「名前さん!今週の土曜日、うちで練習試合あるんで!来てください!」
“バレーの事は、見てみるのが早いと思うぞ”
先週そう夜久にアドバイスをもらって、まさか数日後に試合を見に行く事になるとは。
練習試合について知ったのは、つい先日。
偶然廊下で遭遇した、何故か私によく懐いている後輩(正確には私の後輩ではない)のリエーフ君が教えてくれた。
もちろん、今まで私も黒尾に練習試合や部活を観に来るよう誘われた事はある。
というか、最初の頃はしつこく私に観に来るように言っていた。
それでも私は今まで、“面倒臭い”“バレーのルールが分からない”等々言って、黒尾の誘いを蹴っていた。女子がキャーキャー黄色い声援をあげる中にいる気になれないこともその要因の一つだったけれど。
そのせいか徐々に黒尾は最初ほどしつこくは誘ってこなくなった。
今思えば何であそこまでバレーを観に行く事を嫌がっていたのか・・・そして何故今になってバレーを観に行く決心をしたのか・・・最近は特に自分の事がよく分からない。
なんて事を考えていたら、体育館に着いた。
恐る恐る2階のフロアに上る。確かにかつて黒尾は「うちの高校のやつも適当に観に来てるぞ」っては言っていたけれど、思ったよりも観客がいて驚いた。そんな観客の後ろ、体育館は授業でしか使わない縁のない場所なので、少し緊張しながら席を探す。今日練習試合を観に行くことは、黒尾には言っていないため、あまり近付いて存在がバレてしまうと面倒なので、前列は避ける。出入口近くの、やや後方。コートが広く見渡せる場所を見つけた。
そのタイミングを見計らったように、音駒高校バレー部が動き出す。
結論から言わせてもらうと、凄かった。私はこんなに語彙力がなかったのか?と自分で自分の頭の悪さに頭を抱えそうになったけど、この一言に尽きるという感じ。何がどう凄かったのかを言葉にする事はやはり私の語彙力では難しいのだが、人間とは思えないしなやかさで、「決まる!」と思ったボールですら、夜久を始めコートの全員がバタバタ慌てる事無く着実にボールの処理を行っていた。その姿はさながら“猫”であった。
確かに、夜久の言った通りだった。バレーの事は、見てみるのが早い。素人目で見ても、黒尾は上手かった。音駒高校全体のレベルが高い事はもちろん、それを主将としてまとめあげているのだから、信頼も実力も確かなものなのであろう。コートの内外問わずチームのメンバーの一人一人を見てテキパキと指示を出す姿は流石は主将。また、それを受けるメンバーからの信頼を感じた。そして、黒尾自身がバレーに真剣に取り組んでいる事が分かる、真っ直ぐで熱い眼差し。
純粋に、かっこいいと思った。
胸がぎゅっと締め付けられるような、熱くて苦しさを感じるような。
それと同時に、複雑な感情が私の中に渦を巻いた。
私、黒尾のあんなに真剣な表情、見たことない。
まるで、黒尾が知らない人のように感じた。
「黒尾先輩今日もかっこよかったね」
フロアを後にする前、近くで聞こえた女子生徒の声。今日“も”という、恐らく何度もバレーを観に来ているのであろう口ぶりに、何故か胸がモヤモヤする。
かっこいい黒尾の姿を見て、何で今まで観に来なかったんだろうという後悔。
恐らく割と仲が良い私が知らない黒尾の一面を、他の人が知っているという焦燥。
黒尾が知らない人のように感じた不安。
どうして自分がこんなに色んな感情を抱いているのかという疑問。
一度に色んな感情が押し寄せて、整理が出来ず、胸が気持ち悪い。
逃げるようにフロアを後にすると、ちょうど試合が終わって水道で顔を洗ったり水を飲んだりする音駒高校バレー部の姿が見えた。
そこで私は一言声をかけて帰ろうかと思ったのだが、その私の思いは、とある一言によって打ち砕かれた。
「黒尾さん!今日絶好調でしたね!」
「おー、まあな。」
「やっぱり彼女さんが来ると違いますね!」