六日目


重い身体を起こせば、見慣れたホテルの一室で、そろそろ私の普通の感覚が麻痺しそうだった。部屋に誰か居るなんて確認できるほど気力も体力も残って居なくて、私はベッドに身体を沈める。

昨日ホテルに戻ってからバカみたいに身体を弄ばれて、泣かされて、目元が酷くヒリヒリする。違和感を持って自分の髪に指を通すと、若干濡れていた。ドライヤーで乾かした後の、あの独特の感覚だ。私は自分の身なりを視線を下げるだけで、確認して、項垂れた。着た覚えのないぺらぺらのルームウエアを着ている。どうやらまたナッシュさんに身体を綺麗にされて、着替えまでさせられたらしい…。

起きたときに、べたべたした不快感はないけれども、複雑である。素直に喜べるはずもない。

ナッシュさんと出会った夜は手荒く抱かれると思ったのに、観光の合間に行われる戯れのような性行為は、少しずつでも確実に私の身体の警戒心を解いていった。ナッシュさんに触れられることは嫌ではない。全然嫌なことはなくて、むしろ…自ら求めて行ってしまうような、そんな感覚になってきた。

不自然に一人分空いているベッドの上に寝返り打ってみると、すっかり嗅ぎ慣れた匂いがして、自然とシーツを抱き締めていた。ナッシュさんに強く抱き締められると、心臓まで握られるみたいな気持ちになって、苦しいのに、放してほしいのに、…もっと強く抱きしめて欲しいって思う。

起きたときに、ナッシュさんが居ないことに安堵していた自分が居なくて、むしろナッシュさんが居ないことがこんなにも寂しい、なんて。

嫌だ。もう、無理だ。このままじゃ、私身体じゃなくて、何もかも攫われてしまう。まだ…まだ、間に合う。私は深く息を吐いた。今まで全てものを吐き出すように、溢れてくる涙はお姉ちゃんへの罪悪感だろうか。

でも、ごめん、このままじゃ、私も手遅れになっちゃうよ、ごめんね。

***

「…知らねぇよ。俺はシルバーたちの保護者じゃねぇ」

口煩い案内のオッサンの電話を無理やり切って、俺は舌打ちをして、部屋へと続く廊下を歩く。くっそ、あのオッサンタイミング悪すぎだろ…。そろそろ食べどきの果実を目の前にして、焦らされるなんて苛立ちしか感じない。

部屋の扉の前に立つと、部屋の中から騒がしい音が聞こえる。軽くて拙い足音に、誰かなんて考える必要はなかった。

「…何してんだ?」
「あっ…」

今まさにノブに手を掛けようとして居たと思われる仕草を、そのままにして、彼女は俺を見上げる。そして、彼女は見る見るうちに顔を青くして、後退り、俯いてしまう。

本当に、どいつもこいつもタイミングが悪過ぎるな。

「…なあ」
「…」
「抵抗してくる奴は嫌いじゃねぇ。でも…」
「…あ」
「オイタが過ぎたら、別だ」

無理やり掴んだ彼女の手首はやっぱり細かった。きっと加減をしなかったら、折ってしまうことも容易いほど彼女は脆い。こんなにも脆く弱い存在の癖に、逃げようと抗おうとする彼女にいっその事関心してしまう。けれど、それ以上に苛立ちを感じるのも事実だ。

どれだけ踏み荒らして、絶望に叩き付ければ、目の前の彼女は足掻くことを諦めるのだろうか。

「…今日はとっておきの顔を見せてくれよ」

彼女の耳元で囁いた、この言葉が彼女にとって絶望の音色になることを確信して、俺は彼女をベッドに押し倒した。

***

もう蕩けそうだ。身体の感覚が分からなくて、熱くて、汗ばんだ肌を触れ合うなんて、気持ち悪いはずなのに、気持ちいい。もう今の私にとって、目の前の男がもたらす事が全て快感だった。もっと、そんな風に思う気持ちも、全部目の前の男の所為だ。

