場地姉は多分やっぱりポンコツである

弟である場地圭介を無事救うことが出来た姉。

次の目標は稀咲を救うことだが、この後の原作の流れを全く覚えていなかった。覚えているのは稀咲が死んで半間が「派手に逝ったなぁ」と泣きながらつぶやく場面だけである。そこに至る経緯などまったく覚えていなかった。あの頃姉ははわわ〜作者バチくそ鬼畜だけど最高〜はわわ〜としか思えないほど知能指数が下がっていたのだ。

さてどうしようかと誰もいない夜の武蔵神社でそれらしい雰囲気を醸しつつ座っていた姉に話しかけて来たのは金髪の男の子だった。流石の姉も彼が主人公である事は覚えていた。原作は変えたが回復とリハビリでしばらく動けない弟の代理として壱番隊隊長に任命されていると弟ではなくマイキーから聞いた。
姉は一ヶ月前にペヤングノイローゼになってペヤングのソースを弟の口にぶち込んでから母から病室出禁にされているので弟とはここ最近話していないのだ。ソースの無くなったペヤングはレモンと塩とコショウを入れてサッパリアレンジして食べた。姉は天才なので料理もできた。


「場地さん、黒龍について教えて欲しいことがあります。」
「…タケミっちか。」

姉は思った。例え地味な顔でも不良は特徴的な格好をしてて見分けがつきやすいから助かる、と。タケミっちに失礼である。

「私に教えられることなら。」
「ありがとうございます!近くのファミレスに東卍幹部が集まってます、行きましょう。」

え、話って1対1じゃないんかーいと姉には一切流れていない関西の血が叫んだ。しかし姉は雰囲気を大切にするので神妙な雰囲気を醸し出すタケミっちに合わせいつもキリッとしている眉をさらにキリッとさせた。


タケミっちに連れられ来たファミレスの囲いのある4人席を2つ陣取っている東卍幹部。姉は溢れてしまったので4人席と4人席の間のソファに座った。パッと見男を大勢侍らす姉御である。

「そもそも黒龍は場地のねーちゃんが潰したはずだろ。」
「いや私はどこも潰してないな。そもそも黒龍ってどこだ。」
「軍服っぽい白いコート着たヤツら。」
「白いコートはいっぱいいたからな。」
「その時の総長も柴大寿でしたよ。」
「ああ…ワンコ。」
「わん…????」
「自分でワンコを名乗るやつは珍いからな。」
「…その柴は犬種じゃなくて名字だぞ。」

あまりの悲惨な会話に本当に頭のいい稀咲が割って入った。稀咲と半間の前では特に知能指数が下がる姉の言語を理解できるほど頭が良かったのだ。
姉の隣に座っていたスマイリーは腹を抱えて爆笑した。ムーチョとドラケンは引いた。他は言われた意味が一瞬分からなかった。タケミっちはツッコミに徹することにした。
姉は自分が大事だと思ったこと以外の事柄に全くの無頓着だった。天才であるがゆえの脳への休息のための時間である。

「確かあれは中華ゴリラを連れて歩いていたら道を塞いでうんこ座りしてる連中が居たから人様の家の前で野〇ソはやめた方がいいと注意したら喧嘩を売ってきたから買った覚えがある。」
「それだと喧嘩売ってるのお姉さんの方です。」
「中華ゴリラ…??」
「そうしたらワンコが「ドーはド突くのドオオオ」って言いながら殴りかかってきたからドはドーナツのドだよって教えてあげながら殴り返した。1発殴ったらいい子にお座りしてたからそれから何もせずに帰った。別段、強くもなかったからチームにも入れてない。」

タケミっちは早々にツッコミを放棄して頭を抱えた。IQが20違えば人間は会話が理解出来なくなるという。周りの空気はお通夜になった。
姉にとって柴大寿のパンチと小学生のパンチはほぼ同じである。例えるなら指先に蝶がとまったかカナブンがとまったかくらいの差異である。

「まだ黒龍の事が気になるなら中華ゴリラに電話しようか。」
「いや誰だよ中華ゴリラ。」
「確かいつもおもっちーずって呼ばれてたな。」
「ゼッテー嘘だろそんな可愛いあだ名の中華ゴリラが居るかよ。」

