朝アラームが鳴る、止める。身支度をして家を出る。チャリ、とキーホルダー付きの車の鍵を差し込みエンジンをかける、そして車内でパンをかじる。
出社時刻15分前に会社に到着、タイムカードを切る。

「おはようー」
「おはようございます」
「今日はねー、今の時点で35件発送あるよー」
「了解です」

私の勤めている会社はネット販売をしている、私はその梱包から発送、納品書関係をしている。
もうこの会社に入って5年、私も24歳になった。それでも見えるコレは一生付き合っていくのだ。

「ふう」

肩を軽く叩けば小さな鳴き声を上げて消えるもの、呪霊だ。なぜかここの会社の立地は呪霊が発生しやすい。まぁ祓えるから全然いいが。


***


「網代さん」
「はい?」
「今日終わったら飲みに行こうか、って話してるんだけどどう?」
「今日、ですか?ええと……」

確か予定は無い、と返事をしようと思ったところにかかってくる電話。こういうタイミングの時は相手はわかっているのだ。

「すみません……」
「いいよ、先に出ちゃいな」

先輩に軽く断りを入れて携帯の画面を見る、そして深いため息を吐いた。

「……はい」
『梨沙の彼氏だよ』
「寝言は寝ていってください五条先輩」
『悟って言ってよ』
「五条先輩なんの用事ですか」
『今日の夜暇?暇だよね!家に行くから』
「ちょ、拒否権は」
『じゃ!』

ぶつん、と切れる電話に殺意。そして再び深いため息を吐いて先輩へと向き合った。

「すみません先輩、急用が入りました……」
「あはは、いいよまた今度ね!」

仕事が終わった時間になると気が重くなる。これから飲みに行く先輩たちを見送ってから車に乗り込む。そしてお昼にも聞いた着信音。

「五条先輩!!!!」
『わー怒ってる?』
「なんで毎回毎回飲みに誘われてる時にこういう要件入れてくるんですか!!!」
『えー?偶然じゃない?いいじゃん僕と飲みに行けば』
「五条先輩飲めないじゃないですか」
『バレた?』

携帯をスピーカーにしながら車のエンジンをかける。会社から家までは30分も掛からない。

「五条先輩もう家にいるんですか」
『うん、入ってるよ』
「なんでナチュラルに入っているんだ……」
『でもコーラとか無いじゃん、買いに行こうよ』
「足は?」
『梨沙が帰ってきたらね』
「はい私が運転ですねー!全く……」

家の姿が見えた時には黒いサングラスをかけた五条先輩がひらひらとこちらに手を振っていた。

「お疲れ様」
「本当ですよ、別の意味で疲れてますが」
「よくわかんないなー!ほらドンキいこ」
「やっぱりドンキなのか」

さも当然かのように助手席に座り込む。施錠は?と聞けばしてるよ、と鍵をひらひらさせていた。ナチュラルに合鍵を作るな。

「梨沙見てー」

ドンキについてカートを転がしながら飲み物、食べ物を入れていたら五条先輩に呼び寄せられる。なんだ?と近づけば隔離された暖簾の中へ。それがどういうコーナーなのか理解していない年齢ではない。

「そういう小学生みたいなことやめてください」
「これ硝子に似てる」
「ちょっと!……胸の大きさは足りないけど」
「よく見てんじゃん!」

そういうビデオのパッケージをこちらに見せてくる五条先輩に眉を寄せながらじ、と見る。多分泣き黒子とか目の具合が似ているんだろう。

「そういえばさぁ」
「ここから抜けていいですか?」
「僕Lサイズじゃ入らないことあるんだよね」
「ウッワそれ後輩に言う話じゃないですよね」
「え?僕梨沙の彼氏だけど」
「寝言は寝ていってください」
「買っていって良い?梨沙の家に置くから」
「その日のうちに捨てますけど」

サングラス越しににんまり、とした笑みを浮かべた五条先輩と目が合う。ふい、とそらせば笑い声が聞こえる。人の心を弄びやがって。


***


あのまま五条先輩は泊まり、私は仕事へ行く。ベッドとソファーで別々に寝ていたはずなのに朝起きるとベッドで一緒に寝ている。もう諦めている。それでもまだ、一線は超えていない、あくまで先輩と後輩なのだ。月に一回程度こうして五条先輩がふらりとやってくる。

私は呪術師ではない、というのに。