私が悪いわけじゃない。そう、私は何も変わってない。

いっその事気持ちいいことで、頭をいっぱいにして、全てを忘れたい。そして、朝起きたら、たった一人でゆっくりシャワーを浴びて、部屋を後にする。

早く終わらしたかった。

「…や、ぬいて…いた、い」

そんな願望をあざけ笑うほどの痛みに襲われて、私は目を見開く。秘部を何度も滑り擦っていたものが、無理やり私の中へ入ろうとする度に、痛みに襲われた。今までの圧迫感と比べ物にならない。いくら指で解したとしても、痛くて痛くて堪らなかった。

痛い、と泣く私にナッシュさんは少し目を見開いて、私の手に優しく触れる。

「そんなに痛いなら、掴まるか?」
「…ど、こに」
「ここ、に」

ナッシュさんが私の手を引いて、自分の首元へ導く。甘い誘惑に一瞬心が揺れて、でも咄嗟にナッシュさんの目に宿る暗さに気付いて、ギリギリのところで留まる。手を振り払って、顔を横に振れば、ナッシュさんは心底楽しそうに笑い声を上げた。

「…上出来だ。ご褒美をやる」
「…ん、や、だ…」

絶対に、ナッシュさんに捕まったりしない。そんなことをしたら、ナッシュさんにされることを受け入れた、ことになる。身体を好きにされても、私の意思は好きにさせたくない。枕を掴んで、痛みに耐える。

中ではなくて、外の一番敏感な部分をナッシュさんの指先が弄ぶ。教えられた刺激に身体が反応して、緊張が少しずつ解けていく気がした。どうして、一気に貫くように入れてくれないの。こんなゆっくりと、苦痛の時間がずっと続くようなことをするの。今までは快感に溺れそうになる私を笑っていたのに、どうして。

痛みと、快感がせめぎ合って訳が分からない。一つ言えることは苦しくて、たまらない。涙でぐしゃぐしゃな顔なんて、見ても楽しくないものなのに、ナッシュさんは口角を上げて、異様に興奮している様子だった。

「…んう」
「……はっ、…ああ、全部入ったな…?」
「…くる、しいっ」

痛みと圧迫感がごちゃ混ぜになって、気持ちが悪くなりそうだった。下半身の感覚は確かにあるのに、自分の身体の一部って感じがしない。顔を背けて逃げようとしても、囲うように置かれたナッシュさんの両手の所為で逃げれない。大きく開かされた足の間で、ナッシュさんが腰を押し付けて、その度により足を開かれて、足の付け根も痛い。

「…」
「…や、いっ…」

いきなり態勢を変えられて、身体に痛みが走る。痛みの余韻に耐える間もなく、ナッシュさんが迫ってくるから、一々フリーズしている暇もない。横向きに寝転がるようにされても、ぴったりと背中にナッシュさんが居て、後ろから羽交い締めにされているみたいだった。

「んん…」
「…や、…あ、…」

ナッシュさんのもの、が全部入ったままで、抜けもしないし、動きもしない。ナッシュさんが私の身体に触れようと動く度に、微か擦れるように動くだけ。ナッシュさんは耳の裏にキスをして、耳の形を唇でなぞるようにしながら、ふぅーっと息を吐く。私が嫌いな奴って知っててやってるんだ…。もう、頭も下半身もぐちゃぐちゃに掻き回されて訳が分からなくなりそうだ。

「はっ…余計に締ったな…ちょっと痛いくらいだ」
「…」

痛いなら、抜けばいいのに。

「キツくて動けねぇから…」
「あっ…んんっ…」

その代わりに、他の所を愛撫されると言う事なんだろうか。耳たぶを甘噛みされながら、ふいに唇を指先で撫でられる。頑張って口を閉じても呆気なく侵入されて、長く無駄な脂肪の付いていない固い指が私の口内を好き勝手に探った。ナッシュさんの指先は意外に丸い。爪はきっちり切ってあるからか、乱暴に触れられても、痛いと感じることは少ない。他人の指先の微妙な味を何度も何度も味わされて、気分が悪い。