頼りにならないタケミっちの代わりにドラケンが切り込んでいく。さすが頼りになる東卍の兄貴肌である。
姉は視界に入る稀咲と半間に忙しくて99パーセントの脳ミソをそちらに使っていた。残念なことに残りの1パーセントはポンコツな前世の姉の部分であった。

「本名は聞いたことないな。ちょっとまて。」

ポケットからおもむろに携帯を取り出し中華ゴリラと表示される通話ボタンを躊躇なく押した。ついでにスピーカーも押した。
3コールで出た中華ゴリラは男らしい声をしているが東卍は誰かまでは特定できない。

「どうしたボス。」
「お前いつも周りになんて呼ばれてる。」
「モッチー。」
「そうか、助かった。」

聞きたいことだけ聞いて容赦なく電話を切った姉に東卍は戦慄した。稀咲でさえ半間にはもっと優しくするし何かある時はちゃんとそこそこ丁寧に説明することもある。マイキーだって理不尽な電話はするがもっと意味のある電話をする。それと比べてのコレ。電話相手が可哀想すぎた。せめてメールにしてやれと思った。

「ほぼおもっちーず。」
「全然ちげーワ。」
「本名と黒龍のこと聞き忘れたな。」
「オイもう掛けるなよ相手カワイソーだろやめろよ場地姉。あとソイツ知ってるから、望月莞爾な。」

姉はグッドルッキングガイがたまに口にする「おい、モッチー」を雰囲気で覚えていた。そして運悪くモッチーのあだ名を聞いた時おもっちーずがちょうど食べたかったのだ。

「元ジュゲム総長か。」
「黒龍とやり合うなら貸せるぞ。」
「人を貸し借りすんな。」

タケミッチは協力してくれなさそうな東卍幹部勢をみてちょっと貸してほしいと思った。

「まあ、私個人としての意見にはなるが…黒龍を潰す潰さないの前にその弟ワンコが変わらなきゃ何も変わらないぞ。家族になにか確執があるのであれば、それはあくまで家族の問題。他人が踏み込んでも余計に拗れるだけのこともある。家族、家庭というのは人の心の繊細な部分、そこに踏み込むなら相応の覚悟はしておけ。」

姉はそういうところはちゃんとしていた。
ぶっ飛んだ発言しかしなかった姉から突然正論をぶちかまされたタケミっちはいい子なので確かにその通りだと拳を握って俯いた。

「場地姉の言う通りだな。それにオマエらは三ツ谷の約束した和平もぶっ壊すつもりか?三ツ谷の顔に泥を塗る行為だぞ?…話は終わりだ。」

ドラケンの言葉に千冬とタケミッチ以外がゾロゾロと解散していく。

「…私は、ワンコに興味はない。」
「ねえさん?」
「でも弟が大事に思っている2人のことを私も大事に思っている。いつでも連絡しろ。私は東卍の味方にはなれないが君たちの味方にはなれる。」

姉は2人に連絡先が書かれたメモ紙を渡した。
稀咲と半間がいなければ姉はちゃんと天才だった。千冬とタケミっちはカッケーと目を輝かせた。

「たまにグッドルッキングガイが電話とるから気を付けろ。」
「やっぱりあの灰谷兄弟をグッドルッキングガイ呼び…。」
「ていうかグッドルッキングガイって…。」
「withBだったけど弟を助けるのを手伝ったからグッドルッキングガイに昇格した。」
「それ昇格してんスか?」
「……え?」
「じゃあ私も帰る。」

姉はカッコよくブーツのヒールを鳴らしながらファミレスを出たのでタケミっちが姉を驚愕の表情で見ていたのに気付かなかった。





「なあ千冬、ブルゾンち〇みって言ったら?」
「は?誰ソレ。」

姉、痛恨のミスである。例の芸人はこの時代まだテレビに出ててきていなかった。
尊さとヤバい薬は後を引くのである。



そしてクリスマス当日、姉の携帯に連絡を入れたのはマイキーだった。

「タケミっちの居場所?ちょっと待て。…なぁ。」
「ん?」
「今日東卍の壱番隊隊長見たやついないか連絡回してくれ。」
「はーい。」

理由も聞かず言われたことを実行するグッドルッキングガイはやはり仕事ができる。姉は寒い中聖夜に無理やり連れ出されたことを許した。

「おっハッケーン♡」
「はいボス。」
「助かった。居場所われたぞ、渋谷にある教会だ。詳しい場所はメールで送る。…ああ、じゃあな。」
「…またトーマン。」

弟の方が拗ねた。

「ハロウィンからずっとトーマンじゃん。」

兄の方も拗ねた。

「トーマンじゃなくて弟の友達。」
「つまりトーマンじゃん。」
「…私はチームがどうとか、よく知らないけど…ちゃんとお前たちのことも大好きだよ。」

姉には弟がいるため年下の男の子に弱かった。前世の年齢からすれば姉がボコボコにした不良たちはみんな年の離れた弟のような年齢なのだ。
2人の頭をめちゃくちゃヨシヨシした。





