とある学生の話
とある放課後。学生の憩いの場であるサロンで一人の学生がいかにも古そうな書籍を片手にパソコンを開いていた。乱雑に置かれた資料の中に書籍を借りるときに使った「橋純菜」と書かれた学生証が紛れている。
「お疲れー」
「あ、おっつー」
うんうん唸っている橋の元に現れたのは同じくこの専門学校に通う学生の山口美咲。どうやらつい先ほどまで授業だったようで疲れた様子を見せていた。
「うっわ随分古そうな本」
「あー」
「どうしたのそんな」
「あぁこれね…」
橋は手に持っている本を山口に見せつける。
「しぇ…いく…あ、シェイクスピア?」
「そうそう」
「え、でもこんな作品聞いたことないなぁ…」
彼女の見ている書籍には和訳で「ウィリアムシェイクスピアの真実」と書かれている。
「うちも初めて見つけたんだけどね、図書室にあったの」
「あ、そっか次の作品に沿った小説書くんだっけ」
「そう!だからシェイクスピアについて調べてなんかいいアイデア浮かばないかなぁって思ってさ!」
橋は意気揚々と鞄に仕舞っていた台本を机の上に出す。そこにはシンプルなフォントで「チャバス2020」と書かれていた。
「はぁぁ流石しっかりしてますわぁ」
「でね、面白いことが分かったんだけど…」
そう言って橋は書籍のページをぺらぺらとめくる。お目当てのページを見つけるとぐっと開きやすいように跡をつけてから山口に見せつけた。
「…シェイクスピアは…裏稼業も行っていた?」
「そう、で読み進めていってほしいんだけど」
「シェイクスピアが裏の家業を行うにあたり…執事であるアメリヤと情報屋のスミナンティーヌという二人の協力を…ってまじか」
「そう!この名前めっちゃ先生とうちに似てると思って!」
「うわぁ凄いねこれ」
橋は自分の名前とよく似た…というかもじったような名前に驚きと興奮を覚え目を輝かせている。それを見て山口がやれやれと苦笑いを浮かべた時だった。
「…ん?」
突如山口を記憶がフラッシュバックする感覚が襲った。
月の光 白い手紙 新緑色をしたハーブティー
僅かな殺意の香り 嗅いだことないはずの硝煙香り 嗅ぎなれた鉄の香り
そして血に染まった台本を投げ捨てる…
「美咲?大丈夫?」
脳裏に走っていた記憶の断片がバッと消え去る。そこにはただ同期を心配する橋の姿しかなかった。
「あ…大丈夫大丈夫!」
そう返すと目の前の彼女はよかったぁと安堵の顔を浮かべる。今のは何だったのだろうと思いながら山口は何気なく台本のページを一枚めくった。そこにはずらりと今回の舞台の配役が書かれている。
「そういえば今回めちゃくちゃ配役はまってない?特にこことかさぁ!」
同期の無事を確認した橋はわくわくと今回の舞台の配役について話し始める。
「…そうだね……なんかすっごい想像つくわ」
山口はそういうと台本をそっと閉じたのだった。
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