※色々と気にしない

「三八式歩兵銃やっぱいいよなー……」

パチ、と焚き木が爆ぜる中銃の手入れをする尾形。
の手元にある銃をじ、と見る。

「やらねえぞ」
「ちょっとだけ!先っちょだけ触らせて!」
「気持ち悪いな」

持ってるのは拳銃だからな……とぼそり。歩兵銃は剣も付けられてほしい〜とあばれそうだ。

「手にする機会はあっただろうが」
「でも持ち歩く機会は全然無いんだよね、仕方ないけど」
「少尉様は違うな」
「元、な」

尾形はここぞとばかりに嫌味を言う時は 少尉様 と言うのだ。
辞めたと言っているにも関わらず、だ。

「使ったことはあるのか」
「無い」
「…………正気か?」
「三十は使ったことある」
「来い」

はぁ、と大きなため息を吐いて髪を撫で付ける尾形に少し粗暴に手招きされる。
尾形の横に移動をすれば歩兵銃を手渡しされる。

「構えてみろ」
「ん」
「低い、もう少し上げろ。そうだ」
「三十とは違うね」
「そりゃそうだろ、お前の場合は構えるなら剣を台にしろ」
「ふむ」
「今は撃てんがな、ここを、こうすれば良い」

私の手に添えられる尾形の手、槓桿止めを流れで操作する。

「敵がこれを持っていた場合、こいつを抜き取れば良い」
「……そんな器用なこと」
「俺はあいつと対峙した時にしたが」

ふん、と自慢げに髪を撫で付けながら寝ている杉元を顎で示す。
ああ、そういえば尾形の顎を割ったのも杉元だったな、と頭の端で考えた。

「まぁお前は刀の方がいいだろうけどな」
「でもやっぱり距離負けるじゃん、でも遠距離は無理だ。尾形に任せる」
「……ふん」

まだ借り受けてる歩兵銃を舐めるように見る、欲しいな、宝の持ち腐れになるだろうけれど。

「……そんなに欲しいなら陸軍の1人くらい殺せばいいだろ」
「ああ、強奪を進めてくる男嫌だな」
「俺は銃を舐めるように見ている女は嫌だ」


***


「おい、来い」
「何」
「狩りに行く」

白石と目が合う、尾形が狩りに誘うなんて珍しい。

「でも網代ちゃん拳銃くらいしか持ってないよね」
「こいつを叩き込む」

カチャ、と掲げるそれは三八式歩兵銃。

「……最悪な教官ついたね」
「無事を祈ってて」

どこが尾形の教えてやろうというやる気に火をつけたのか。
あまり口を出すと機嫌が悪くなりそうなので素直に従っておいた。

「尾形、鹿だ」
「声を出すな、気づかれる」

顔を抑えられてこいつ……と眉間に皺が寄る。
慣れた手つきで銃を構える尾形の横に添えるようにしゃがみ込む。

「お前が持て」
「えっ」
「頭を狙えば一発だが、足を狙えば動きが鈍くなる」
「……ん」

ぽい、と銃を渡されて驚いていれば私の背後に尾形が座る。ボソリと耳元で「……小せえ」と言われて軽く肘鉄をした。

カション

「外すなよ」
「負荷だな」
「当たり前だろ、俺が教えてんだ」

発砲、臀部から腿に向けてあたり鹿が逃げる。すかさず尾形がこの体勢のまま追撃の発砲。

「ふん」
「よく撃てたね」
「腕がいいからな、取りに行くぞ」

尾形の弾は脳を命中。うん、やはり私には狙撃は向いていない。

「やっぱり前衛で感張るよ、杉元までは行けないがね」
「……筋は悪くねえ」

髪の毛を撫で付けながらふい、と顔をそらす尾形を見て笑いが盛れる。照れ隠しだな。


***


「アシリパちゃんー、鹿狩った」
「何?!よくやったな梨沙」
「いやいや、ほぼ尾形」
「尾形もだ。よくやった」
「……ふん」