一年後の約束
買ってきた梅の実をザルにあけ、丁寧に洗う。
縁側に座るとひとつひとつ手にとっては、ヘタをくり抜いていく。
表面を傷付けないよう、やさしく、やさしく。
梅仕事はまだ鶯宿薬店にお師匠がいた頃から毎年やっていた大事な仕事である。
隣では万葉が、同じように梅のヘタを取り除いていた。
「万葉さんは梅仕事、やったことあるんですね」
「友人と旅をしていた頃に、宿が見つからず民家に泊めてもらったことがある。一宿一飯の恩義で何か手伝えることはあるかと訊いたところ、この梅仕事を教えてもらったでござるよ」
「なるほど……」
家を出て旅をして、泊めてもらった礼として手伝ったことで身につけたことも多いのだろうと想像する。
そんなことを話しているうちに、大量にあった梅は全て処理が終わった。
「ありがとうございます、やっぱりふたりだと早いですね」
「拙者も久しぶりの梅仕事で楽しかったでござるよ。しかし大量でござるな……全部梅干しでござるか?」
万葉へ渡されるおにぎりに入ってる梅干しはとてもすっぱいが、おいしいし元気が出る。
「いつもより多く買ったんですよ……今年は梅干しの他にもいろいろ作ってみようと思いまして」
「他にも?」
「……梅酒を」
「梅酒……!!」
ちょっと酒に反応した。
「九十九物店で梅酒の作り方を教えてもらったので、私、あんまりお酒飲めないん、ですけど、梅酒なら、と……」
だんだんと言葉が途切れ途切れになってくる。
どうしたのかとコハルの顔を覗き込むと。
「……いつか、万葉さんと飲めたら、と思って……」
コハルの頬は少し赤くなっていた。
万葉が酒の詩を詠んだりするが、コハルは酒を飲んだ経験がとても少ないので、自分の好みの味すらよくわからない。
酒といえば酒精の強いものを消毒に使う印象の方が強いのだ。
だからクセの強くない、飲みやすいものを作ろうと考えた。
「……それは楽しみでござるな!」
万葉は純粋に嬉しかった。
また来て良いのだと、言ってもらえた気がした。
消毒した大きな硝子の瓶に梅と氷砂糖を交互に入れていく。
氷砂糖は本当にこんなに入れて大丈夫かと不安になる量だ。
そして梅酒用の透明な酒を注ぎ入れ、しっかりと蓋をして完成だ。
あとは暗所にしまって、時々瓶を振ってガラガラと混ぜるといいらしい。
「これで、一年後には良い具合になるらしいです」
「一年後……けっこう遠いでござるな」
「半年か一年くらいがまろやかになってちょうどいい? みたいで……今度もう一回詳しく訊いてみますね」
「いやいや、待つ期間が長い方がより楽しみになるでござるよ」
万葉は興味深そうに瓶を見ている。
「おいしくできるといいんですけど……」
梅酒を暗所にしまった後は、いつものように梅干しを作る。
酸っぱいものと、甘いものを、二種類。
一仕事終えたのでお茶を淹れてふたりで飲みながら、梅酒についての約束を交わした。
「一年後、ふたりで開封ですね」
「ではその時は拙者が梅酒に合いそうなつまみを持ってこよう」
「じゃあよろしくお願いしますね」
「透明なグラスがあってもいいかもしれぬな。璃月で探してみよう」
「グラスまで!? でも……それもいいかもしれませんね」
一年後、またここで。
「まあ開封が一年後ってだけでいつでも来てもらって構わないんですけど」
「あぁ良かった、もしかして一年後まで出入り禁止を言い渡されたのかと思ったでござる……」
*20260123