Run to you

立春がすぎてもう春だと暦は言うのに、寒さは変わらない。こんなに早く学校に来るのは、松葉杖なんて必要なかったあの頃の朝練ぶりだ。
今日も朝練をしているであろうサッカー部員に見つからないように、急いでエレベーターに乗り込んで、5階のボタンを押した。
カツカツ、と松葉杖の音を響かせながら、少し開いた美術室の扉を覗く。
静かな教室には、彼女がカッターナイフで鉛筆を削っている音だけが響いていた。
「珀亜さん」
扉を開けて、中に入る。
端の席を陣取る彼女に近付く。
「豹馬。おはよう」
声を掛けると、それまで手元に注がれていた視線がこちらを向いた。
彼女の隣まで行って、椅子に座る。
「おはよう」
「どうしたの」
「やっぱり、顔見て言いたくて。珀亜さん、誕生日おめでとう」
「……あぁ、うん。ありがとう」
「もうすぐ、試験だよな」
「うん」
「応援してる」
「ありがとう。豹馬も、リハビリ無理しないで」
そう言って、彼女は俺の頭を撫でた。
悪い気はしないけれど、これをされると、複雑な気持ちになる。
12月には、年の差が縮まったと思ったのに、今日でまた、伸びた。
そんなこと彼女に言ったって、仕方ないよ、と言われるだけなんだろうと思うと少し癪だから、俺を撫でていた手を掴んだ。
「?」
嫌だった?と言い出しそうな彼女の唇を咄嗟に塞いだ。さっきまで物静かだった美術室には、俺たちの零れた息の音で満たされる。
「珀亜さん」
「俺もすぐ、追い付くから」
この脚で。
君のその、人生に。