弟が無事退院した。しかし姉に脳ミソを吸い取られた弟は2度目の留年の危機に瀕していた。母はまた泣いた。千冬も泣いた。姉は瀕死になるまで爆笑した。
これは東卍にとっても緊急事態だと言うことで壱番隊隊長はタケミっちに正式に引き継がれた。
弟は久しぶりに外に出たにも関わらずすぐに不良に絡まれ喧嘩をするのでその都度姉が弟をボコボコにして喧嘩したペナルティだと言って算数ドリルと国語ドリルを3時間解かせた。ペヤングノイローゼになった嫌がらせでもあった。
しかし弟は東卍をやめた訳では無いのでちょくちょく集会に行こうとすることがある。姉は弟が留年すると今度こそ笑いすぎて救急車を呼ばれる可能性があるので心を鬼にしてそれを止めたが、反抗する弟は殴ったところでとまらない。姉は天才なので集会に行きたいならドリル5ページ終わらせろと弟を椅子に縛り付ける手法をとった。予想通りドリルは全然終わらなかった。
姉は弟には優しいのでドリルを広げたテーブルにペヤングを用意して、弟の代わりに集会に向かった。進級が確定するまで特服に袖を通させないために、マイキーにそれを預けようとしていた。反抗されるのでもちろん無断である。
武蔵神社では既に集会が始まっていたので空気の読める姉は上から見えない階段で座って待つことにした。神社で集会って雰囲気あっていいなぁと思いながら背後から聞こえる声をBGMにしてカッコイイ表情をつくっていた。姉は誰もいない瞬間でも雰囲気づくりに余念がなかった。
そんな姉の耳にあの稀咲の大声が聞こえてきた。これはまさかとてもイイ場面に出くわしたのではとワクワクしながら立ち上がった。姉は好奇心が旺盛だった。
鳥居の外から顔を覗かせると稀咲が膝を着いた瞬間だった。膝から崩れ落ちる姿もしゅてき♡と姉は思った。姉は天才なので話の流れから稀咲が東卍をクビになり半間がそれについて行く瞬間であることを理解した。ちゅき♡2人を見ると天才に的な頭脳は一瞬でなりを潜めてしまう。
そのまま集会は終わり、半間が失意の中という様子の稀咲を連れて姉のそばを通り過ぎたのをはわわわわ〜♡♡と思いながら腕を組んで堂々と見送った。
「場地姉、アンタ何でここにいんの?」
姉に最初に気付いたのはドラケンだった。
「マイキーに渡すものがあって。」
「マイキーなら奥だ。集会も終わったし好きにしろよ。」
「助かる。」
人混みの真ん中を突っ切って進んでいるとどこかで見た事のある白い服を着た2人がいた。姉はどこで見たのか思い出せず立ち止まって交互に顔を見ていると2人の方が先に声を上げた。
「オマエ…他人の家の前で野グ〇するなって言って喧嘩売って来たやつか。」
「イヌピーこいつアンノウンの総長だぞ安易に話しかけるな。」
「でもココ…。」
「黒龍か。」
姉は黒龍を覚えていた。何故なら天才だから。
「白ワンコと黒ワンコ…ワンコ3兄弟。」
ポツリとこぼした言葉に、近くにいたタケミっちと千冬が吹き出した。
姉が前世飼っていた犬の名前がココだったのだ。黒ワンコ、もとい九井一に関してはほぼとばっちりのようなあだ名である。
「元黒龍でも今はトーマン、壱番隊に入ったのなら弟も同然だ。困ったことがあれば連絡してこい。」
姉はボコボコにした不良によく連絡先を聞かれるので連絡先を書いたメモ用紙を常備していた。受け取ってくれた2人はいい子だとヨシヨシした。
イヌピーは弟属性なので姉の姉力に屈服した。ココは年上が好きだが別に響かなかった。顔と性格が好みとかけはなれていたのだ。
「お前たちは留年するなよ。」
その言葉に千冬が泣いた。タケミっちは察した。
「マイキー。」
「ねーちゃん。」
「これ、弟が進級確定するまで預かっててくれ。特服だ。」
「ははっ、場地このままだと留年するもんな。」
姉が持っていた特服を入れた紙袋を受け取ったマイキーは笑った。
「…稀咲を除名にした。」
「そうか。」
