は身体を捻って逃げようする。身長差の所為か、すっぽりと俺の腕の中に納まってしまった。俺は彼女の頭に鼻先を押し付けて、彼女の腰を俺の腹に押し付けるように、抱きしめた。背中の方がぴったりと合わさるが、この態勢は身体を揺らす度に擦り合う場所が違って、それもそれで気持ちがいい。

「…はっ…ん」
「やぁっ…」

ギシギシ、と大きく激しくなっていく音に、それほど強い刺激ないはずなのに、自分が高まって、限界に近くなる。そして、彼女の髪に顔を埋めて、思い切り彼女を抱き締めると、彼女が苦しそうに息を詰まらせた。

「…はぁ、…」

彼女から身体を離すと、彼女は半泣きになりがらも、不快感に眉を寄せて、俺を睨みあげた。

「…ひっ、…うっ…」
「…」

彼女の薄く白い肌に、どろりとした濁った白い液が汚すにようにかかっている光景に俺の背中に快感が走る。そう、俺はずっと彼女を汚したかった。無防備に仰向けで放心に近い状態の彼女の身体は堪らなくいい。真っ白な雪のような肌の上に、左首筋から左肘まで続く赤い刺青、肩や太ももやふくらはぎに残る痛々しい赤い痕、その上さらに汚すように俺の精液が掛かって、…こんなにも白と赤が汚く混ざり合って、似合う女が居るだろうか。

「…エロいな」
「…?」

思わず零れた英語に彼女はこの場には似合わないほど、幼い顔をして首を傾げる。そのあまりの幼さに変に罪悪感でも、刺激されたのかもしれない。俺は一つ息を吐くと、彼女の乱れた前髪を払って、そこに唇を落とした。

「!」
「…」

彼女は顔真っ赤なんて、可愛らしい反応ではなく、何が起きたか理解できないようで、ぽかんとした後に、思い切り眉を顰めて見せた。彼女らしい表情に俺は鼻で笑った。

「…さいあ、く」
「はっ、褒め言葉だ」

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