夏はまだ始まったばかり





空港から地元までひたすらに電車を乗り継いでやっと着いたと思えばもう夕方だった。折角帰るし、と欲張って実家に置いて行こうと作品を持って帰り過ぎた私は考え無しにも程がある。
大きいキャリーケースと油絵具一式、F40号のそこそこ大きな絵を持って改札を出た。
「おかえり、珀亜さん」
声をかけられた時思えば、付き合っている千切豹馬だった。
「え、豹馬」
部活はどうしたの、とは聞けなかった。怪我をして、一歩間違えれば選手として活躍できなくなると言われ、色々悩んで答えを探している中、こうして私を迎えに来てくれたのだろうから。
「久しぶり」
「うん」
「あ、荷物持つ……ってか、よくその荷物で飛行機乗れたな……」
「ありがと。アパート、もうスペースやばくて。飛行機乗るのは心配無かったけど、空港までの道のりのこと考えなさすぎた」
「ふはっ、珀亜さん、たまにそういう所あるよな」
彼は笑って私の手から絵と画材を取った。春に空港まで見送ってくれた時よりも彼は背が高くなった様だ。付き合い始めた頃は並んでいたのに、今では彼の方が少し上だ。
「大きくなったね」
「そうか?まあ、もう高二だし」
「そっか、高二か……」
少し前まで一緒の高校に通っていたのに、私は受験、彼は部活と怪我で、学校帰りに寄り道とか、そういう世間一般的な学生カップルみたいなことあまりしたこと無かったな、と思い返す。
まあ、予備校から帰る時にたまに駅まで来てくれたり、入院中の彼の病室に通ったことはそれはそれでいい思い出だ。
「……珀亜さん、大学、楽しい?」
「え?あー、うん」
「友達とか、出来た?」
「?うん。なんで?」
「……なんか、珀亜さんが美術室で一人で絵描いてるイメージ強くて。だから、美大行って、高校の時と違ってさ、楽しくやれてんのかな……って」
「君、私の心配してくれてたの」
「心配……うん、まあ。だって、彼女だし」
「そう、ありがとう」
彼の目には、私が絵を描いている時、寂しそうに見えていようだ。羅実は文武両道と言えど、スポーツでよく功績を上げていたから、文化系の、それも美術となると、私のような存在はさぞ異端だっただろう。
まあ、気にしたことないけど。
「豹馬」
「ん?何?」
「明後日、暇?」
「え?空いてるけど……」
「動物園か水族館か美術館」
「あー、じゃあ水族館」
「ん、じゃあ10時にうち来て。頑張って起きるから」
「分かった。デート、久しぶりだな」
「もう、一年以上行ってないよ。豹馬が告白してくれてすぐ、1回行ったきり」
まだ、高校入学したての彼と行ったのは、ショッピングだったかな。部活で忙しいのに、デートがしたいと貴重なオフの日に都会へ出掛けたっけ。
「憶えてて、くれたんだ……」
「忘れないよ」
だって君との大切な思い出だもの。
「ただいま、豹馬」
まだ暮れかけの人気の少ない帰り道。
両手が私の荷物で塞がった彼の頬に、キャリーケースを手放して両手を添える。

見開かれた瞳を見ないフリして、口付けた。