前世の姉がさっきの稀咲と半間は最高だったよと心の中で声をかけた。
「多分、これで良かったんだ。」
「お前のチームだ。お前の好きにすればいい。」
「ねーちゃんのチームとのタイマンはしばらくお預けだな。」
「だから私はチームはつくってない。」
「ねーちゃんがチームつくったらぜってー日本一になるのにもったいねー!」
「トーマンが日本一じゃなかったのか?」
「…日本一じゃなくてもイイんだ。ただ皆とバカやって喧嘩して…でかくなる前のトーマンは楽しかった。だから、イイんだ。」
アンニュイな顔で笑うマイキーにやはり姉は逸材だと思って笑い返した。良い雰囲気を醸し出すやつと動物っぽいやつに姉は弱かった。
「そうか。…弟にはドリルが終わったら喧嘩しても遊んでもいいって言ってある。いつでもおいで。」
「ウン、ありがとう。」
姉はかっこよく踵を返し後ろ手で手を振った。
数日後、姉の携帯には昔ボコした不良から沢山メールが届いた。送られてきた時間はバラバラなのに内容は一貫していた。しばらく大きい喧嘩をするから電話に出られないことがあるが終わったらコチラから連絡すると。姉は思った。これは浮気相手と遊ぶ時の彼女への言い訳だ…と。
浮気を疑う彼女のようでワクワクした。姉は数人に「浮気?」と返すと秒で「違う!!!」と強めの否定をもらった。その必死なところも怪しいと完全に浮気を疑う彼女の気分だった。
なんだかんだでいつもメールや電話をするメンツが浮気をしているため暇になった姉。ドリルも終わってないのにまた遊びに行こうとする弟を椅子にしばりつけて姉自身は遊びに出かけることにした。
ペケJと遊びたくて千冬に電話したが今はタケミっちの家にいて不在らしい。暇だった姉はタケミっちの家に初お宅訪問することにした。電話の案内でたどり着いた一軒家。しかし特にすることがある訳でもなかく部屋にあった漫画を読み漁っていた姉は、タケミっちが何かを言いづらそうに口を開閉していることに気がついた。
「どうした。私がいると喋りづらいか?」
「あ、いっいえ!別にそんなことは…!」
「…なにか聞きたいことでもあるのか?」
割と空気が読める姉がそう聞くと千冬とタケミっちは目を合わせ頷きあって口を開いた。
「タケミっち〜!!」
マイキーの声だった。
3人で窓の下を覗き込むとどこか楽しそうに手を振るマイキーがいた。
「マイキー君!?」
「イイもん見せてやるから来いよ!」
誘い方がガキ大将のそれである。
「あれ?千冬とねーちゃんも居たんだ。ま、いっか!3人で降りてこいよー!」
ずいぶんとご機嫌なマイキーを不思議に思いながら進んでいくと、マイキーの自宅へ続く道だと言うことに気づいた。目的地に着く前に千冬にタケミっちを目隠しするように言って更に楽しそうに笑うマイキー。姉はネコチャンご機嫌でかわゆ♡と思った。
連れられてきた先にあったのはバイクだった。
普段バイクを乗り回す男たちのテンションは高いが、姉はバイクよりバイクに乗って風を受けるという行為が好きなのでバイク単体でどれがカッコイイのかよく分からなかった。
ちなみに姉の愛機はハーレーである。特にこだわりは無いが綺麗でエッチなお姉さんがハーレーを乗り回す作品が好きだったからだ。姉はそこそこミーハーだった。今では千冬に愛機を譲った弟と共有して乗り回している。
余談だが姉弟で2人乗りをするとどちらも髪が鬱陶しいためそれ以降暗黙の了解で二人でバイクに乗る時は髪を結ぶようになった。
タケミっちとマイキーがバイクの練習に行ってしまい残された姉と千冬、そしてドラケン。みんなで何となくその場に座って何となく駄弁りだす。
「場地姉ってバイク持ってんの?」
「持ってる。圭介とシェアしてる。」
「そうなんスか!?オレ場地さんにバイク譲ってもらってメチャクチャ喜んでた…返した方がいいのかな…。」
