冷たい朝は嫌



「ん・・・」

ふと目が覚めた朝。時刻は5時30分。外はまだ少し暗い。休日の土曜日になんでこんなに早く目が覚めたんだ・・・と朝から嫌になりながら、もう一眠りしようと目を閉じる。しかし、全く眠れる気配がしない。何故か完全に覚醒している意識にため息をこぼす。もういっそ、起きてコーヒーでも淹れて本でも読む・・・最近流行りの朝活とやらでもやって、充実した休日なんて過ごしてみるのはどうだろうか。そう思った俺は隣ですやすやと寝息を立てて幸せそうにしている名前を起こさないように静かにベッドから出てリビングに向かった。



◇◆◇




「ただいま・・・って、うわ、名前?どうしたの?」

時刻は6時。コーヒー豆を切らしている事に気付いてコンビニに買いに出た俺が帰宅すると、リビングの方から名前がぼろぼろと大号泣しながら猛ダッシュで飛び込んできた。

「どうした?大丈夫?」

苦しいくらいに抱きしめて何も言わずに泣いている名前の背中に腕を回し、落ち着かせるように頭をポンポンと撫でるけれど、帰ってきたら名前が泣いているという理由や状況を俺も全然理解できていない。怖い夢でも見たのだろうか?いずれにせよ、このままでは埒があかない。とりあえずリビングでソファにでも座って彼女が落ち着くのを待つか・・・そう考え、名前をひょいと抱き上げてリビングに向かった。


「怖い夢でも見た?」

少しは落ち着いただろうか。リビングでソファに座り、なおも俺から離れようとしない名前に声をかける。

『起きたら、一静がいなくて、家中探してもどこにもいなくて、出て行ったのかと、思って』
「・・・それだけ?」

思いがけない返事に、口をぽかんと開けてしまう俺。起きたら俺が隣にいなくて?家中探してもどこにもいなくて?出ていったと思って大号泣?名前には悪いけど・・・なにそれ、滅茶苦茶可愛いじゃん。

『それだけ、って、私、どれだけ不安になったと思って・・・!』

あっけらかんと答える俺に怒ってぽかぽかと俺の胸を叩く名前。可愛い。
携帯も繋がらないし、と言われて連絡なんて来てたっけ?とポケットに手を入れるけど、そこで気付く。あれ、携帯持ってなかったっけ。

「あー、携帯持たずに行ったっぽい、コンビニ。コーヒー無くてさ、買いに言ってたの。」

コンビニ袋を掲げると、やっと名前も状況が分かったのか、大きなため息をついて俺の胸になだれ込んできた。

「心配した?」
『一静の寝てるところ、冷たくなってて、起きた瞬間心臓止まるかと思った。』
「ごめんごめん。朝早かったし起こすの悪いなと思って。携帯のことは完全に忘れてたわ。」

自分の心配と俺の謝罪とに温度差を感じたのか、名前は唇を尖らせながら俺を抱きしめる腕の力を強くする。全力で締め付けてるつもりなんだろうけど、全然苦しくないそれにまた愛しさが込み上げる。

「俺が名前を置いてこの家から出てくわけないじゃん。」

そう言って名前を優しく抱きしめる。確かに、朝起きて家中どこにも名前がいなくて携帯も繋がらない状況になったら、俺も生きた心地がしないだろうな。逆の立場だったら、と想像するだけで肝が冷えるのがわかった。名前には悪い事をした。

「コンビニ行ったら、名前が気になるって言ってたスイーツ売ってたから買ってきたんだけど、食べる?」

申し訳なさと、ご機嫌取りに。背中に回した腕を伸ばした先、袋からいくつかのプリンやら小さいパフェやらを取り出す。けれど思っていた反応・・・いつものようにパァッと花が咲くような笑顔の反応はなかった。

「あれ、もう食べた事あった?」
『違うよ、そんなの後でいいから、もうちょっと一静にくっついてる。』
「・・・くっついてるだけでいいの?」

ずるいよなあ、名前は。どれだけ可愛い事をすれば気が済むんだろう。
でも、俺はくっついてるだけでは満足なんてしないよ。
目の前には少し赤くなった目を潤ませて俺にくっついてくる名前。そんな名前の方に少し体重をかけるだけで名前は俺に組み敷かれる。自分がくっついてるって言ってそうしてたくせに、今更真っ赤な顔して、ほんと、可愛い。

時刻は6時半。土曜日はまだ始まったばかりだ。