「…ひっ…あ、や…っ」
「…」

何回視界が滲んでいるのか分からない。歯茎を一通り指でなぞられて、舌の裏までくまなく触れられて、最終的に、上顎部分の、前歯のもっと奥の部分をネコの顎を撫でるように指先で触れられた。くすぐったいのか、気持ち悪いのか、それすらも分からなかった。唇を閉じようと必死で口に力を入れるが、もうそれすら叶わないほど、私の口の中に指が侵入していた。とどめとでも言うように、ナッシュさんの舌が私の耳の中に遠慮なく入って来た。


くちゃくちゃ、ぴちゃぴちゃ。もうどこから、その音がしているのかも分からない。
今まで知らなかった刺激が集中して、私を襲う。ナッシュさんのもの、が入っていると言う違和感自体も、忘れそうなほどだった。

その刺激に負けたら、もう自分が保てなくなりそうで、必死に握った手の中で爪を立てた。でも、気付いたら、真っ白になっていた。

「…んっ…や、…ひ…んんっ!」

思考回路が?意識が飛んだ?何が起こった?
分からない。意識が正気に戻る頃には身体が揺さぶられていた。耳元で荒い息遣いがあって、それは媚薬のように私の身体を熱くさせて、欲望に忠実させようとしてくる。揺れる視界に息を詰まらせて、呼吸が苦しくなって、本当に危機感を覚えたときに、後ろから今まで以上に抱き締められた。身体の中で、大きく何かが脈を打って、うっとりと思わず漏らしてしまったような、低く無防備な声に私は身体を震わせた。

あ、今…。自分で分かる、この身体の奥から濡れていく感覚に、堪らなく悲しくて悔しいのに、身体は熱くなるばかりで、もう本当に嫌だ。

「…はぁ…」
「……」

ナッシュさんは息を整えながら、私の首筋に鼻を擦りつける。逃げようとしても身体が捻りかけるだけで、抵抗の形にもならなかった。

「…」

ナッシュさんは気だるげに身体を起こすと、慣れた手つきでゴムを外して結ぶと、ベッド脇のゴミ箱に投げ入れる。
その光景にああ、私本当にしっちゃったんだ、と変な実感が湧いた。ナッシュさんは私の視線に気付くと、上気した頬をゆるめて、目を細めた。何かを満たされたような顔をして、ナッシュさんは寝転んだままの私を押し倒す形で見下して来た。

「“初めて”はどうだった?」
「……」
「…まあ、よく分からなかっただろうな」


きっと、わざとだ。私が痛みも何も分からないようにして、次にその刺激を受けたときには快楽に繋げるために、あんな抱き方をしたんだ。思い切り睨み上げれば、ナッシュさんは大袈裟に肩をすくめて、まるで、ワガママなお嬢様をあやすように、私の両頬にキスをした。

「ちゃんと、次はお前も気持ちよくしてやる」
「…い、や」

掠れた涙声にナッシュさんは口元を歪めて、二つ目のゴムの封を切った。

***

「なあ、生でやるよりゴムしてやる方がエロいと思わないか」
「…しら、なっ…い」

態勢を変えて、正常位で彼女の中に入って行けば、彼女は痛みを感じるのか眉を顰めて、彼女の腰を掴む俺の腕を弱弱しく叩いた。痛くも痒くもない抵抗に、その手を取って、俺が唇を落とせば、カメレオンの舌のように素早く手を引っ込ませる彼女に思わず笑ってしまう。とてもセックス中だと思えない行動を所々取る彼女は妙にツボだ。

