03
「それでね、ニューゲートを弱いとか言うから怒っちゃって」
「それで、全壊さ!」
「おい、先に言うなよラクヨウ」
「良いだろ、おれはこの話好きなんだよ!」
お酒も入って一層賑やかになった船の上。さあ続きだ続きだと立ち上がったラクヨウを、隣にいたジョズが座らせる。それからまた私の身の上話の続きを始めて、漸くこの海でニューゲートと再会しようと言う話の途中、大きな音と共に船が大きく揺れた。
「オヤジ、三時の方向に敵船だ!あのドクロ‥ファングの船だ」
焦りなどはなく、ただ的確に、次の瞬間の攻撃に備えて皆楽しそうに立ち上がっていく。そんな中で、私は真っ先にパスミーが攻撃を受けていないかを確認しに、ニューゲートの膝から飛び降りた。数えるほどしか持ち合わせていない大切な物だから、傷つけられることが嫌だった。‥よかった、当たってない。砲弾が飛んでくる方向に目を凝らすと、小さな船が見える。
「貸して!」
サッチの手元から望遠鏡を奪ってニューゲートの肩に乗り、船の様子を見る。随分遠くにいるようだけれど、それでもここから見えるのだから相当大きい船だろう。それにこの距離でいてもこの砲撃力と命中率。余程良いモノとなかなかの狙撃手と見た。どんなものなのだろうかと好奇心が疼く。船の大きさからしてざっと五百人くらいか。いずれにしても無謀な奴らの敵襲だ。
「私が行く」
「相変わらずの好奇心だな」
ニューゲートの言葉で、無意識のうちに口角が上がっていたことに気付く。勿論好奇心に駆られたのもある。でも、今回はそれだけじゃない。その理由がわかりきっているニューゲートは大きく笑い、マルコは同情の視線を敵船へと向けていた。
「向こうもタイミングが悪いよい」
「ああ、相手に同情するぜ」
「獲物を狩る眼になっちまってる」
「ニューゲートとの時間を邪魔したのはあっちだよ」
標的から眼は逸らさず、マルコの言葉に声を返す。それを聞いて口笛を陽気に吹いたサッチと、今回はやばいなと零すマルコの声に背中を押されるように、ニューゲートの肩から甲板へと降りた。
「宴の続きはお前が戻ってきてからだな」
「ひひ、楽しみ。すぐに戻ってくる」
「お前の“すぐ”はおれたちにゃ遅すぎってもんだ」
「何が起きたかちゃんと教えてあげてるの」
「ほどほどにしておけよ」
「中途半端は失礼だよ」
優しいでしょ?と笑ってみせる。
一層緊張が走った甲板のクルーを背にパスミーに飛び乗ると、不死鳥姿のマルコが私を掴んだ。そのまま背中に乗るように言われて翼を下ろし優しく背中に運んでくれる。
「船まではおれが送ってやるよい」
「やったあ!贅沢便だね」
「久しぶりにお前の戦闘が見れるんだ、安いもんさ」
空を飛べる能力がありゃおれだって喜んで運び屋になるさと笑うラクヨウの言葉に、他の奴らも頷き、そうだそうだと言う。
「ナマエの戦闘は見世物じゃないだろ」
「そう言うお前だって楽しみにしてんだろ、クリエル」
「まあまあ二人とも、落ち着いて」
「そろそろ行ってやれ、つまらない攻撃を受け続けてるビスタやジョズが可哀想だ」
ハルタの言う通り、悠長に話している間にも船は攻撃を受けているし、相手の船も近付いてきていた。船の脇に落ちていた砲弾も徐々に船の上に来るようになってきていたけれど、ジョズやビスタが綺麗に攻撃を受け止めてくれていたおかげで、船は無傷のまま。それでも敵の攻撃から船を守るだけという単調作業は、彼らにはつまらないものだろうから、とハルタは笑った。彼の言葉に頷き、そろそろ行くよと皆に手を振る背中の後ろから、一人で行かせていいのかと心配してくれる声が聞こえた。クリエルが「見てれば分かる」と返答したのを聞いて、私は咄嗟にエースの手を思い切りつかんでマルコの背中に乗せた。
「え?!」
「一緒に行こう、その方が早い」
「早い‥?」
「なんだ、エースのこと気に入ったのかよい?」
「うん。あ、ちょっと止まって!」
「おいおいジョズ達とも話すのか?」
お前の船がなかなか動かないのはこのせいだな、と半分呆れたように言うマルコを無視してジョズとビスタに手を振ると、随分遅いじゃないかとお叱りを受けた。
「皆と話してたらつい!ごめんね!」
「冗談だ。お前の戦闘が見れるならこのくらいなんて事ない」
「エースも連れていくのか?」
その方が色々手間が省けると言うと、ジョズもビスタもそれが一番良い方法だと頷いていた。
「白ヒゲを襲ったつもりがお前に出会うなんて、奴らも気の毒だな」
「私の方が気の毒だよ、久しぶりのくじらちゃん号の上なのに!」
「はは、それでその膨れ面か」
「エース、ナマエの戦う所は滅多に見れないからな。じっくり見て来い」
「皆そうやって言うけどよ、」
全然そんな風には見えない、と言いたそうなエースと目が合って、思い切り笑ってみせる。その様子を下から見ているジョズとビスタは、顔を見合わせて苦笑いを零していた。さっきの話が作り話じゃないことが分かるだろうよと呟くマルコが大きく翼を動かした。
「そいつは楽しみだ」
エースが左手で私の頭を撫で笑うので、これは頑張らなくちゃと一層やる気が出てきた。
「じゃあ早速なんだけど、」
ずっと考えていたちょっとした頼みごとをエースとマルコに話す。マルコはまたかと半笑い、エースは声が出るほど驚いていた。
「ナマエは一度言ったら聞かねえんだ、付き合ってやれよい」
「ああ、分かった」
マルコの頭を撫でると、やめろと頭を振るから少し振り落とされそうになる。
「しっかり掴まっとけよい」
そう言って加速したマルコの背中は、本当にしっかり掴まっていないと今にも飛んで行ってしまいそうだった。けれど、エースが私を押さえてくれているから、私は呑気に髪の毛が乱れたことを気にしていた。