02
ナマエは、おれがオヤジの首を狙ってた時期にこの船に突然現れた子どもだった。その時からあいつはオヤジをニューゲートと呼んでいたし、殺気立っているおれにも平気で話しかけてくるような不思議な子供だった。その後一度か二度顔を見せに来たとオヤジは言っていたが、おれ自身はあれから会ったのは初めてで、初対面とほとんど変わらない。船の上、仲間の元から元へと走り回ってはすごい技を見つけたと言い回っているナマエ。どんな仏頂面の奴でも彼女が足元に来ると嬉しそうに笑って、その小さな頭に手を乗せる。彼女も一様に上を見上げて明るい笑顔を見せていた。
「グラララ、また騒がしくなるぞ」
「オヤジとナマエはどんな関係なんだ?仲間とも随分親しいみたいだし」
「そりゃそうだ、随分長い付き合いだからな」
彼女の話を聞いてオヤジの元にやってきたサッチ、ビスタ、イゾウがおれの言葉に笑って返した。
「長いったって‥」
初めてルフィと会った時くらいの背丈の奴が、オヤジと長い付き合いって‥使い方間違ってんだろと呆れて言葉を返すと、どうしてか皆して腹を抱えて笑った。
「何だってんだ!」
「悪いな、久しぶりの反応に笑っちまった」
「はあ‥?」
「おれたちよりずっと長く生きてるってことだよい」
「まあ、理解が追いつかなくても無理はねえ」
「サッチ、お前にはもっと難しい話だったろ」
皆最初は驚くもんだとまた笑って、そのうちお前も慣れてくるさとイゾウは言った。
「ありゃそういう体質だ、受け入れてやれ」
あちこちの部屋を開けて回るやんちゃな姿を見つめたオヤジの表情は、今まで見た中で一番柔らかく見える。
「知りたきゃ本人に聞いてみろ」
「オヤジとの思い出話と一緒に話してくれるぞ」
オヤジの言葉にマルコが素早く反応する。その顔は少し引きつっていて、他の奴らもさっきとは違い乾いた笑いを零している。
「覚悟しろ。ナマエはオヤジとの思い出話がとにかくな」
「ああ、とにかくあれだ」
「面白いけどな、ただな」
「「とにかく長い」」
皆が声を揃えて言うので、それを言った彼らは勿論、おれもオヤジも盛大に笑った。
「そう言ってやるな」
笑いながら紡いだオヤジの声は随分優しくて、おれたちも自然と笑いが止まった。
「あれだけ詳しく聞けるのも、この海じゃお前らだけだ」
優しく笑うオヤジと同じ空気の温かい笑みがおれたちにも浮かぶ。そんなおれたちの元に、可愛い足音と一緒に張本人が笑顔で戻ってきた。面白い話をしていたのかと目を輝かせて聞く彼女にお前の話さと答えると、その頬はフグのように膨らんだ。悪口だともごもご言うその膨れた両頬をサッチが片手で挟んで、ぷくぷくと漏れていく空気を見てまた笑う。
「お前を悪く言う奴がいたら、おれらがとっちめてやる」
こんな風にな、と擽り始めたサッチに、キャッキャとはしゃぐナマエ。いつの間にか攻守交替していて、やめろとバタバタするサッチを見兼ねてマルコが彼女を抱えて親父に引き渡す。オヤジは膝に乗った彼女に、おれにも身の上話をしてやれと声をかけた。
「うん、良いよ。何が聞きたい?」
考えることもなく、あっさりと答えたナマエ。何が、と言われても何も知らない状態で何を聞いていいかもわからないと素直に答えれば、彼女は笑って自己紹介をしますとオヤジの指を握った。
「名前はナマエ、好きな食べ物はおにぎりとスイカ。船の愛称はパスミーよろしくね!」
いきなり始まった自己紹介にどう反応すべきか迷っているおれを見て、マルコが気にすんなと肩に手を置く。
「久しぶりにお前の話聞かせろよい」
「いいけど、マルコが知らないこともう何もないよ」
「伝説は語り継いでいかねえとな」
マルコが、他の奴らにもナマエの身の上話が始まるぞと声をかけ始める。皆それを聞けると知って、一人また一人とオーディエンスが増えていった。オヤジも楽しそうに酒を持ってこいと宴の準備が始まり、酒や料理を用意して彼女の『おはなし会』は賑やかに始まった。