「ゴムをするってことは…セックス自体が目的ってことになるだろ?」
「…」
「子作りでも、本能でもなく、ただ快感を味わうためだけ」
「…」

予想通り。彼女は俺の言葉に痛みとは別に、不快感に顔を顰めて、口をへの字に曲げる。乱れた前髪も、赤い頬も、熱っぽい吐息も、十分女らしいのに、快感を抗うほど嫌な彼女らしい表情の方が強い。そして、その表情を見る度に俺の何かを擽るのも事実だった。

彼女の中は何かが敷き詰めたように、ぎちぎちで、動けないほどきつかった。小さくて白い耳を唇で、舌で、犯して、口内も指で犯して、そして彼女の一番深いところを、俺自身で犯した。そんな中でも、必死に自分を保とうする彼女の表情が快感で塗りつぶされて、目を虚ろにさせながら、無意識に声をもらす姿は中々背徳感があった。

未だに痛みはあるらしいが、とろとろになるほどに解れて濡れている彼女の中は幾分か動きやすくなった。一番奥の深いところに俺の先端がぶつかると、彼女の腰が逃げようとするので、そこは外して彼女を気持ちよくさせることに集中してやる。彼女の白くて薄い腹は相変わらず薄いままで、この腹の中に俺のものが入っているなんて、考えられない。場違いだが、人体は不思議だなんて、思ってしまう。

薄い腹の上に手を乗せて見れば、微かに中の動きが手のひらに伝わって来た。

「やだ…そこ、さわらないで」
「あ?」
「…」

彼女が手を伸ばして、腹の上に乗る俺の手をどかそう、と俺の腕を力なく押す。その手を気にせずに、腹の上を軽く撫で上げれば、面白いくらいに彼女の中が動いて、彼女も目を潤ませて、喘ぐ。俺は彼女の様子に、軽く首を傾げた。

彼女は俺とすぐに距離を取りたがる。それは俺に嫌悪感を持っていることもあるだろうが、他にも理由がある気がした。本人も気付いていない、理由が。

彼女の抵抗にも構わずに、彼女と思い切り身体を密着させた。彼女の柔らかい胸が俺の胸板に押しつぶされ、やけに柔らかい腹と、俺の腹が隙間なく、ぴったりとくっついた。昨日よりも、ずっと彼女の身体が近かった。彼女の小さな手が力なく、俺の背中を滑って、彼女がぐずぐずとまた泣きじゃくる。

「…あつ、い…や、だ…!」

彼女が涙を流す度に、快感に飲み込まれる度に、理性を失いかける度に、俺は背筋に走る刺激に虜になりそうだ。俺に対しての抵抗と言うより、眼の前の彼女は必死に自分を保とうしているように見える。許してはいけないものを、許してしまいそうな、そんな自分と戦っている気がした。意地でも開いている彼女の瞳を見下ろしながら、俺はやっと分かった。あまりにも簡単すぎて、気付けなかった。思わず笑いがもらしてしまう。彼女はそんなに俺の様子を怪しんで、下から睨み上げる。

単純に元々人肌に弱いのか、それとも…、彼女の身体自身が俺の体温に、俺の匂いに、触れられて、包まれて、慣れてしまって、すっかり警戒心抱かないように、なったのかもしれない。彼女が抗うべき相手は俺ではなく、自分自身になってしまったのだ。…だったら、彼女の身体と戯れるよりも、もっと…ずっと簡単なことの方がいいかもしれない。…自分自身さえ見えなくなって、俺のことだけ、身体も頭の中でもさえ、いっぱいにするためには…きっと。

確かに、彼女の身体と戯れて、俺好みにしていくもの楽しいが、完全にこのベッドの上だけでも、俺のことし考えれないようにするのもいい。

そんな事を考えてながら腰を動かして居たら、慣れているのに、強い刺激に襲われて、思わず彼女の上に身体を倒してしまった。彼女の髪に顔を埋めながら、大きく息を吐くと、彼女が身動ぎした。それすら、余韻が残る俺には刺激になって、つい声がもれる。