大晦日、姉は千冬に連れられ初詣に来ていた。
同じ団地の2階と5階に住んでいるため呼び出そうとすれば1分もかからないのだ。

「ねえさん着物着ないんすか。」
「チーム作ろうとした時にトレードマークになると思って羽織ってた赤い柄物の羽織ならある。」
「それはやめましょう。」
「わかった。」

千冬が真剣に止めるので姉も真剣な表情で頷いた。
途中で約束していたらしいもう1人のトーマンの子とも合流し神社に着くと、やはり人がごった返していた。赤い羽織を着ておけば目立ってはぐれないのにと思った。姉は周りの目より効率を大事にしていた。
人混みに紛れぎゅうぎゅうになりながら参拝者の列に並んでいると、聞き覚えのある声が聞こえて千冬が振り返った。

「タケミっち?」

千冬はなぜか飛んできたタケミっちの絵馬を反射であらぬ方向へ投げた。それを追うタケミっちを追おう、と姉は一緒に来ていた2人に片手ずつ引かれて走り出した。姉は前世、猫の他に犬も飼っていたのでまるで言うこと聞かないワンちゃんだなと思った。
飛んで行った絵馬の先にはドラケンとマイキー、その妹が居て、結果トーマン幹部大集合で新年を迎えた。姉はその写メを撮って弟に送った。とても羨ましがられたので後日お年玉をあげた。その金で病院の売店にあるペヤングを買われた。弟にコブラツイストをかけて母と看護師から怒られた。

それから存分に遊び楽しんだ幹部たち。神社で解散になりドラケンはマイキーの妹を、タケミっちは自分の彼女を、そして何故か姉はマイキーに自宅に送られることになった。千冬は1人寂しく帰った。
少し遠回りをしようと言われ、マイキーと一緒に歩いていくと小さい公園に着いた。キィキィとうるさいブランコと、座ると壊れそうなベンチしかないところだ。
2人して鬱陶しい金属音を鳴らしながら隣合っているブランコにそれぞれ座る。しばらくキィキィ鳴らしながらブランコを動かしていたマイキーがやっと口を開いた。

「ねーちゃんのチームって、どうして大きくなったの?」
「チームは作ってないな。マイキーはトーマンをでかくしたいのか?」
「でかくしたかった。でも、最近よく分からなくなってきた。」

アンニュイな表情を浮かべる不良と深夜の冬空の下でブランコ、姉はとても雰囲気があって最高だと思った。中学3年生にしてこの表情をつくりだすマイキーは姉にとって逸材だった。

「トーマンの幹部はマイキーだから着いてきたんだろう。私の後ろにいるヤツらは私だから着いてきたと言った。…チームをでかくしようなんて考えなくていい。お前がただ自分の信念を曲げなければみんな勝手に着いてくる。」

姉は天才なので新年と信念でダジャレだと思われたらどうしようと、ちょっと恥ずかしくなったので上着のポケットに手を入れながら立ち上がった。

「弟は昔、サイコーにカッコイイ仲間がいるチームをつくったと言った。今でもお前たちは、サイコーにカッコイイ弟の仲間だよ。」

そしてそれっぽく振り向きながらマイキーに笑いかけた。
いつどんな時でも雰囲気というものは大切なのだ。

「いつか君たちの関係は変わらなきゃいけないし、変わってしまう。でもきっと変わらないものだって沢山ある。必ずしもその関係に名前を付ける必要は無いんだよ、マイキー。」
「…そっか。…ウン!ありがとねーちゃん!」

晴れやかな笑顔を見せたマイキーが勢いを付けて立ち上がった。

「帰ろ!」

ぎゃんかわ。ニコニコ笑顔のネコチャンが手を握ってきてはわわ♡した。姉は大事な時こそ前世の自分が顔を出す。
いつなんどきも残念な姉である。





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