「君が返しても圭介は突っぱねる。それにあの愚弟はバイクがあると留年する危険が高まる。」
「それは………そうッスね。」
「大人しく貰っとけ、千冬。オマエならアイツがバイク譲った意味分かんだろ。」
それなりにいい話をしているが姉はこのメンツ珍しくね?と思っていた。
「今度タケミっち連れてツーリング行きましょうよねえさん。」
「そうだな。チーム作れるくらい強いやつ探しに行くか…。」
「ねえさんの求めるレベルのバケモンそうそういねーっす。」
「羽織着て探しに行くか。」
「ツーリングですねえさん。」
姉は東卍よりデカい組織をつくるという目的をまだ成そうとしていた。
姉は天才なので次のフラグを予測するのである。例え原作を乗り越えても全く別のところで弟が死ぬ可能性は無きにしも非ずの精神で生きていた。よく言えば初志貫徹。
姉の次の狙いは強いやつではなく頭のいいやつだったが姉にとっての頭のいいやつは稀咲鉄太以外にない。それに気付いた姉は「マヂムリ地雷爆発シマーーーース!」と前世の自分が四肢を投げ出した。
という自分の中の葛藤を経て、結果強くて筋がいいやつを自分がさらに鍛えて勉強を教えればいいのでは?と思い至った。姉は割と脳筋だった。
「…うん、いいな。ツーリング。」
新たな人材のための新天地を開拓しようとしていた。
「圭介の進級が決まったら行こうか。」
「二度目の留年は勇者だな。」
「奇跡のバカ。」
「2人して酷いっス。」
夜の武蔵神社。姉はアンノウンの総長として呼び出されていた。
最近は部屋の飾りになっていた赤い柄物の羽織を羽織って姉は東卍の集会の最中マイキーの目の前で腕を組んで眉をキリッとさせていた。今日は風が強くて髪が靡くので格好つけたかったのだ。
「うちのヤツらが望月莞爾と灰谷兄弟、そして斑目獅音に襲われた。そいつらはアンノウンにいたはずなのに「天竺」と名乗ったし、オレはねーちゃんならそんなことさせないと思った。だから、直接話を聞きたい。」
「…中華ゴリラとグッドルッキングガイとカラアゲくんか。」
「おい待て中華ゴリラとグッドルッキングガイは聞いてたけど斑目獅音のどこにカラアゲくん要素があるんだよ。」
「元々名前で呼んでたんだ。これと言って特徴がないから。」
「嘘だろ?特徴だらけじゃねーかアイツ。」
「それにグッドルッキングガイが嫉妬してお前ニワトリみたいな頭してるんだからカラアゲくんでいいだろって言ってな。それからアイツはカラアゲくんだ。」
「調理されてんな。」
姉は稀咲と半間がいなくてもそこそこポンコツだった。
姉は大事な時にポンコツになり、弟は私生活でポンコツだった。血筋なのかもしれない。東卍に双龍というWツッコミがいなければ場はもっと混沌としていたはずだ。
「しかし…そうか。」
姉は手を口元に当てて斜め下を向いた。何も考えてないがとても色々考えているように見えるポーズである。
「協力したいが私も最近そいつらとは連絡すら取ってないんだ。大きい喧嘩をするからしばらく連絡しないと。」
「大きい喧嘩か…。」
「東卍に私の弟がいることをアイツらは知っている。おそらく私に隠れて東卍を潰そうとしたんだろう。」
「場地姉が率いてないならs62世代はどうやってまとまってんだ…。」
「心当たりはある。ただアイツはコミュ障だからな。」
「誰だ…?」
「昔は気象予報士って呼んでた。」
「誰だよ!!!」
「今はこいこいって呼んでる。」
「脈絡なさすぎんだろ。」
双龍が切り込んだ。
「本名は…何だったかな。…イザナギ?」
「ゼッテー違うだろ。」
「じゃあイザナミ。」
「それも違うだろ。」
「電話はかけるなって言われたから本名がわからん。」
「…どんなやつ?」
「花札の耳飾りをつけてるはずだ。性格は少しマイキーに似ている。」
「黒川イザナ……?」
マイキーがぽつりとこぼした名前に姉が反応した。
「それだ。ほぼ合ってた。」
「一文字違えば大間違いだよ。」