「んっ…」
「…う、あ…」

俺の声に、彼女は身体を小さくして、俺の身体をどかそうと小さな手でたたく。これが彼女の最後の抵抗になると、俺は口元を歪めた。

***

新しいゴムを付けて、彼女の中に入れていく。俺はゴムの袋を適当に投げ捨てながら、早々に何回目かなんて数えて居なかった。

だめ、だめ。
声をもらしたくない、と必死に唇を噤んでいた彼女が繰り返す。彼女の中から一旦抜いて、彼女を抱き起して、俺はまた彼女の中へ入れていく。彼女は自分が入れているような感覚に戸惑ったのか、手をぎゅうっと握りしめて、強く胸の前で組む。何とか押し込むように最後まで入れると、彼女は苦しそうに眉を寄せた。

俺の上に座っても、小柄な彼女は余裕で見下ろすこができる。俺は彼女のつむじにキスを一つ。彼女の肩がぴくり、と動いて、彼女の中も驚いたように反応を示す。慣れて来たとは言え、彼女の締め付けがキツいことに変わりはなく、つい本能のままに動いてしまいそうになる。解れているはずなのに、強張っている彼女の華奢な両肩に手を滑らせて、掴んでみると、想像よりずっと細かった。何回か撫で上げて、こちらを伺いみる彼女の前髪を払って、額、瞼、頬にキスを落としていく。

指が白くなるほどに、握っている両手にも、唇を寄せる。この仕草だけなら、まるで何かの誓いのようだ、と内心鼻で笑ってしまう。キス一つで、誓いを立てるなんてバカらしい。それなら、俺は今まで何度も見知らぬ女と誓いを立てて来たか。白い手の甲が、指が、身体と同じように、赤い痕で埋められていく。

「…んっ…」
「痛いか?」
「…」

彼女の耳もとで聞けば、彼女は首を横に振った。ふわり、と彼女の髪から甘い香りがした。今までとは違う。否定ではなく、どこか甘えたような素振りに俺の瞳はきっと歪になっているだろう。耳も、頬も、どこもかしこも、彼女は可哀想なほどに真っ赤で、本当に熟した果実のようだ。

「良かった」
「…」

俺の言葉に彼女は唇をきつく結んで、涙をほろほろと流す。もう、限界なのだろう。俺はそんな彼女を受け止めるように、彼女の背中に両腕を回した。

やさしく、ていねいに、むかえるように。

「…いい?」
「ん?」

掠れた声にやわらかく聞き返せば、彼女が俺を見上げる。ゆらゆらと揺れて、おちそうになっている瞳が、俺を縋るように見上げる。

「…もう、いい?」

もうゆだねても、いい?

「ああ、よく頑張った。…こい」

俺が口角を上げて、彼女の背中をなでれば、彼女は人が変わったように、俺に擦り寄って、俺の胸元に頬ずりをしてきた。途端に、彼女の中が反応して、俺を切なく甘く締め付ける。俺は彼女の頭を撫でながら、奥歯を食いしばった。ここで乱暴にすれば、今までのものが無駄になる。俺は振り回されたりなんか、しない。

「…あっ、…んっ…」
「動いてる…」
「だって、…」

彼女の細い腰が拙く動く度に、俺の腹と彼女の腹が触れ合う。そんなことすら、気持ちが良いと思った。気持ちが良い?と彼女にシンプルに聞けば、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らして、こくんと頷いた。また彼女の髪が揺れて、甘い香りを振り撒いた。

