「お兄さん、そこまでにしておきなよ」
「あ?」

男を絞め殺さん勢いで力を入れている男に煙草をふかしながら声を掛けると睨まれる、も瞬時にその表情が変わる。

「網代、さん……?」
「ごめんな、この人ちょっと気が短くてな」

目をぱち、と瞬きさせる杉元を横目に間に入る。騒いで悪かったな、と言う意味を込めて男にどっか行っとけ、と手を降った。

「こんなところで何してる杉元」
「いや、それ俺の言葉だって。網代さん軍は」
「抜けた、脱走兵扱いかもなワハハ!そっちのアイヌの子も連れか?」
「ああ、俺の協力者だ」
「私は網代梨沙、元陸軍第一師団だったんだ。それで杉元とは顔見知り」
「アシリパだ、私は戦争のことはわからない」

アシリパ、と名乗るアイヌの子と握手をする。小さい、ながらも弓だこが出来ている。

「ごめんな、煙たいだろう」
「大丈夫だ、気にするな」

咥えていた煙草を指で離せばふるふる、と首を振られる。そのお言葉に甘えて吸わせてもらおう。

「杉元、お前第七師団にも狙われるぞ気をつけろ」
「え?」
「お前たちが探してるもの、だよ。興味はないが知ってはいる。アシリパ、いいのか?わかっているのか?」
「わかっている、覚悟の上だ」
「……そうか、私はしばらく小樽に居る。力添えが必要なら力になろう、なにせ放浪の身だからな」

杉元の背中をばしん、と叩く。
アイヌの金塊、刺青。在軍時代に小耳に挟んだものが、こうして探している人を目の当たりにすると本当なのだな、と感じざる得ない。
私は女の子と友人には協力を惜しまない。なんてな。


***


「頼む、協力してくれないか」

夜、皆が寝静まった時間に客人。外で物音がしたあたりで目が覚め、小刀を手に取っているとアシリパさんがゆっくりと顔を覗かせた。

「捕まったか?」
「あの第七師団に捕まってるぜ、あいつは」
「誰?」
「脱糞王だ」
「脱獄王の白石由竹様だっての!ていうか誰なわけ?アシリパちゃん」
「杉元の上官だ」
「元ね、脱走兵みたいなものだから」
「え!じゃああんたが潜入したら早くねえか?」
「馬鹿、捕まるに決まっとるだろが」

アシリパちゃんの側に居た坊主を手刀で叩く。痛った!と叫んでいたけど夜だぞ、うるさい。

「俺なら侵入できるけどよ」
「なら白石に潜入任せよう、多分大丈夫だろ」
「お前はどうするんだ」
「白石が杉元の拘束を解ければ騒ぎ始めるだろ、その際に侵入する」
「ピュウ☆やってやろうぜ、俺たちで」

なんだかその顔がムカつき、じと目で見ておいた。

「アシリパちゃんは出てきた杉元と合流してね」
「分かった」


***


「白石良くやった」
「もっと褒めてもいいよね?!」
「撫でてやろうか」
「えっ、良いの?」
「冗談だ」
「クーン」

轟々と燃え盛る兵舎を背に小走りで逃げる白石と私。杉元の荷物と盗んだ銃を抱えながら走るのは軍時代を思い出してくるものがある。

「しかし杉元は無事なのか?あれ」
「あれ?杉元の腸じゃねえよ、奴さんのだぜ」
「あ、そうなんだ。じゃあ大丈夫か」

賑やかな小樽から郊外に移動する、白石ははぁ〜!と大きなため息をして木陰に座り込んだ。体力がねえ。

「ちょっと休憩!」
「だらしないな」
「軍人と違って体力ないの!……てか、あんたはなんでこれに協力するわけ?」
「……可愛い女の子に弱いから?」
「そんな理由?!」
「それもあるけど、うーん、次の暇つぶしにはいいかなって所で」
「あっそ……軍人さんの考えることはよくわかんねえや」

よし!と立ち上がり歩き出した白石の背を見つめる。
銃を背負い直して雪を踏んだ。