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気が付いたら朝になっていた。
どうやって帰ってきたのかも、昨日の夜に何をしていたのかも、ご飯を食べたのかも、あまり覚えていない。

覚えているのは、音駒高校バレー部が凄かったこと、黒尾がかっこよかったこと。そして、その黒尾の活躍の原動力には、少なからず彼女の存在があったということ。

どうして私は、よく分からない感情にこんなにも振り回されているのだろうか。おかしい。これまで普通に過ごしていたはずなのに。黒尾と知り合って3年目にして、クラスメイトのとある言葉を受けて困惑し、夜久の言葉を受けて初めてバレーを観に行き、初めて見る黒尾の、想像を上回る真剣なバレー姿・・・慣れない事の連続で心がついてこない。

そして極めつけに、黒尾の彼女があの場にいたということ。

黒尾、彼女いないって言ってたじゃん。
それに、私にいつも「惚れた?」とか「付き合う?」とか言ってたじゃん。彼女がいるくせにそんな期待させるような事言わないでよ、ばか。

・・・ていうか、こんな事考えるの、私、黒尾の事、超好きじゃん。


◇◆◇



『思いっきり、いっちゃってください』




「は?え?」
『何』


おはようの挨拶も忘れ、その言葉を発しようとした口はパクパクと空気だけが漏れていた。
そんなアホみたいな顔をした黒尾の視線を横目に、自分の席に座る。


「え、ちょ、髪、えっ?」
『切ったよ』
「聞いてないんですけど」
『言ってないからね』


朝教室に入ると、私の姿を見たクラスメイトが次々に「どうしたの!?」「イメチェン?」と声をかけてきて、一気に教室がザワザワと騒ぎ出した。

練習試合の次の日、私は胸くらいまであった長い髪を、肩につかないくらいまでバッサリと切った。いつの日か、黒尾はロングヘアの女の子が好き、なんて聞いたことがあったっけな。ふとそんな事を思い出したけど、しばらく伸ばしていた髪が鬱陶しくなってきたことと、久々にショートにするのもいいかな、と前々から思っていた事もあって、失恋ついでだ、いいきっかけになった。


「なぁ、なんでショートにしたわけ?」

朝のHR。騒ぐ教室内の生徒達が席に着き、担任から連絡事項が告げられる中。先程の話の延長で、隣に座っている黒尾が頬杖をつきながらこちらに話しかけてきた。「可愛いけどさあ」と不満げに言う黒尾のその言葉に、口元が緩みそうになるのを必死に抑える。

「てか、練習試合来るなんて聞いてないんですけど」
『言ってないからね』
「連絡も返ってこねえし・・・」

土曜日、練習試合から帰宅した後。どこから聞きつけたのか、黒尾から連絡が来ていた。生憎土曜日の帰宅以降自分でも何をして過ごしたのか記憶がないくらいで、連絡に気付いたのも翌日の日曜日。その日曜日だって、気分は晴れずにどんよりとしたまま。美容室でも美容師さんと色々話をしたりしていたこともあり、連絡をしないまま、あっという間に土日が終わって今に至っている。

「あんなに誘っても来なかった練習試合に来たり、急にショートにしたり・・・どうしちゃったわけ?」 

ジト目で疑り深い視線をこちらに送る黒尾だったが、私が発した一言でその目は初めて見る大きさにまで見開かれた。

『失恋したから』
「へぇ・・・ハァ!!!???!?!?」