何気ない仕草でしかない。彼女の匂いか、素直な反応か。どちらかは分からない。でも、笑ってしまうほど、呆気なく俺の限界だった。

「…くそっ」
「ん、やあ…」
「掴まってろ」
「こ、こう?」
「それでいい」

彼女が俺の首に掴まった。彼女から俺に触れて、強く抱き締められる。彼女から求められることが、そんなに興奮するのだろうか。いや、もう、今はそんなことどうでもいい。目の前の彼女に興奮していることは、紛れもない事実なのだから。彼女の細い腰を掴んで、下から突き上げれば、狭い中が締め付けながら広がっていく感覚がした。彼女の柔らかい胸が無造作に押しつぶされて、俺の胸板に触れる。片手で彼女の胸に触れて、乳首を指でぐりぐりと擦れば、彼女が俺を締め付けて、彼女の熱い吐息が俺の首筋にかかる。

「やぁっ…あっ…」

彼女は俺が胸を触ろうがお構いなしに、密着してくるものだから、とても手が動かしにくいのに。俺はそのまま彼女に触れ続けた。迫ってくる快感の波に、腰が酷く疼く。ぐちゅぐちゅ…なんて、下品な音が部屋に響く。
本来の彼女なら、耳を防ぎたくなる音だろう。こんなに顔を蕩けさせて、俺を見上げたり、しない。

「…こわ、い」
「ん…」

彼女も限界が近いのだろう。迫ってくる快感にはまだ慣れていないらしい。素直に不安をもらした彼女の顎を掴んで、額にキスをすれば、彼女は素直に受け入れる。そして、迫る快感に眉を寄せながら、笑った。

「あ…へへ」

それはもう、無邪気に、差し伸べられた手に頬をすり寄せるように、嬉しそうに笑った。初めて、見た。セックス中だと思えないくらい、甘く子どものような笑み。くそっ、考えるヒマも、ない。

「ん、あっあっ…」
「…はぁ…」

彼女が一際高く鳴いて、腰を捩らせる。最も強い締め付けに耐えて、彼女の腰を両手で押さえながら、突き上げれば、彼女は喉を反らした。白い喉に噛みついたのは、ほぼ衝動でしかなかった。彼女の痛みを訴える声と、俺のものが強く脈を打ったのは同時だった。

「いっ、ああっ…!」
「…はっ、…ん…」

***

強い刺激から意識が戻ったときには、彼女は俺の腕の中で目を瞑っていた。穏やかな呼吸に、気を失っているだけ、だと悟る。俺は彼女をベッドに残して、身体を起こした。自分の身体から香る、彼女の匂い。

セックス中は妙に甘いと思っていたのに、終わるとそうでもない。
…不快ではない、匂い。

バスルームに入って、全てクールダウンさせるように、ノズルを捻って、冷水を浴びる。

「…結局、おちるのかよ」

思わず呟いてしまった言葉何なのか、自分でも分からなかった。抗う姿勢は嫌いじゃない、でも、最後まで抵抗されてもつまらない。最終的には俺の思い通りになればいいし、なるように仕向けた。それでも、結局…好きにされる彼女に落胆している自分も居る。

何が気に入らない?
身体も、心も、俺に絆されて、俺の思い通りになって、そんな彼女は滑稽で可哀想なほど可愛かった。

…俺は最中に、本来の彼女…なんて、考えたか?求めてくる彼女に興奮した癖に…。

「…は、バカらしい…アイツはただの暇つぶしだろ」



そうだ。暇つぶしだ。予定より伸びてしまった滞在時間をただの観光なんて、つまらない。いつもの女遊びだって、つまらない。そんな風に思っただけで、何もない。言うならば、彼女は俺の暇つぶしに付き合わされた被害者で、俺は加害者だ。そんな異様な俺たちの仲を今更考える方がおかしいのだ。だから、彼女の初めてだったとしても、どうでも良かった。

「ん…」

好き勝手に犯されたベッドの上で、呑気に寝返りを打つ女のコトなんて、考えたくもないし、理解もしたくない。全てが嘘だと思うほどに、寝顔はあどけなく、この唇であんな声を上げていたなんて。妙に目に付く控えめ色をした唇に、唇を寄せて俺は部屋を後にした。

彼女の初めて、なんざどうでもいい。


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