創作者の小部屋


おてんば姫の恋心


雲の白と空の青に染まった袴が似合う私より高い背。きれいな黒髪に吸い込まれそうな瞳。すっと通った鼻は南蛮人のように整っている。一言でいえば男前。

「ねぇねぇ狂四郎!!」

 彼は私の許嫁…私の大好きな人。


おてんば姫の恋心


「狂四郎!いつになったら私と逢引きしてくれるんだ!」
「しつこいなぁ!」

 出会った頃よりさらに高く、大きくなった背中を追いかける。狂四郎が歩いた後はほんのりと太陽の香りがした。きっとさっきまでよく日が当たる離れで昼寝をしていたんだろう。もうちょっと早く来ていればこっそり侵入して隣で寝るくらいのことはできたのかな?まぁでも結婚したら一緒に寝るのも当たり前になるか!想像しただけでにんまりとしてしまう。

「ちゃっかり手を繋ぐな!」
「だってこうでもしないと狂四郎私と逢引きしてくれないでしょ!」
「わざわざする必要だってないだろうが!」
「酷い!そうやって私のことを振るつもりなのか!あの日の口づけは!?」
「だから勝手に話を作るな!!」

 許嫁で何をしなくとも結婚ができることは私だって分かっている。でも、私だってそういう恋愛らしいことはしてみたい。それは優しい狂四郎なら分かってくれていると思う。けど彼はとても恥ずかしがりやさんだからいつも断っちゃう。そういうところも可愛いんだけど、流石に私だってそろそろ我慢の限界なんだよなぁ・・・

「そろそろ素直になってくれてもいいんだぞ?」
「これが素直な反応だ」
「またまたぁ!」
「俺はこれから稽古があるんだって!」

 べったりとくっつこうとしたらいつの間にか木刀を持っていた手でぐっと押しのけられてしまった。

「じゃあ稽古について行くのはいいか?」
「はぁ!?」

 私の言葉に狂四郎が目を丸くする。

「女のお前が稽古に出てどうするんだ!」
「いいだろう別に!」
「お前は旦那さんに守ってもらう側だろう!?」
「じゃあ誰が狂四郎を守るんだ!」
「それは自分で・・・って勝手に結婚する前提で話するな!」

 大きな声でノリツッコミをした狂四郎が振り返ろうとしたその時。

「危ない!」

 庭先から何者かが砂利を踏み込む音が聞こえたと同時に狂四郎に肩を思いっきり抱かれて引き寄せられた。

「流石に一筋縄ではいかないか」

 突然のデレに心臓が止まりそうになる。え、そんな強引な一面があったなんてさらに惚れちゃう!

「お前が狂四郎だな?」
「・・・何者だ」
「ちょっとぉいきなり大胆すぎるよ!」
「生憎標的に名乗る名などない」
「抱きしめたいなら素直に言えばいいんだぞっ!」
「お前に恨みなどはないが「でもそんなところも好」
「うるせぇなお前!!」

 突然の汚い怒号に耳を貫かれてしまった。やかましい声の方を睨みつけようと目を向けるとそこには黒装束に身を包んだ忍者が立っていた。なんだこいつ。

「昼間にその恰好は意味ないんじゃないの?」
「うるせぇ!」
「どうして最初に俺じゃなく菊姫を狙った?彼女は関係ないはずだ」
「彼女だなんてぇ〜」
「だからいちいち口を挟むな!!」
「菊姫・・・ちょっと黙っててくれ」

 狂四郎から初めて発せられる彼女という言葉に心をときめかせているとまた忍者に邪魔される。あぁ!もう!邪魔だったらありゃしないんだから!

「ほら!お前のせいで狂四郎に怒られちゃったじゃないか!」
「知らねぇよ!」
「だから・・・」
「あぁもう!埒が明かねぇ!お前からやってやる!」

 いきり立ったらしい忍者が腰刀を抜いて構えた。私的にはようやくと言った感じ。せっかくの狂四郎との時間をこんな奴に邪魔されっぱなしじゃたまらない。私が直々に成敗しないともう気が済まない!

「狂四郎、ちょっと下がってて」
「え・・・でも」
「いいからいいから!」

 私を気遣ってくれる狂四郎が可愛すぎて片時も離れたくない気持ちを何とか抑えて彼を安全な場所に押しやって庭先に降りる。砂利が少し痛いが狂四郎との楽しいひと時のためにこれくらいは我慢しないと!

「余裕綽々なのも腹が立つ」

 改めて忍者を眺める。背丈は狂四郎よりも小さめで全身真っ黒。熱中症になりそうなダサダサファッションだけど、狂四郎が着たら格好いいだろうなぁ!

「えへへへ・・・」
「菊姫?」
「ニヤニヤしやがって・・・女だからって容赦しねぇぞ!」
「はいはい」
「この野郎!」

 ついにぶちぎれた怒りに任せて忍者が突進してきた。

「おっと」

 とりあえず武器もないので横にひらりとかわす。私の蝶のように美しい身のこなしに忍者も狂四郎も驚いているみたいだ。

「このっ!」
「私に当てる気あるの?」
「お前・・・!」

 その次もその次も、馬鹿の一つ覚えのようにぶんぶんと刀を振ってくるので横に縦にとひらひら避ける。

「ちょこまかちょこまかと逃げやがって!」

 だんだんと太刀筋が鈍くなっていく。ずっと振り続けて疲れてきたんだろうなぁ。このまま疲れ果てるのを待っててもいいんだけど・・・

「菊姫!」

 突然聞こえたのは愛しい狂四郎の声。急いで振り返ると、狂四郎が懐刀を私の方に投げ渡そうとしていた。

「狂四郎!」

 回避の隙間を縫って狂四郎を呼ぶと短剣が飛ぶ。それを片手でキャッチするとちょうどよく忍者が走ってきた。

「そんなものを持ってたところで!」
「はぁ!」

 刀を持つ手に重心をかけるとザシュっと肉が僅かに切れる感触。

「ぐぁっ!」

 情けない声を上げて忍者は足元に崩れ落ちる。

「菊姫!」
「安心して、みねうちだから」
「ク・・・クソ」
「狂四郎殿稽古に来ないとは・・・うわぁ!」


・・・・・・・・・・


 そこからは早かった。

 狂四郎が来ないことにしびれを切らしたじいやが訪れて私が倒した忍者を発見。すぐに手当てをして今は尋問をしているらしい。

「それにしても・・・お前強いんだな」
「どう?惚れ直した?」
「そもそも惚れてない」

 流石に今日の稽古は中止となったらしく、今私は狂四郎と逢引き中なのだ!!

「えー酷いなぁ!」

 狂四郎は相変わらずつんつんしているけど、城下町を一緒に歩いてくれるだけでも珍しいから全く文句はないんだけどね!

「強い私も素敵でしょ?」
「だからなぁ・・・」

 そこまで言ってお団子をほおばっていると少ししてから狂四郎の方から視線を感じた。そちらを振り向くと狂四郎はお団子を食べる手を止めていた。なんだか少しだけ頬が赤く染まっている気もするけど・・・

「でも・・・ありがとな」

 そう言ってお茶をすする。その姿を見て胸の奥がキューンと締め付けられるのを感じた。それは初めて狂四郎と出会った時と同じ感覚で、やっぱり私と狂四郎は運命の相手なんだ!

「・・・きょうしろぉぉぉぉぉ!!!私も好きだぞ!!」
「そっそこまでは言ってない!」

 この出来事がきっかけで、私と狂四郎は許嫁兼戦いの相棒になったんだけど、それはまた別のお話・・・♡



(暗転)


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