「…ねーちゃん。」
少し何かを考え込んでいたマイキーが徐に顔を上げた。これはいい雰囲気のやつだと姉は眉をキリッとさせた。
「オレたちが売られた喧嘩だ。」
「そもそも私はチーム作ってないからな。好きにしろ。…それに今回のことはアイツらの企みに気づけなかった私の責任でもある。場地圭介の姉として、アイツらにボスと呼ばれたアンノウンの総長として、何かあればいつでも手を貸す。」
「ありがとう、ねーちゃん。」
「次はオレらから横浜に攻め込む!!東卍総動員で天竺と抗争だ!!!」
一斉に拳を突き上げて叫ぶ東卍メンバーにうるさいなと思った。姉は耳が良かった。
姉は一仕事終わった風に踵を返して未だ熱の冷めない男たちの間をカッコよく羽織を靡かせながら鳥居を潜った。最近カッコよく踵を返すことにはまっていたのだ。
これからバイクで帰るため自販で買った暖かい飲み物を駐車場で飲んでいた姉の元に、千冬とタケミっちが走ってきた。大事な話があるから3人で話がしたい、と。
了承した姉は愛機に跨り後ろにタケミっちを乗せ千冬は自分のバイクでついてくるよう言ってアクセルを回した。
風を切り夜の街を抜け、バイクを止めた場所は海下公園だった。
海の近くで風が強く、人の通りが少ないこの場所は屋上の次の次くらいにはお気に入りだった。
「それで?」
「あの…場地さん、アナタは…もしかして、未来から来たんですか。」
千冬とタケミっちに背中を向けていた姉は顔だけ振り返った。靡く髪の隙間から真剣な表情をする二人が見えてまた海に視線を戻しながら髪をかき上げた。
この時姉は天才的な頭脳で、肯定して主人公に協力したほうがかっこいいか、否定して稀咲を一人で助けた方がかっこいいか考えていた。
「…血のハロウィンでオレは、多分、場地君を救えなかったはずだった。でも、本来なら死ぬはずだった場地君を救ったのはアナタだった。…アナタもタイムリープしているなら未来の東卍がどうなってるか知ってるはずです。お願いします、協力して下さい。」
いや知らんけど。姉は思った。
だって姉は原作をちゃんと覚えていないからだ。
「……平成の次の年号を知ってるか?」
「え?」
「2019年5月1日、日本は次の年号に変わるんだ。」
姉は今現時点の雰囲気を選んだ。
今かっこよく生きなきゃいつかっこよく生きるんだの精神である。
「え!?じゃあ場地さんはオレより先の未来から…!?」
「違うよ。」
「え…?」
「私はこことは違う世界の未来を生きていた。」
姉が振り向くとタイミングよく風が吹いた。
「かつての私の人生に弟はいない。名前も場地では無かった。未来は知っているけど知らないんだ。」
「じゃあ場地さんのいた未来に東卍はないんですか!?」
「私が本来死ぬはずだった弟を救えたのは、おそらく私自信がイレギュラーな存在だったからだ。」
「…でもねえさんはタケミっちみたいにタイムリープしてないなら、何で本来の未来で場地さんは死ぬはずだったんだ?タケミっちがタイムリープしなくても場地さんの未来は変わらなく無いか?」
千冬はサポートで活躍するタイプか。弟はいい仲間を持ったなと姉は久しぶりに弟を感心した。
「おそらくタケミっちがタイムリープする前、私は前世のことを知らずに生きていた。それがタイムリープをする、というトリガーが要因で前世を思い出した。…君が運命の歯車だったんだろう。君がいたから私も弟を救えた。ありがとう。」
姉の言葉にタケミっちがブサイクな顔で涙ぐむ。
「君は私たちのヒーローだね。」
泣かせようと追い打ちをかけた姉に、タケミっちは負けて号泣した。
「弟の代わりに私の頭脳と力を貸そう。」
そう、姉は本来頭がよかった。
しかしタケミっちに協力するということは必ず稀咲と半間が関わってくるためきっとこの先、姉の天才的な頭脳が日の目を見ることがないということは誰も知らなかった。