要くんいわく、祐希くんには協調性や他人を思いやる気持ちが不足している。それを補うには部活に入るのが手っ取り早い、とのことで。





さっそく放課後、掴まれた猫よろしく要くんに引っ張られる祐希くんと、二人の荷物を持って追いかけるまゆちゃんが廊下で目撃された。




*




「部活見学?いいよ、じゃあさっそく練習にまざってみる?」
「お願いします」
「ほら」
「えー。俺今だって毎日部活頑張ってるよ」
「帰宅部をね。まゆ、荷物持つよ」
「ありがと悠太」

快く引き受けてくださったバスケ部の部長さんに頭をさげるも、肝心の祐希くんは乗り気でない様子。日々帰宅部に励むという祐希くん、でも今回はいい経験になるかもしれない。逃げられないと悟ったのか渋々コートに入っていく、頑張って、祐希くん!


笛の音が鳴る。


快活な足音の響くコート上をのんびり歩く祐希くん。

「祐希くん、まるでやる気がありませんね…」
「ね、部員の人たち怒らないかなあ」


はらはらする僕とまゆちゃん、眉間に皺を寄せた要君、黙って見守る悠太くん。
そしてパスされたボールを華麗にかわす祐希くん。

「避けるなあ!」
「だって、向こうがいきなり」
「それじゃチームプレイになんねえだろうが!」

案の定、要くんの怒号が響き渡ってしまった、そうですよね、あはは。


「まゆも春も、あまり前に出ない方がいいよ。ボールに当たると危ないから、こっちにおいで」
「はーい」
「はーい」

インターバルで祐希くんが一度こちらに戻ってくる。


「お前いつも体育とかも適当だけど、そんなに運動出来ないならバスケ部入れよ」
「そうですね、体育でもバスケってよくありますし」
要くんのいう通りだ。僕も得意な方ではないけど、せっかく部活を始めるならバスケ部はかっこいい祐希くんにぴったりだと思う。成績も上がれば、学生の僕らは万々歳だ。まゆちゃんも隣でしきりに頷いている。
「祐希、ユニフォーム似合いそうだしいいかもよ?」
「だって」
「…」


笛の音が鳴る。


そこからの祐希くんの快進撃はすごかった。ボールを奪い、バスケ部に負けないドリブルでゴールに近づき鮮やかなシュート。思わず僕とまゆちゃんも身を乗り出してしまった。


「なんだあれ…」
「祐希は運動神経めちゃくちゃいいよ」
「はあ?」
「本気出したらもっとすごいし」
「ひええ」

あ、あれ以上…?だって、バスケ部もついていけてませんよ?

「あ、ねえ見て。ドアのとこ」

まゆちゃんの指すドアからは、複数の女子生徒の皆さんが頬を赤らめて祐希くんを見つめている。祐希くん、モテますからね。あんなプレーを見たら余計にモテそうです。


「どこがいいんだ、あれの」
「そりゃああんなにかっこよく決められたら、女の子が黙ってませんよ」
「うんうん、気持ちはわかる」


落ち込むバスケ部の皆さんをよそに、祐希くんはコートを後にしてしまう。




「仕方ねえ、次行くぞ」

「ええ、まだ行くの」




お次は柔道部だ。といっても、祐希くんがお相手の胸倉をつかんで即終了。


陸上部は疲れるからいや(それもう全否定では)。


弓道はまず的に当てることをわかってない…。



「水泳か…肩こり解消にも効くっていうし」

ふむ、と水泳部は何やら脈ありな様子!要くんと僕の目も輝くってもの。

「老後の健康を考えるといいかもね」
「青春時代に輝くためとか、考えられないのかお前は」
「まだ決まらないのー?」
「まゆさん、退屈だからって寝ちゃだめですよ。悠太くん枕じゃないです」

祐希くん、悟りを開いてるんじゃないでしょうか、これ、もう。悠太くんはずっと黙って見守るだけだし、まゆちゃんは最初はノリノリだったけど疲れてきたみたいだ。女の子ですもんね。




*




「っだー、なんで決まらないんだ!」
「だから決まんなくでも…」
「いーやだめだ、お前はもっと新しい世界を知るべきなんだよ」
「こっちは無理やり瞼こじあけられてる気分でいっぱいです」

机に倒れこむ要くん、椅子に腰かけて素知らぬ顔の祐希くん。近くにしゃがむまゆちゃんと顔を見合わせるけど、どうしたものだろう。


「みんなで何してるの?」
「東先生!」



東晃一先生。ほがらかな笑顔と話しやすい雰囲気で、僕ら生徒から(特に女子生徒から)人気の若い先生だ。

「祐希くんの入部先かあ」
「なかなか決まらなくて…運動部はほとんどまわってみたんですけど」
「運動部?」
「そいつ、すげえ運動神経いいから…です」

不思議そうな東先生に要くんが答える。
へえ、と感心したような東先生の視線を受けて、祐希くんも頬をかく。

「悠太くんは?」

急に名前を呼ばれて、黙ったままだった悠太くんがえ、と声をあげる。

「どうするのがいいと思う?」
「俺は別に…」
悠太君が視線を祐希くんに向けると、祐希くんもお兄ちゃんを見上げる。


「祐希が決めることだから」


東先生はにっこり微笑んだ。




*




「かあっこいい〜〜」
「素敵だったね〜〜」
「要どうしたの」
「…別に」

先生の助言もあって、運動部以外も見ることにした僕らは、再び学校内を歩き回っていた。
ついさっきの東先生を思い出して、まゆちゃんと二人、つい頬に手を当ててつぶやいてしまう。かっこいいなあ、大人の人って感じだなあという僕らに、まあ大人なんだけどね、という悠太くんからのツッコミは馬耳東風なのだ。

「あんな素敵な旦那さんとか、彼氏、いいなあ」
「まゆちゃん、彼氏とかほしいんですか?」
「そりゃあ、ちょっとは興味くらいあるよ私だって」
「そうなんですね…」
「春ちゃん、なあに。恥ずかしいよ」

意外だ、僕ら以外の男の子と、まゆちゃんはあまり話さない。というか、話す機会がないだけなんだろうけど。やっぱりいつか、まゆちゃんにも彼氏ができて、僕ら以外の大切な男の子ができるんだろうか…そんなことをふと思っていると、見つめてしまっていたのかまゆちゃんが顔を赤らめて笑った。こんな素直でかわいい女の子だ、引く手数多だと思うけど、相手がちゃんとした人か、見極めなければ。


って、いけないいけない。まずは祐希くんの部活探しからだ。

あ、運動部以外の部活なら


「そうだ、茶道部の見学に来ませんか?」