「そういえば梨沙さんって、親御さん将校なの?」

夕食、皆で鍋を囲みながら食べていると杉元がボソ、と口を開いた。

「そうだったよ」
「だった……?」
「今もう居ないからね、私だけ。でも私も軍辞めたし」

ヒンナヒンナ、と呟きながら汁物を食べる。
気まずそうな顔をしている言い出しっぺの杉元を見て思わず笑いが漏れる。

「杉元だって、それこそアシリパちゃんだって一緒でしょ」
「んーまあ、そうか」


***


「おい」
「……何、朝……?」
「いや、夜明けまではまだ時間ある」
「なんで起こしたの……」

体を揺さぶられて目を覚ます、目が開ききらないまま前を見ると尾形が起こしてきたようだ。

「ちょっと来い」
「だる……」
「おい」
「分かりましたよ……」

いびきをかいて寝ている白石を跨ぎ起こさぬように先を歩く尾形を見る。少し離れていくが遠くに見える程度のところで急に尾形が止まる。

「排泄なら1人でしてよ……」
「殺すぞ」
「ごめんなさーい」
「……お前、父親は網代大佐だろ」
「あれ、知ってた?」
「戰で死んだと聞いたが」
「殺した」

尾形の光が入っていない目が開かれる。それを見てはぁ、と息を吐けば白い息。

「同じ戦場に出た、流れ弾に見せかければ殺すのも容易いでしょ」
「……本当の事か?」
「まぁ、信じなくても良いよ。おかげで私は家の呪縛から逃れることが出来たし」

首をコキリ、と鳴らす。目を閉じれば父親の胸元を貫く銃弾、気づいていない振りをして正面を向けば横から「網代大佐が!」との声が聞こえた。
必死に駆け寄った、ふりをした。吐血をして息も出来ない父親の最後を思い出す。

「ハハ、ハハハ!!」
「うわっ、何。夜だよ、静かにしてよ」
「網代、お前は俺だ」

肩をガシ、と掴まれて混乱する。今までこんなに高揚している尾形を見たことがあったか。

「……俺も父親を殺した」
「……切腹、じゃなかった?」
「そりゃあな。殺されたとなったら一大事だろうがよ」
「まぁそうだ」

一度見かけたことがある花沢中将、そういえば顔似てるな。と改めてまじまじと見ると少し不機嫌になる尾形がいた。

「罪悪感は、感じたか?」
「……どうだろうね」

ふい、と顔を逸らせば薄く笑みを浮かべている尾形が目に入った。気味が悪い。

「祝福された家庭でもそうなるのか」
「……いいか尾形、私は喜ばれている子ではなかった」
「あ?」
「私は兄の代わりに軍に入った、兄の名を騙ってまでな。亡き兄の影を背負う私は祝福されていたか?私の意思は無いのにな」

尾形は黙って聞いている、尾形は妾の子、と聞いたことがある。その家庭にも知り得ない苦悩がある。

「すまん、八つ当たりした。また寝るよ」
「……朝飯には起きろよ」

数歩後ろから尾形が着いてくる、なんだかこう言うところが動物のような感じがして、完全に嫌いにはなれない。

「……網代ちゃん、尾形ちゃんに変なことされなかった?」

寝ぼけながら白石が聞いてくる、そのまままだ寝ろと言う意思を込めて白石の側に横になりながら軽く叩く。

「卑猥な言葉投げかけられちゃった、怖かった」
「おい」
「そっかぁ」
「まだ寝ようね白石」
「うん……」